G20で為替発言相次ぐ、米が通貨安競争けん制し日欧はメリット強調

ワシントンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、世界経済、とりわけデフレに直面しているユーロ圏経済が大きなテーマのひとつとなった。
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Reuters

[東京 11日 ロイター] - ワシントンで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、世界経済、とりわけデフレに直面しているユーロ圏経済が大きなテーマのひとつとなった。ユーロ圏からユーロ安を求める声が高まるなか、当初議題予定になかった為替に関する発言が相次ぎ、米財務長官は通貨安競争をけん制。

これに対し日銀総裁や欧州勢は自国通貨安による経済へのプラス面を強調するなど、認識にややずれが見られた。

前回9月のオーストラリア・ケアンズでのG20の声明文に、為替に関する言及はなかった。今回は声明文は発表されなかったものの、各国から発言が相次いだ。

ルー米財務長官は当初、G20への出席予定が公表されていなかった。しかし実際には会合に出席し、通貨安競争回避と需要の押し上げを要請。同長官は「主要国は競争的な通貨切り下げを回避するという(G7声明などの)合意を順守する必要がある」と発言した。

ただ、ルー長官の欧州と日本への評価は異なる。ユーロ圏については、つい数日前の米国内での講演で、ユーロ安を求める欧州を念頭に「通貨安競争は誤り」と基本的なG7合意を踏襲しながらも、同時に「強いドルは米国にとって良いこと」とドル高容認姿勢を示していた。

今回のG20でも事前の見通しでは、ユーロ圏がデフレ状況に近づく中、財政・金融政策ともに限界があるならユーロ安を容認するのではないか、との観測も取りざたされていた。

しかし、ルー長官はあらためて通貨安競争をけん制。ユーロ圏に対しては成長率引き上げによる対応を強く求めた。「長期に及ぶ低インフレなどマクロ経済と金融面で強い逆風が続いている。短期的には弱い需要に対応し、中長期的には潜在成長率を引き上げるよう欧州の首脳は政策を調整すべきだ。より力強い成長を実現するために需要と供給面の改革を同時に進める必要がある」と指摘。とりわけ、ドイツを念頭に財政による成長支援を求めた。

一方で日本に対しては、日銀がデフレサイクルを食い止めているとして、一定の評価を示した。ただ、成長は依然弱い見通しだと懸念を示し、「慎重に財政健全化のペースを調整する必要がある」と成長に配慮した対応を求めた。

これに対し、日本の麻生太郎財務相が為替への発言を控えたのに対して、黒田東彦日銀総裁が積極的に発言。「ファンダメンタルズを反映した円安は日本経済にプラス」との従来の認識を繰り返した。もっとも、金融市場で懸念されている政府と日銀のメッセージの食い違いについては、黒田総裁が円安の影響について政府と温度差がないことを強調した。

欧州勢からは、引き続きユーロ安を是認する発言が相次いだ。ノボトニー・オーストリア中央銀行総裁が「通貨安は輸出にプラスで、現在目標を大きく下回っているインフレ率の押し上げにも効果的だ」としたほか、ダイセルブルーム・ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)議長も「米国と欧州は景気回復の度合いが異なる」として、ファンダメンタルズの違いがある以上、ドル高・ユーロ安について議論する意味はない、とした。

他方、ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁は為替への言及よりも、むしろユーロ圏経済の弱さを指摘、「成長を阻害せずに財政健全化を着実に実行し、強い意思を持って構造改革に臨むことが、将来に対する消費者や企業の信頼感を後押しすることにつながる」として構造改革の必要性を訴えた。

(中川泉 編集:山川薫)

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■G20要人発言一覧

[ワシントン 10日 ロイター] - ワシントンで開催された国際通貨基金(IMF)・世界銀行総会、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議、その他関連会合に出席した要人の主な発言は以下の通り。

◎麻生太郎財務相

(日本経済は)緩やかに回復しているとみている。世界経済については楽観も悲観もしていない。

デフレの下で不況をやった経験は欧州にはない。金融政策だけでは(デフレを防ぐことは)できない、というのがわれわれの実験ではっきりした。財政と一緒にやらないとできない。

◎朱光耀・中国財政次官

<米連邦準備理事会(FRB)の政策とコミュニケーションについて>

FRBは来年の早い時期に(金融政策の)正常化を開始する公算が大きい。FRBが金利の正常化を開始したら、25ベーシスポイント(bp)の1度の利上げにとどまらず、プロセスが続くということは過去の事例で明らかだ。

