医学部入試差別から考える…ジェンダーギャップ指数110位の日本

毎年ジェンダーギャップ指数が発表されるたびに、頑張っている女性たちがため息をつく。
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Woman power and leadership in today's human resources
3dts via Getty Images

先日発表されたジェンダーギャップ指数、日本は149カ国中、114位から110位へ。しかし少しぐらい順位が上がったところで、G7の中で最低、G20内においても16位で、日本よりも順位が低いのは韓国、トルコ、サウジアラビアであった。

上智大学の三浦まり教授によると「政治(125位)と経済(117位)」の女性参加の圧倒的な低さが足を引っ張っているという。

教育(65位)、健康(41位)は、スコアは悪くないが他の国も高いので、政治と経済のジェンダーギャップが解消しないと、順位はあがらない。日本は依然として先進国にもかかわらず「男女平等が進んでいない国」であり、ポーラのCMでうたわれていたように「女性にとっての後進国」なのだ。

女性は入試段階で差別されていた

毎年ジェンダーギャップ指数が発表されるたびに、頑張っている女性たちがため息をつく現状がある。今年はさらに多くの女性たちを「絶望」させる出来事があった。ジェンダーギャップ65位の教育の分野でも重大な女性差別があることが、昨今の医大における入試の女性差別で明らかになったのだ。

どんなに女性活躍の後進国といえど、「教育の機会は平等にある」はずなのに、それが根本から否定されたのが、今回の入試差別である。

東京医大が男性の受験者に「加点」して、合格する女性の数が少なくなる様に調整していた。この問題を受け、文科省は過去6年間の医学部の入試を緊急調査。81大学中、6割から7割の医学部で男性のほうが多く合格している。

文科省は「不適切な入試を①合理的な理由なく、成績の順番を飛ばすなどして特定の受験生の合否判定をすること②性別や年齢、出身地域など属性を理由として一律的な扱いの差をつけること、と定義。この基準に照らして、東京医科大、昭和大、神戸大、岩手医科大、金沢医科大、福岡大、北里大、順天堂大、日本大の入試方法は「不適切」とした」と発表している。

この調査結果を詳細に見てみよう。最初に男性への加点が判明した東京医大は男性より女性の合格率が低く、スコアは1.29 。女性の合格率が高いと1.0以下になる。釈明の記者会見をした順天堂大は1.69という異状な数値だった。ブラインド入試(年齢、名前、性別)を行っている弘前大学は0.75で女性合格者率が高い。

ちなみに順天堂大の説明が「女子のコミュニケーション能力が高いため男子の点数を補正した」としたことで、さらに「がっかり」感が広まった。順天堂大は第三者委員会に根拠となった論文を提出したが、そもそも医者になるならコミュニケーション能力が高いほうがいいはずで、それで落ちるのは不合格の女性たちは絶対に納得がいかないだろう。

コミュ力問題だけでなく、根強く残る「最初から男性を多く合格させると公表しておけば問題はない。私立なのだから」という意見はどうなのか?「女性は医者になっても、結婚や出産で途中で辞めるから、女性医師が多くなると医療現場が崩壊する。だから差別は仕方がない」という謎の理論が、マスコミの間でもまことしやかに論じられたのも、多くの女性をさらに絶望させた。

日本の医療現場はギリギリで、現場の医師からも「東京医科大学の女子一律減点に「理解できる」「ある程度は理解できる」とした医師は65.0%」というアンケート結果があがっている。課題は「医療現場に必要なのは根本的な働き方改革」としながらも、実際に一人でも人員が減ったら周りの人にしわ寄せがくると理解しているからだ。(女性医師のワークライフを応援するWEBマガジン「joy.net」を運営する株式会社エムステージ)

この論調に反論するシカゴ大学の山口一男教授の論考が明快であった。「教育基本法4条において(教育の機会均等) すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない」

さらに山口教授はOECD諸国の中で日本の女性医師の割合が最下位と低いことも指摘している。他国は「医療現場は崩壊」していないので、そのように感じられるとしたら「女性のせいでなく、医療現場の医師の長時間労働が限界である」ことを示唆している。

「結婚や子育てはどうするの?」という質問を女子学生だけが面接でされるという実態も報道されている。この質問を今企業の面接でしたら「セクハラ」と言われる。医学部受験生のネットの書き込みでは「結婚しません。医師の仕事に邁進します」と答えて受験を乗り切ったと報告する女性がいた。なぜ女性だけが「結婚しない」と表明しないと医者になれないのだろうか? 

学生からの声を無視しない

現状は現状として、それを理由に差別を正当化する声に対しては、当の学生たちからも声があがっている。

筑波大医学学群6年の山本結さん(24)は「理由をつければ正当化できる問題なのか。どんな背景であっても差別であることに変わりはない。背景として言われるような長時間労働などはまた別の手段で改善すべき問題だ」と述べた。  山本さんら現役の医大生グループが、「入試差別をなくそう!」と呼びかけ、ネットで署名活動をした。2週間ほどで集まった署名は約1万5000人分を12月18日、文部科学省に提出。記者会見では「「私たちは力のない学生だが、たとえ小さい声でもおかしいと声をあげなければ永遠に解決しない」と述べた。(弁護士ドットコム)

このままでは女性が医師を目指そうとしても、親から「どうせ合格できないから、医者なんてやめておきなさい」と言われる女子学生が増えるのではないだろうか。

三浦まり教授によれば先進国の中では珍しく、大学に進学する女性の数も、男性より少ない。先進国ではどこも大学進学率は女性のほうが高いのだ。

2018年の男女共同参画白書を見てみると、長期的に女性の進学率は改善している。しかし、他国も同様にさらに改善しているので、日本はどんどん取り残されている。

「高等学校等及び専修学校(専門課程)への進学率は,女子の方が高くなっているが,大学(学部)への進学率は,女子49.1%,男子55.9%と男子の方が6.8%ポイント高い」

また大学院(修士課程)の割合は、31.0%,大学院(博士課程)は33.4%で、「研究者」も少ない。OECDのデータでは最下位で(平成29年3月31日現在で15.7%)ビリから2番目は韓国だ。

差別は差別として徹底的に追求、そして是正してほしい。教育の機会均等違反を文科省が放置してはいけない。医師の働き方自体の見直しや「医療のかかり方」の見直しは現在政府で検討されている。(「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」等)

 まずは根本の『差別は差別でいけないことだ』という姿勢を、女性活躍をうたう政府ははっきりと示してほしい。すでに多くの働く母親たちは「この国で子どもを就職させたくない」とはっきりと口にしているのだから。

*2019年1月11日付 Japan Times 掲載の「Japan an underdeveloped country for women」を翻訳、転載。