ラグビーチーム「ダイナボアーズ」選手たちが難病児支援を呼びかける。「#優しい筋肉」プロジェクト

難病児とその家族に楽しい旅行を届けるために、クラウドファンディングで支援を呼びかけています。
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選手と難病児の出会い・交流

日本中が熱狂したラグビーワールドカップ2019日本大会。日本代表で活躍した選手が多数参加するトップリーグ(社会人リーグ)にも大きな注目が集まっている。三菱重工相模原ダイナボアーズも、そのトップリーグで日本一を目指すチームの一つだ。 

そのダイナボアーズは、2年前から難病児支援の活動にも積極的に協力。支援団体とともに「#優しい筋肉」というプロジェクトを立ち上げ、クラウドファンディングによる支援も呼びかけている。

 

■難病児とその家族に楽しい旅行の思い出を

ダイナボアーズに協力を依頼したのは、公益社団法人「ア・ドリーム ア・デイ IN TOKYO」で事務局長を務める津田和泉さんだ。 

ア・ドリーム ア・デイ IN TOKYOは、難病児とその家族を東京への旅行に招待し、サポートする団体。難病児とその家族が楽しい時間を過ごせるように、さまざまな手配をしている。年間平均10〜12組ほどをベースに、これまで88名の難病児とその家族を旅行に招待してきた。 

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東京旅行を楽しむお子さんとお父さん

「全国で約15万人を超える子どもたちが難病と闘っていると推定されます。そのなかには人工呼吸器が外せず24時間の介護が必要な、日々の外出も大変なお子さんもいます」と津田さん。 

難病と闘う子どもたちは、学校へ行ったり、友だちと遊んだり、家族と旅行に行くこともなかなか難しいのが現実だ。病気の子ども本人だけでなく、見守り、看病する家族も外出や旅行の機会が得にくい生活をしている。

そんな難病児と家族を全国から受け入れ、本人たちの希望に合わせた東京滞在の旅をオーダーメイドで計画。移動には小児科医や医療従事者がつきそい、難病児でも安心して旅行できる体制を整える。行き先は、東京ディズニーランドや上野動物園といった観光名所、もしくは憧れの人に会う、自衛隊の基地に行くなどのほか、ひたすら「新幹線に乗る」というユニークなテーマの旅もあったという。

 

■アスリートの力で難病児を支援

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ゴミ拾いなど地元での地域貢献にも熱心に取り組むダイナボアーズの選手たち

5年前にア・ドリーム ア・デイ IN TOKYOの事務局長になった津田さん。企業や団体に寄付やさまざまな協力を依頼する中で、最初に門を叩いたスポーツチームがダイナボアーズだった。 

「スポーツ観戦が好きで、試合を見ると元気が出るので、アスリートのみなさんにも難病児たちの夢を一緒に応援して欲しいと思ったのがきっかけです。ボランティアで協力をいただいていた三菱重工の社員の方が橋渡しをしてくれて、スポーツチームとして最初に協力を申し出てくれたのがダイナボアーズでした」(津田さん) 

神奈川県相模原市に本拠地を置くダイナボアーズ。以前から地元・橋本でゴミ拾いをしたり、お祭りに参加したりするなど地域貢献にも熱心に取り組んでいた。津田さんの依頼に、ダイナボアーズのGMからは「私たちに協力できることはぜひ協力させてください」という力強い言葉が返ってきたという。

 

■地元が結んだ難病児とラグビー選手の絆

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ダイナボアーズでウイングとして活躍する川上剛右選手

ダイナボアーズでは、これまで試合会場に募金箱を設置し、イベントで募金を呼びかけるなどで協力。支援してきた難病児の家族からお礼の手紙が届いたり、ダイナボアーズの試合の応援に駆けつける家族も現れたりし始めた。 

「ダイナボアーズの選手のみなさんは、難病児やその家族にとてもあたたかい気持ちを持って下さったので、みんなダイナボアーズの大ファンになってしまうんです」と津田さん。 

そんな思いに応えるかのように、この夏、ひとりの選手が自らの地元・宮崎の難病児を訪ねた。選手の名前は、川上剛右(ごうすけ)。ダイナボアーズのウイングとして活躍する25歳だ。ラグビーが盛んな九州で、小さい頃からラグビー漬けの毎日を過ごした川上選手。関西学院大学を経て、ダイナボアーズとプロ契約して3年目となる。

 

■ラグビー選手という立場を生かしてできることがあるなら

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ラグビーで鍛えたガッチリした体型とにこやかな笑顔がさわやかな川上選手

難病児と直接会うことになったきっかけは、この夏、「宮崎の難病児に贈るTシャツにサインをしてくれないか」という相談が、津田さんから川上選手に持ちかけられたことだった。 

