夏休み、共働き家庭の子どもはどうしてるの? フランスの「学童保育」が参考になる

学童保育も手ぶら通園、お弁当はなし。
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Junko Takasaki
学童保育の移動は市が所有するミニバス2台で行い、移動が数時間に渡るときは大型バスを市がレンタルするという。(フランス・ジョワンヴィル市で撮影)

フランスでは、学童保育の登録にあたり、保護者が働いているかどうかは問われない。

そう聞いて、あなたはどう思うだろう? 長い夏休みは特に、子どもの生活が学期中とは大きく変わる。その居場所や過ごし方は、仕事の有無に関わらず、親の大きな関心事だ。

保育園と地続きにある子育ての課題として、日本では今、小学生の学童保育が議論されている。数の不足、質の不均等、働く人たちの待遇など、保育園と同じような問題を抱えている。

先進国の中でも高い合計特殊出生率1.88(2017年)を維持し、家族政策の充実が知られるフランス。安全管理を徹底しつつ保護者と保育士に配慮した保育園のあり方は見るべき点が多く、ハフポストでも数回に渡りレポートしてきた。

保育行政の先進国フランスでは、学童保育はどうなっているのだろう? 保護者の負担は? パリ郊外の公立幼稚園・小学校に二人の子どもを通わせるライターの髙崎順子が、夏休みの学童保育を訪れた。以下は、そのレポートだ。

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Junko Takahashi
住宅地の一角にある保育学校。園庭は奥まった場所にあり、木に覆われた日陰に作られている。

通い慣れた学校で、いつものスタッフと

パリから電車で20分ほどの郊外にあるジョワンヴィル・ル・ポン市(以下ジョワンヴィル市)。首都圏で働く世帯に人気のベッドタウンだ。

筆者はここで長男を市立小学校に、次男を3〜6歳の子供が通う公教育施設の市立保育学校に通わせ、ともに校内に併設された学童保育を利用している。学童保育は、平日だけでなく夏休みなどの長期休暇中も通うことができる。

子どもたちは不平不満を一切言わず、楽しそうに学童保育に通っている。お弁当などの持参物もなく、親としてはありがたいことこの上ない。実際の活動内容を知るため、7月最終週、取材を兼ねて見学させてもらった。

最初に訪れたのは、プティ・ジブス保育学校。校内の2部屋が学童施設として確保されており、必要に応じて、図書室も使って良いことになっている。

フランスの学童保育は、開設には県の認可が必要で、市町村(全体の約7割)もしくは非営利団体(約3割)が設置・運営している。ジョワンヴィル市の場合は、市が運営しており、12の保育学校・小学校の全てに「学童センター」が併設されている。

フランスの学童保育は「余暇センター(Centre de loisir)」が正式名だが、記事では日本の一般呼称に沿って「学童センター」と訳す。

夏休み中の7〜8月、学童センターは60〜80人の児童向けに午前8時〜午後6時半まで開設。申し込みは日単位で、この日は年少21人、年中15人。年長17人の計53人がいて、9人のスタッフで対応していた。「6歳以下の児童8人につきスタッフ1人」という、国の配置基準を上回る体制だ。

スタッフは学期中の放課後学童のときとほぼ同じで、子どもたちにはお馴染みのメンバー。全員が児童活動関連の国家資格を持っている。

ジョワンヴィル市では、学童保育スタッフ約130人を市役所の職員として雇用しており、そのうち8割が市の住人。スタッフと子ども達は街中でもよくすれ違う、ご近所さんの関係だ。

学童保育も手ぶら通園

「せっかく来てもらったけど、すぐ出かけますよ! 今日は週に1回の園外活動の日なんです」

迎えてくれた施設長オセアンヌ・ハジドさんが、子どもたちを整列させながら言う。今日の活動は、市内にある別の学童センターとの合同オリエンテーリングだ。

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セシルさん(左)と保育学校学童施設長オセアンヌさん(右)と。ともに17歳で児童関係活動の基礎資格を取り、その後ステップアップした。

この日の最高気温は33度。センターで用意した揃いの帽子を児童らに被せ、スタッフは救急セットと霧吹きを携帯する。気温が高いので、まだ体力のない年少組は園内活動に変更となった。

週4日の園内活動では、給食やお昼寝といった生活リズムを重視しつつ、工作や音楽、読み聞かせなどの文化活動のほか、夏季のみ園庭に備える仮設プールでの水遊び、かけっこやボール遊びなどの運動で過ごす。

