「専門家」の男女比に配慮してますか? 医師と元テレビ局員が報道関係者にアンケートをした理由

アンケートを実施した2人は、女性の専門家と報道機関を結ぶプラットフォームを作れないか検討している。
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古賀林観さんと大倉瑶子さん(左から)
AKIKO MINATO/HUFFPOST JAPAN

報道に出てくる「専門家(識者)」や「コメンテーター」に、女性が少ないのではないかーー?  

そんな疑問から、医師と元テレビ局記者が、報道関係者にアンケートを行った。 アンケートの結果、「専門家やコメンテーター等の男女の比率を考えていない」という回答が約7割に上った 

なぜ、2人はこのような調査をしたのか。思いを聞いた。 

 

■テレビ局での経験 「時間に追われ…」

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大倉瑶子さん
AKIKO MINATO/HUFFPOST JAPAN

調査をしたのはアメリカのハーバード大学公衆衛生大学院の博士課程で社会疫学を研究する古賀林観(はやみ)さんと、元テレビ朝日記者で国際NGOで働く大倉瑶子さんの2人だ。2人は同時期にハーバード大学大学院の修士課程に在籍したことから知り合った。 

2人がこの問題に関心を持ったのには、アメリカでの経験が影響している。 

大倉さんは留学をするまで、テレビ局で報道の仕事をしていた。大倉さんは、ニュースに出演する専門家を探していた時のことをこう振り返る。 

「放送までの限られた時間の中では、新規開拓は放送に間に合わないというリスクにつながりかねない。いつも時間に追われ、こちらの事情を分かってくれる『以前から出演してくれている識者』に声をかけていた。結果的に長くメディアに登場し続けている男性に出演してもらうことが多かった」 

しかし、ハーバードの授業では、指導側が「マイノリティーは意見を言い出しにくい傾向がある」ということを前提に、様々な人種やジェンダーの生徒が意見を言えているかどうかに配慮していた。

異なるバックグラウンドを持つ生徒から新しい視点を引き出し、授業の議論を活性化しようとする姿勢を目の当たりにし、「組織として必要だと思えば、多様な人材を探そうとするはずだ」ということに気が付いた 

 

■なぜ、女性医師は「女医」と表現されるのか

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古賀林観さん
AKIKO MINATO/HUFFPOST JAPAN

古賀さんはアメリカに来て、日本の医学部と比べ、教授陣や医師の女性の割合が多いことに驚いた。そこから、日本での医師のイメージについて考えるようになった。 

「日本のメディアでは、男性医師については『男医』とは言わないのに、女性医師には『女医』という言葉が使われることが多い。日本の病院で働いていたとき、『女医さん』と呼ばれることは日常の一部だった。日本では『医師=男性』の意識がまだ強いからではないか。メディアの発信の『影響』も気になるようになった」 

こういった「気づき」を2人は何度も話し合い、こういう考えに至った。 

「メディアは世論に影響を与えるので、一つの問題を扱う時に、多角的な視点を求められるのは当たり前のことであるべき。報道に登場する『識者』や『コメンテーター』は比較的男性が多いが、女性の登場も増やすことで、多様な意見を伝えるきっかけにできるのではないか」 

2人は、講演者やパネリストを探す側と女性の専門家を結ぶアメリカの団体「Innovation Women」の助言を受け、報道機関に対するニーズ調査を行った。 

 

■アンケート結果

報道関係者向けのアンケートは2019年6月にインターネットで行った。110人以上から回答を得た。回答者の約66%が女性で、半数が30代だった。勤務先媒体は、テレビが48%、新聞が30%、ネットが17%。 

「メディアにおいて専門家・コメンテーター等に女性が少ない原因はなぜだと思いますか(複数選択可)」という質問では、下の回答が多かった。 

・男女の比率をそもそも考えていない 68% 

・適切な女性(専門家等)を知らない 43% 

「女性専門家・コメンテーター等への取材について、当てはまると思うものを、すべて選択してください」という問いに対しては、下の回答が多かった。 

・出演・出稿経験がある人の方が安心のため、新しい人はリスクと感じる 44% 

・女性を起用したいが、見つからない 34% 

「所属部署に、専門家・コメンテーターのデータベースはありますか」 

という問いに対しては、「いいえ」が6割にのぼった。 

これらの結果から、「新しい専門家・コメンテーターを起用したいという考えがメディア側にあり、改善の余地がある」と感じられたという。 

 2人はこう話す。 

 「『そもそも女性の専門家が少ないから仕方ない』という声もあると思うが、アメリカではポリネシアの少女が主人公のアニメ映画『モアナと伝説の海』や、スーパーヒーローが女性の『ワンダーウーマン』や『キャプテン・マーベル』など、意識的に『ふつう』を変え、多様性を実現しようとする取り組みが始まっている」

「ニュースにおいても、イギリスのBBCは『50:50プロジェクト』という、女性の出演者を増やすための取り組みをおこなっている。メディアが『仕組み』を変えることで、社会にある『ふつう』を考えるきっかけにできるのではないか 

「今回の調査で、テレビの報道関係者にヒアリングしたところ、同じ高齢男性ばかりを起用することで、若者のテレビ離れを助長するのでは、と危惧する声が多かった。多様性への取り組みは、メディア側にとってのメリットもあるはずだ」 

2人は今後、識者のデータベースを作るなど、女性の専門家と報道機関を結ぶプラットフォームを作ることができないか検討していくという。