「もともと旅行に来るはずだったお子さんが、予定していた時期に体調を崩して旅行が中止になってしまったんです。同じ宮崎出身の川上選手からサイン入りTシャツを贈られたら、励みになるんじゃないかと思って相談しました」と津田さん。 

ダイナボアーズが支援してきた難病児が九州や宮崎には多数いることを聞いていた川上選手は、快くサインに応じた。サイン入りTシャツを受け取った難病児は、お姉ちゃんと一緒にとても喜んで、その後は体調が安定しているという。

そんな喜びの声は、川上選手の耳にも届いた。

「自分がラグビー選手というだけで、そんなに喜んでくれると思わず、こちらが感激してしまいました。ラグビー選手というだけで誰かが喜んでくれるなら、その立場を最大限に生かしたいという気持ちが芽生えたんです」 

そんな折、川上選手はオフシーズンで地元の宮崎に帰省することに。Tシャツを贈った難病児の子に直接、会うことはできないだろうか。ラグビー選手としてできることは何かを自問した川上選手から、津田さんへ連絡が入ったという。

 

■実際に会うことで、わかることがたくさんある

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川上選手と病児の姉のラグビーパス練習

ちょうど難病の子の体調も安定しており、家族と一緒に緑が広がる大きな公園で対面することができた。それまで、募金の呼びかけをしたり、難病児の家族と試合後に会ったりすることはあっても、本人に直接会うのは初めての経験だった。

「本人もご家族もラグビーは詳しくないけれど、ラグビーボールに興味を持ってくれていると聞いたので、当日はボールを持参しました。お姉ちゃんと一緒にボールのパス練習をして遊んで、ご家族の日頃の思いを直接聞きました。特にご家族のご苦労は僕の想像以上で、深く考えさせられました。当たり前のことが当たり前ではないと痛感して、改めていろいろなことへの感謝の気持ちがわきましたね」(川上選手)

4歳の難病児と1つ上の5歳の姉。闘病で大変な思いをしている本人はもちろん、小さな姉の姿も印象的だった。5歳といえば、まだまだ親にかまってもらいたい年齢。しかし、その姉が率先して妹の面倒を見ているのだ。 

難病児を抱えていると、家族は物理的にも時間的にも、そして心理的にも外との関わりが少なくなりやすい。

病児の兄弟姉妹は、病児優先の生活の中で、甘えることを控えて自分を後回しにしている様子も見受けられる。そんな彼らを「きょうだい」と呼び、支援を進める動きも進んでいる。

ア・ドリーム ア・デイでは、「きょうだい」たちが思い切り自由に遊べる時間も、旅行の中に組み込んでいるという。

 

■もっと何かできることを探していきたい

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病児に会いに行った川上選手(左)と比屋根裕樹選手

難病のお子さんやそのご家族とじっくりお話をして、自分にはこの子たちのことを広める責任があると感じました。これまで以上に、もっと積極的にできることを探していきたい。例えば、チームメイトのみんなと一緒に病院を訪問することも考えたいですね。実際に会うことで感じることは、すごく大きいものがあります」と川上選手は語る。 

川上選手に先立ち、同期のスクラムハーフ、比屋根裕樹(ひやね・ゆうき)選手も地元・沖縄で難病児を訪問した経験がある。二人で難病児とその家族への思いを話し合ったりもしたという。

「たまたま自分がラグビー選手ということで難病児の力になれることがあるのなら、ぜひ力になりたい。難病の子どもたちとの交流を通して、自分がラグビー選手であることの誇りを改めて感じています」(川上選手)

 

■スポーツ×難病児支援でお互いのプラスに

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イベント会場では、選手が率先して募金を呼び掛ける

ダイナボアーズに続いて、サッカーJ2のFC琉球など、ア・ドリーム ア・デイとスポーツチームとの協力関係も増えつつある。

「両者がコラボすることで、お互いのメリットになることがたくさんあると思っています」と津田さん。 

「チームのファンの方は、難病児を応援するチームを誇らしく思えるでしょうし、難病児にも関心を寄せてくれるかもしれません。難病児が住んでいる地域のチームであれば、そのチームにとって地域貢献活動の一環にもなります。何より、自分の地元の子どもたちを応援してファンが増えることで、選手のみなさんにとって大きなモチベーションになると感じます」 

スポーツと難病児支援。お互いが協力することで、双方にファンや支援者がもっと増えていく。

津田さんは最後に笑顔で語ってくれた。 

「他のラグビーチームにも声掛けをはじめたところです。チームの垣根を越えてONE TEAMで難病児支援の輪がどんどん広がれば嬉しいです」

 

■クラウドファンディングで支援募る

ア・ドリームア・デイ IN TOKYOとダイナボアーズが取り組む「#優しい筋肉」プロジェクトでは、12月20日までクラウドファンディングに取り組んでいる。支援者にはダイナボアーズの応援グッズや限定Tシャツなどの返礼品が用意されている。詳細はこちらから

(取材・執筆=工藤千秋)