その内容は週ごとに変わるが、天候と児童の状況次第で柔軟に変更することになっている。

活動は午前・午後で区切られ、それぞれに自由時間と団体活動を1回ずつ。自由時間は1時間半、団体活動は2時間とのんびりペースだ。自由時間では、パズルやお絵かきセット、おままごと、ミニゲーム、絵本などを置いた部屋に導き、思い思いに遊ばせる。

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学童保育室。雨の日は学校の授業で使われることも。学校教員(国家公務員)と学童スタッフ(自治体職員)は互いに専門性を尊重しあう。

昼食・おやつ・飲み物(水)は学童センターが支給する。保護者にはお弁当、水筒などの持ち物はない。「衛生管理の点もありますし、みんなが同じものを食べることが大切だから」とオセアンヌさん。基本は施設内の給食室で食べるが、園外活動の日はサンドイッチなどのお弁当でピクニックをする。

フランスの保育園は「手ぶら登園」がスタンダードだが、これは学童保育でも共通している。夏は水着、タオル、日焼け止めを保護者が週の初めに持参するが、1週間は学童センターに預けっぱなしだ。その間の水着とタオルのすすぎ・乾燥は、センターでやってくれる。

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市営公園でのオリエンテーリング。スタッフはみな赤い救急袋を持っている。

小学校学童では「尊重」を学ぶ

「保育学校の学童センターは今日ピクニックなので、昼食は小学校で摂りましょう。いつもの給食室で食べていますからね」

市の学校周辺活動局長ハキム・アラルさんの申し出で、パリシー小学校に移動する。6〜11歳までの児童40〜60人が参加する学童センターだ。

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学童保育の移動は市が所有するミニバス2台で行い、移動が数時間に渡るときは大型バスを市がレンタルするという。

小学校学童は、1日のリズムや仕組み、施設の使い方はほぼ保育学校の学童センターと同じだが、人員配置が「児童10人につき1人」となる。また小学校学童はより自律性が高く、活動内容も柔軟だ。

例えば昼食は12時〜13時半の間で好きな時に給食室にやってきて、リストに自分でチェックマークを入れ、セルフサービスする。ゴミ分別などの片付けも各自だ。

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小学校学童給食...前菜・メイン・チーズ・デザートとパンが基本の構成。どんな料理も「一口味見をすること」を勧めるが、無理強いはしない。この日はソーセージとレンズ豆のメインに、メロンとカマンベールチーズ、チョコレートクリームがついた。

団体活動についても、月曜日の午前中に「会議」を行い、スタッフが提案するどの活動に参加するか、自分で考えて決めさせる。「演劇」なら題材はスタッフが提示するが、配役や衣装を児童たちで考え、舞台装置も手作りする、と言った具合だ。スタッフが枠組みを示し、「できること」と「できないこと」を明確にする。

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小学校の学童プール:水泳監視員資格を持つスタッフが管理。目的は泳法を学ぶことではなく、水の中で楽しむこと。小学生のプール活動は監視員1人につき1回20分・児童8人、合計児童40人までと決められている。

「小学校学童で大切なのは『尊重』を学ぶことです」

施設長のセシル・ティオリエールさんが言う。学童保育やサマーキャンプで20年の職歴を持つ、校外児童活動のベテランだ。17歳で取得できる基礎資格から始まり、施設長資格のほか各種専門研修を積んでキャリアアップしてきた。

「学童センターでは、学校のヒエラルキーである『勉強のできる・できない』は関係ありません。様々な遊びを通して、それぞれの子どもが自分の得意分野を発見できる。『勉強はできないけど、これは得意なんだ』と自尊心を育む姿が見られるのは、この仕事の喜びですね」

「ここでは、先生でも保護者でもない大人と過ごしながら、団体行動を学びます。なぜこの大人の言うことを聞かなくてはいけないか? それはここがみんなで過ごす場所で、この大人がリーダーだからと、公共の意識を持てるようになるんです」

副施設長のイブラヒム・シラさんはそれを「人生の教育」と言う。

「使ったものを片付ける。壊したものを直す。当たり前のようですが、学ばなければできないことです。保護者と連携しながら、教室以外の場所で『誰かと生きること』を身につける。それが学童保育の役割なんです」

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小学校学童制作物...壁装飾は絵画・創作活動の一環で、児童とスタッフが共同制作する。

