「それってみんなの問題だよね」LGBTQの報道で、NHK制作者がジェンダーバイアスに着目するわけ

6月11日のNHK「クローズアップ現代+」は、「ジェンダーバイアス」について考える。「バイアスを取り払えば、誰にとっても暮らしやすくなるんじゃないか」
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NHKの柳田理央子ディレクター(左)と曽我太一記者
HUFFPOST JAPAN/AKIKO MINATO

6月11日の「クローズアップ現代+」(NHK、午後10時)では、社会や個人の中にある「性のバイアス(偏見)」を取り払うことで、セクシュアルマイノリティ(LGBTQ)も「生きやすい」社会になるのではないかという視点での放送をする。番組内ではスウェーデンの幼稚園や、日本の学校での生徒たちの取り組みなどを紹介するという。

LGBTQに関して報じる際に、なぜ「ジェンダーバイアス」に着目したのか。

企画の中心となっている、記者の曽我太一さん(取材センター国際部)とディレクターの柳田理央子さん(報道番組センター社会番組部)に話を聞いた。

■「性のバイアス」を取り払うことで「誰にとっても暮らしやすく」

ーー「ジェンダーバイアス」という切り口で番組を制作したのはなぜでしょうか。

柳田 性的マイノリティについての番組はこれまでもたくさんあったとは思うんですが、「当事者」と「そうじゃない人たち」みたいな分かれ方になってしまっている部分もあると思うんです。しかし、「性のバイアス」ということで考えると、全ての人が当事者なんじゃないかなと私は思っています

 私も「女らしくしろ」とか言われることが嫌だと感じますし、LGBTの人たちはもっと辛い思いをしているかもしれない。そういったバイアスを取り払えれば、性的マイノリティの人たちだけでなく、みんなにとってもハッピー。「それってみんなの問題だよね」というふうに考えられるんじゃないかと思いました。

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NHKの柳田理央子ディレクター
HUFFPOST JAPAN/AKIKO MINATO

曽我 2018年8月ぐらいにLGBTに関する企画を提案し、そこから議論をしてきました。LGBTの人たちが暮らしやすくなるためにはどうしたらいいのかを考える時に、当事者の声を拾うだけではなく、「壁」になっているものを取り払うことを考える番組にしようということになりました。

議論をし、その「壁」が「性のバイアス」なんじゃないかという考えに至りました。「男の子はこうあるべき」「女の子はこうあるべき」「男性同士の保護者というのは、おかしい」というような「男性と女性の役割」みたいなものが染み付いていると思うんですよね。

そういったバイアスを取り払えば、LGBTの人たちだけじゃなく、誰にとっても暮らしやすくなるんじゃないかと考え、「性のバイアス」にフォーカスすることになりました。

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NHKの曽我太一記者
HUFFPOST JAPAN/KAORI SASAGAWA

■子どもたちが気づいた「当たり前が苦しい人もいる」

ーー今回の放送に向けて、どういう取材をされたのですか。曽我さんは海外、柳田さんは国内の取材を担当されたんですよね。

曽我 スウェーデンで、幼稚園に取材に行きました。そこで先生が言っていたのは、「バイアスを作らないような教育をすることで、違いを理解できる大人に育っていくんです」ということでした。幼稚園では、”お父さん2人と子ども”というファミリーの絵本を、子どもたちに読み聞かせたりするんです。家族が多様であることを、子どもたちはすんなりと受け入れられる。

LGBT専用の高齢者住宅や、インクルーシブな老人ホームにも取材に行きました。老人ホームでは、入居の希望がきた時に、「旦那さんはいますか?奥さまはいますか?」ではなくて「パートナーの方はいますか?」という聞き方をするように変えたと聞きました。それはバイアスを取り除く一例だと思います。

僕も「奥さんいるの?」と聞かれますが、それって「男性が付き合ってる人は女性だよね」というバイアスに基づいて声をかけているわけですよね。今回の取材を通じて気がつきました。

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NHK「クローズアップ現代+」

柳田 取材した学校の高等部の生徒たちは、性的マイノリティのお友達がいたことから、「LGBTについて知ろう」という活動を始めました。その活動の中で「僕たちが今まで『あたり前』だと思っていたことに苦しんでいる人もいるんじゃないか」ということに気づいた。

その学校には、男の子たちは坊主にしなければいけないという決まりがありました。これまで何度も「僕は坊主が嫌だ」という訴えはあったそうですけど、今回、生徒たちは「嫌な人もいるだろうから変えた方がいいんじゃないか」という「多様性を認めようよ」という訴えをした。学校の方も、今までの議論とは違うなということで、全体で考え、決まりを変えたんです。

■放送としてのダイバーシティを保っていく

ーーこの特集の取材を経て、制作者として、今後取り組まれたいと考えたことはありますか。

柳田 今回、子どもたちを取材して、はっとさせられることが私自身もありました。高校生たちが、「性別や性的指向の違いがなんでことさらに強調されるんだろうな」「サッカー派かバスケ派かぐらいの感じになればいいな」と言っていた。

この子たちが大人になった時の社会は、今より生きやすい社会になるだろうなと感じました。そういうことを、そこはかとなく感じられる番組を作れればと思っています。

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NHK「クローズアップ現代+」

曽我 放送のダイバーシティみたいなもの、いろんな内容を出していくことが大事だと思うんですよね。マジョリティだけじゃなく、マイノリティのことも取り上げる。放送としてのダイバーシティを保っていく・出していくことは大事かなと思います。

「クローズアップ現代+」は、毎週火・水・木曜の午後10時放送。キャスターは武田真一。

11日の番組では、取材VTRを放送するほか、スタジオに安渕聖司さん (アクサ生命保険・社長)と北川わかとさん (笑美面・LGBTキャリアアドバイザー)を招いて議論をする予定だ。