コルビジェのジェネリック家具は著作権的にどうなのか?

著作権は芸術作品を保護する法律であり、大量生産品は意匠権で保護すべきということなのですが、裁判所の判断には常にそうなるわけではありません。

「そもそもXは著作物なのか」というのは著作権がらみの裁判でよく論点になります。特に、実用目的の大量生産品が著作物になるのかが問題です。大原則は、著作権は芸術作品を保護する法律であり、大量生産品は意匠権で保護すべきということなのですが、裁判所の判断には常にそうなるわけではありません。

TRIPP TRAPPという椅子(下画像参照)の類似品に関する最近の知財高裁判決で、当該製品の著作物性を肯定する判断がなされ、知財関係者に衝撃を与えました(なお、判決では製品が類似していないことを理由に侵害は否定されました)。

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詳細はブログ「企業法務戦士の雑感」の「応用美術の「常識」を覆した新判断〜「TRIPP TRAPP」幼児用椅子著作権侵害事件・控訴審判決」等をご参照ください。

もちろん、これによって今後あらゆる工業製品が著作物と判断されるということではありません。著作物と判断されるためのハードルが知財高裁により低く設定されたということです。すなわち、上の画像のような工業製品ぽい「作品」が裁判において著作物とみなされる可能性が高まったことです。この判断の影響はそれなりにあると思います。

家具の世界では「ジェネリック家具」という言い回しがあります。販売から相当な年月が経って仮に意匠権があったとしてもとっくに切れている著名デザインの家具のコピー品のことです。家具が著作物とされなければ一応合法です(ただし、不正競争防止法上の問題はあり)。家具を著作物とみなすと、通常、著作権の保護期間は意匠権よりもはるかに長いので問題になるケースが出てきます。「ジェネリック家具」として有名なものの一つであるフランスの建築家ル・コルビジェの作品について考えてみましょう。

コルビジェは1965年没なので、仮に、コルビジェがデザインした家具が著作物と判断されようとも、2016年の正月に著作権の存続期間が満了し、パブリックドメインになりそうに思えます。しかし、ここで注意しなければいけないのは戦時加算です。戦時加算は洋楽の著作権切れで問題になることが多いですが、戦勝国の著作物すべてに及びます。コルビジェはスイスとフランスのに二重国籍なのでその著作物は戦時加算の対象になると思われます。何年加算されるかは、家具のデザインを創作したタイミングによりますが、同氏の作品として有名なLC2 Grand Comfortの場合で言えば、1928年作のようなので(参考リンク)、戦時加算がフルに(約10年)加算されてしまいます。そして、そうこうしているうちにTPPのからみで日本の著作権保護期間が70年に延長されてしまうと、2036年の正月までコルビジェ家具の著作権は切れないことになります(期間延長と同時に戦時加算撤廃が行なわれると仮定)。

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さらに言えば、MOMAの情報によると、LC2 Grand Comfortには、コルビジェに加えてPierre Jeanneret(1967年没)とCharlotte Perriand(1999年没)がクレジットされているので、3者による共同著作物と判断されれば、TPPや戦時加算は関係なしに、最後に亡くなった著作者の死後50年まで著作権が存続しますので、どちらにしろ2049年以前に著作権切れにはなり得ません。

もちろん、コルビジェの家具が著作物とされるかどうかは実際に裁判しないとわかりません。ただ、前記のリンクにあるように、LC2 Grand ComfortはMoMA(ニューヨーク近代美術館)に所蔵されているくらいの作品なので、著作物と判断される可能性はあるでしょう。既に持っている家具を自分で使う分には問題ないですが、「ジェネリック家具」(特にデッドコピーに近いもの)の販売ビジネスについてはちょっと不透明感が増したと言えます。

強力かつ存続期間の長い権利が登録もなしに発生してしまう現在の著作権制度は、こういう境界線が微妙なケースでは特に不都合が多いですね。

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(2015年4月21日「栗原潔のIT弁理士日記」より転載)