台湾で24日、同性婚をめぐる国民投票が行われ、同性婚反対派の提案が賛成多数となった。
2017年5月の台湾の最高司法機関「大法官」の解釈により、来年5月までに同性カップルも婚姻が可能となることは確定している。今回の国民投票により、その方法は既存の民法の改正ではなく、新しく法律を作ることに限定されることとなった。
国民投票の経緯を振り返る
台湾の憲法裁判所である大法官が、「同性どうしの婚姻を認めていない民法は違憲」「2年以内に民法を改正するか、新しい法律を作らなければならない」という判断を下したのが2017年の5月。
そこから約1年半、国会で同性婚を認める法案審議は進まなかった。その理由は、国民投票と同日に行われた「統一地方選挙」を見据えてのことだったと言われている。
与党である民進党にとって、賛否の分かれる同性婚の議論を進めることは、台湾の22の県や市の首長を選ぶ統一地方選挙の結果に悪影響が出る可能性があると考えられたからだ。
大法官解釈があるため、2019年5月に同性婚はできるようになることは決定している。しかし、それでも婚姻を男女間のみにとどめたいと願う同性婚反対派は、この間に、せめて民法の改正を阻止しようと「国民投票」の仕組みを使って同性婚に反対することを試みた。
反対派「民法の婚姻は男女間に限定、同性婚は別の法律で規定すべき」
反対派が提出した国民投票案は3つ。「民法で定める婚姻は男女間に限るべき」「同性婚は別の法律で規定すべき」、そして「義務教育でLGBTについての教育は行うべきでない」という内容だ。
台湾では一定の署名を集めれば国民投票を実施することができる。同性婚反対派の提案に対抗するため、賛成派も2つの国民投票案を提出した。
1つは「民法を改正し、同性間と男女間の婚姻を平等にすべき」、もう1つは「義務教育でLGBTを含む性の多様性について学校で教えるべき」という内容だ。
国民投票案の成立には、有権者の4分の1以上の賛成票を集め、さらに反対派の票を上回る必要がある。今回、同性婚やLGBT教育を問う5つの案を含む計10件の国民投票、さらには統一地方選挙も重なり、有権者にとっては複雑な投票行為となった。そのため、国民投票はいずれも成立するのが難しいのではないかと言われていた。
しかし、蓋を開けてみるとその結果は厳しいものとなった。
同性婚反対派の案が賛成多数
24日の投開票の結果、同性婚やLGBT教育をめぐる国民投票案の5件全てで、反対派の得票が容認派を上回った。
同性婚反対派の「民法で定める婚姻は男女の間に限るべき」という提案は700万以上、「同性婚は別の法律で規定すべき」という提案は600万以上の賛成票を集め、かつ得票数が有権者の4分の1以上という基準を超えてしまったのだ。
さらには、同性婚賛成派の「民法を改正し、同性間と男女間の婚姻を平等にすべき」という提案は300万の賛成票しか得られなかった。
※国民投票案の日本語訳は「にじいろ台湾」を参考
※投票結果の詳細はこちら
反対派への賛成が多かった要因のひとつとしては、反対派が行ったキャンペーンにあると言われている。運動の中心となったキリスト教系の団体は、その莫大な予算からCMや新聞の広告などで民法改正による同性婚を阻止しようとした。
また、国民投票と同時に行われた統一地方選挙では、与党・民進党が大敗。首長数が改選前と比べて半減した。責任をとって、蔡英文総統は民進党党主席を辞任することとなった。
国民投票の結果はどう影響するのか
繰り返しとなるが、大法官解釈により、台湾で2019年5月までに同性婚は可能となることは確定している。しかし、その方法は民法の改正ではなく、新しい法律を作ることに限定されることとなった。
では、新しい法律はどんな内容のものになるのだろうか。
台湾法に詳しい明治大学の鈴木賢教授によると「もし、民法の改正によって同性婚を認めれば、異性間と同性間も同等なものと位置付けられるはずでした。しかし、新しい法律を作る場合、その内容によっては、例えば養子縁組や生殖医療によって同性カップルが子どもを持つことができるかどうか等で制限されてしまう可能性もあります」。
「あくまで婚姻は男女間のもので、同性間の婚姻は別物である」という同性婚反対派の思惑が反映される結果となり、今後反対派は、新法についてもより権利を制限する方向へ働きかける可能性もある。
そもそも大法官が定める2年という期限に対し、残された時間はあと半年。もし新法の制定が間に合わなかった場合、憲法解釈によって今の民法のまま、暫定的に同性婚ができるようになる可能性もあるという。
さらに今回の国民投票では、義務教育でLGBTを含む性の多様性を教えることに反対する案も、賛成多数となってしまった。
台湾では、2004年に制定された性別平等教育法で、性的指向や性自認に関する差別を禁止している。今回の国民投票はどう影響するのだろうか。
鈴木教授は「今回の国民投票によって否定されたのは、LGBTに関する教育を小中学校の義務教育で行うことです。しかし、その教育の内容自体ははっきりしていません。それでも、この国民投票の結果によって教育現場は萎縮し、性に関する教育は後退を余儀なくされるでしょう。その意味ではかなり打撃になってしまうのではと思います」。
同性婚をめぐる台湾のこれから
今年の10月に台北で開催された、アジア最大級と言われる台湾のプライドパレード「台湾同志遊行」には、国内外から約13万人が参加した。台湾では2004年の性別教育平等法に加え、2008年の性別就業平等法によって、教育や就労の領域で性的指向や性自認に関する差別を禁止している。
このように、アジアの国々の中で特にLGBTの権利や社会的受容が進んでいると言われている台湾でも、反対派の運動との戦いは未だ続いている。
そもそも、マイノリティの人権にかかわる問題を「国民投票」という方法で決めることに疑問を持つ声もある。性の多様性についての適切な知識を持っておらず、偏見がある人もいる中、同性婚を「認める/認めない」と、あたかも権利を制限できてしまうような問いかけをすること自体に、疑問を感じざるを得ない。
国民の政治に対する関心が高い台湾だからこそ、国民投票に多くの票数が集まるというのは非常に望ましいだろう。しかし、大きな資本を背景に、少数者の権利が制限されてしまう方向へCMやキャンペーンが打たれ、結果的に今回のような結果になってしまうことは残念に思う。
国民投票の翌日、台湾の高雄市で行われたプライドパレードには過去最高の約2万人が参加した。
パレードに参加した鈴木教授は「国民投票の結果が思わしい結果にならなかったので、気落ちした雰囲気でした。でも、諦めないで戦い続けることを誓い合う言葉で溢れた自由で伸びやかな良いパレードでした」と語る。
今回の統一地方選挙では、台北市議会にレズビアンであることをオープンにしている「苗博雅」氏が当選するなど、LGBTの議員も少しずつ増えてきている。台湾の醤油メーカー「金蘭醤油」がレズビアンの家族を描いた同性婚応援CMを放映し日本でも話題になった。
台湾の同性婚をめぐる動きはこれで終わりではない。今後、果たして同性カップルの法的権利をいかなる法律で保障するのか、また、LGBTや性の多様性を義務教育で教えることがどのように変化するのか、注目していきたい。
(2018年11月26日fairより転載)