FRBの政策が米経済や世界経済に及ぼす影響を注視する必要がある。もちろん波及効果をめぐる問題は特に重要だ。

コミュニケーションを一段と強化し、政策を透明化することにより、新興市場国をはじめとする他国への波及効果について、市場に理解させることが必要だ。G20などが共同で取り組むべきだ。政策調整や協調が一段と重要になっている。

<ドルについて>

金融政策が為替相場に焦点を当てたものではなく、国内の経済政策の一部であることでG20は一致している。しかし欧州のデフレリスクなどにより金利正常化で問題が生じれば、近い将来、おそらく2年以内に政策調整がより重要になってくるだろう。

◎ルー米財務長官

<世界経済について>

世界経済の需要を強力に支える包括的なマクロ経済政策と構造改革が世界的に必要だ。とりわけ対外収支が黒字で、財政が世界の調整を支援できる柔軟な状況である国に課された義務だ。

<為替について>

主要国は競争的な通貨切り下げを回避するという合意を順守する必要がある。

<ユーロ圏について>

長期に及ぶ低インフレなどマクロ経済と金融面で強い逆風が続いている。短期的には弱い需要に対応し、中長期的には潜在成長率を引き上げるよう欧州の首脳は政策を調整すべきだ。より力強い成長を実現するために需要と供給面の改革を同時に進める必要がある。

<日本について>

日銀がデフレサイクルを解消し成長を支援しつつある。ただ、財政健全化のペースを慎重に調整し、成長を促進する構造改革を断行しなければならない。

<中国について>

中国は市場が決定する為替相場への移行と金融部門のリスクへの対処が不可欠だ。

◎ノボトニー・オーストリア中銀総裁

通貨安は輸出にプラスで、現在目標を大きく下回っているインフレ率の押し上げにも効果的だ。

◎マンテガ・ブラジル財務相

米国が金融政策を正常化すれば金利が上昇し、短期的な資金移動が起きる。金融を自由化していれば(新興国や発展途上国は)打撃を受ける恐れがある。しかし新興国・途上国は資本流出の混乱に対処する上で以前と比べてより堅固な状況にある。

◎ダイセルブルーム・ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)議長

<ユーロ圏経済の課題について>

欧州は新たな成長戦略の策定を目指す。投資拡大、財政規律強化、構造改革を一体で行えば強力なメカニズムとなる。

欧州に対する悲観的な見方は当たらない。改革を実施した南部の国やバルト諸国、アイルランドは成長を回復した。改革は成長を阻害するのではなく、速やかな回復を支援するということをあらためて証明した。

<為替相場について>

為替相場について話しても意味はない。米国と欧州は景気回復の度合いが異なる。米国は金融緩和を縮小し、おそらく来年利上げすることを検討している。一方、欧州はまだ量的緩和と非常に緩和的な金融政策が焦点になっている。

◎オズボーン英財務相

<公的債務について>

英国を含め多くの先進国で公的債務と財政赤字は依然として非常に高水準だ。財政健全化は完了していない。市場の信頼をつなぎとめる確かな中期的財政規律は、引き続き優先度が高い。

<欧州の問題の影響について>

現時点で英国と世界経済にとって最大のリスクは、ユーロ圏が景気後退に逆戻りし、危機が再燃することだ。

再び欧州に注目が集まっている。欧州諸国が協調して信頼のおける財政政策、経済を支援する金融政策、本物の経済構造改革をまとめることができるか注視している。

<日本の3本の矢について>

安倍晋三首相の「3本の矢」をもちろん支持する。経済改革を目的とする3本目の矢が確実に放たれることを誰もが期待している。経済改革は日本だけでなく、米国や英国、他の欧州諸国の課題でもある。

◎ドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁

(ユーロ圏)経済の勢いが足元弱まっていることで、民間投資の回復はさらに幾分遅れる可能性がある。地政学リスクの高まりもマイナスの影響を及ぼしている。

成長を阻害せずに財政健全化を着実に実行し、強い意思を持って構造改革に臨むことが、将来に対する消費者や企業の信頼感を後押しすることにつながる。

◎ラガルドIMFド専務理事

リスクを取る行動が経済においては過少で、金融では過剰だ。リスクは一部に集中している。世界の資産運用最大手10社に19兆ドルもの資金が集まっている。これは米国の経済規模を上回る。

2015年が正念場になりつつある。この機会を逃せば、何世代にもわたって世界の最貧困層を見捨てることになる。