今年4月、新しい在留資格「特定技能」が設けられた。今後、日本で働く外国人が増えることが予想される。そうした外国人の子どもの生活環境には、これまであまりスポットが当たらなかったが、保育園・幼稚園に通っていない「未就園児」や、小中学校に在籍していない「不就学児」の存在が少しずつ浮き彫りになり始めた。縁あって日本で暮らす外国籍の子どもたちに、福祉は何ができるのか。その手掛かりを探った。
「最近は、仕事を掛け持ちして子育てに手が回らない、という家庭は少なくなりました」。今年3月に新園舎になった寿福祉センター保育所(横浜市中区)の河原敬子所長は、こう話す。
日雇い労働者と簡易宿泊所の街として知られる寿町。その一角にある定員60人の同園は、現在、園児のおよそ8割が外国籍だ。中国籍が全体の半数に上る。
比較的裕福な家庭の子どもが増えた半面、生活に困窮した外国籍の子どもが、何らかの事情で保育園に通わずに暮らしているのではないか、と河原さんは気に掛ける。
保育園に通わない子どもとその親に園庭開放をする――という同区独自の「グランマ保育園事業」(グランドマザー=祖母=を頼る実家のような園、の意)も、2011年7月から始めた。
「中国籍の親子3組がここで知り合い、仲良くなる例も最近ありました」(河原さん)。
内閣府の推計によると、全国の3~5歳児(約300万人)のうち、保育園にも幼稚園にも通わない「未就園児」は3%に当たる9・5万人(18年4月)。
未就園そのものが悪いわけではないものの、家庭内で問題を抱える場合は地域社会から孤立しがちだ。最悪の場合、虐待死に至ることにもなりかねない。
今年3月、可知悠子・北里大講師(公衆衛生学)らの研究グループは、「両親のいずれかが外国籍」の子どもは、未就園児になる可能性が高い、とする研究成果を発表した。
可知講師は「日本では、この問題の先行研究がなかった。自治体は幼児教育・保育を受ける上で障壁になっている要因を調べるべきだ」と唱える。
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「未就園児」が日中どこでどう過ごしているのか、その実態は把握しにくい。
外国籍の子ども・家庭支援に30年以上携わる「NPO法人在日外国人教育生活相談センター・信愛塾」(横浜市)の竹川真理子さんによると、自宅を託児所のようにして、祖母が孫やその友達を育てる例があるという。
しかし、食事、排せつなど基本的な生活習慣が身につかず、小学校に入学してもオムツを外せない子もいる。
「日本語の語彙は、保育園に通ってから小学校に入る子どもと比べると、半分ほどしかない。授業についていくのは難しい」とみる。
小中学校の「不就学」(義務教育諸学校、外国人学校に在籍していない)は、さらに多い。
文部科学省は今年9月、日本に住む義務教育相当年齢の外国籍児12万人のうち、2万人が「不就学」、またはその可能性が高いとする初めての実態調査結果を発表した。
「外国籍の子は義務教育の対象外」ということもあり、その家庭に就学案内を送付しない自治体が4割に上ることも分かった。特に未就園児には就学にまつわる情報が届きにくい。
「同じ国の人同士のコミュニティーすら持たない外国人もいる。離婚やDVなど家庭内で問題が生じても、相談できる相手がいない例も多い」と竹川さん。「子どもの育ち」が保障されているとは言いがたい現状に警鐘を鳴らしてきた。
「未就園」「不就学」は、本人の人生を左右する問題であるのはもちろん、将来の労働力確保という意味でも放置できない問題だ。
人口374万人の横浜市は今年4月、外国人が10万人を突破。この5年間で3割増えた。8月には同市国際交流協会に「多文化共生総合相談センター」を開いた。
ここには介護人材として期待されているベトナム人に対応できるよう、ベトナム語の通訳を配置した。
担当者は「子どもの教育をめぐる相談が増えている。今後は特に幼児期における福祉分野との連携が重要だ」としている。
(2019年12月06日福祉新聞より転載)