学童保育は託児所ではない

ジョワンヴィル市の学童保育は、保護者が希望すれば児童は誰でも参加できることになっている。

長期休暇中の学童の保護者負担は、一人1日5〜13ユーロ(昼食・おやつ込み)。1日の経費総額は児童1人あたり30〜50ユーロで、うち5割は必ず市が負担し、約1割は国から補助金がある。

放課後学童には国の補助がないが、希望者が全員参加できて、経費を応能負担する仕組みは同じだ。

学童保育の登録にあたり、保護者が働いているかどうかは問われない。その理由を問うと、副市長アレスキー・ウジャブールさんは単純明快に答えた。

「託児所ではありませんから」と。

「学童保育は、各市町村の権限で運営されるので、市政によってあり方が変わります。うちの市での定義は『学校と家を繋ぎ、児童の生活リズムを整える場所』。加えて、どんな世帯の子にも、スポーツや文化活動の機会を与える社会福祉政策を担っているんです」

「保育手段を提供するので親支援の側面はありますが、まず何よりも、子どもたちのための場所。託児所と言われたら、市長も私も怒りますよ!」

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学校周辺活動局長のアラルさんと(左)、副市長ウジャブールさん(右)。よく学童イベントに顔を出すため、子どもたちにも知られている。

前述の通り、約130人雇用しているスタッフは、児童活動関連の国家資格か免状の持ち主。問題行動があると国の資格保持者データベースに記録が残り、児童との接触を禁じられる場合もある。資格・免状保持者を雇用するのは適性や能力の保証といった部分もあるが、犯罪未満の前歴を把握する意味もあるのだそうだ。

学童保育スタッフの平均月給は約19万円(Indeed社調べ)。高給ではないが、市の正規職員としての安定した雇用である。

スタッフ全員に市の理念を伝えるために、市はスローガンを決めている。「学童スタッフは児童の身体的・道徳的・情緒的安全を担保する責任がある」。保育学校や小学校で話を聞いたとき、どの施設長もそのスローガンをさらっと口にしていたのが印象的だった。

民間を国が後押しし、質を底上げする

ジョワンヴィル市の学校・学童環境は近隣でも評判が良く、人口1万8千人強の小さな市ながら、パリからの子持ち世帯の転入者が多い。約1900人の3〜11歳就学児童のうち、600人が放課後学童を定期利用している。

筆者の周囲の保護者も概ね満足で、安全性や環境、児童の満足を疑問視する声はほとんど上がっていない。意見は「学期中の放課後活動がもうちょっと充実するといいのでは」など、質のブラッシュアップを求めるものがほとんどだ。

その状況を、副市長は「フランスのベストではないけれど、整っている方」と分析する。そして各自治体は今後、学童保育の充実に力を注いで行くだろう、と。

マクロン政権の国家教育省が児童の生活時間の見直しに力を入れ、その重要なひとときとして、週の中休みである水曜日の学童保育への補助金拡大を打ち出した。

休みの日の過ごし方に現れる、世帯格差の是正も大きな目標の一つにある。スポーツ省、文化省と協同して「水曜日計画」と銘打ち、学童保育の充実を各自治体に働きかける内容となっている。

「フランスの学童も、一朝一夕にここまで来たわけではない。民間や教員の放課後支援運動など様々な動きに呼応して、国が制度を整え、質を底上げしていったんです。その歴史も是非、知って欲しいですね」

アラル局長がそう言い添えた。いずれ機会を改めて、フランスの学童保育の成り立ちや制度の全体像をご紹介したい。

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日本とフランスでは、学童保育の認知度が大きく違う、と感じた。

小学生の電車通学や鍵っ子が一般的な日本では、学童保育は保育園よりさらに「特別な場所」のような印象がある。

根底にある一番大きな違いは、「子どもを一人にしない」という考え方の有無かもしれない。フランスには小学生、特に低学年の子どもは必ず大人と行動すべきだという考えがある。登下校には保護者か年長者が同伴し、一人で街中を歩く子どもの姿は極端に少ない。

当然放課後も、信頼できる大人の目の届く場所にいられるよう、社会の仕組みが作られている。

ならば、その時間を有効に使って、文化やスポーツの機会にしよう。それがフランスの学童保育の原則なのだ。

日本でも働く母は増え、18歳未満の子どもがいる人のうち仕事をしている人の割合は68.1%。今では共働き家庭は約6割になった。その子たちは夏や放課後、誰とどこで、どう過ごしているのだろう?

かつて「学童」は特別な場所だったかもしれないが、時代は変わった。今後、学童のありかたも保育の問題と並列で議論が進むことが望まれる。

(取材・髙崎順子 編集:笹川かおり)