ある電鉄会社の会議室。
そこには、数年後の大きな開発プロジェクトの企画を担う若手が集められていました。
皆、大きなプロジェクトに対する期待と、自分たちに課せられた大きな重圧の両方を感じて、やや硬い面もちです。私はインスピレーションを与えるための講演を依頼されていましたが、短い時間で、あるセッションを行うことにしていました。
(この写真はイメージです。Photo:Future Session Week 2013)
最初の15分は、3人組になっての対話セッションです。
テーマは、「このプロジェクトが関与できそうな社会課題は?」というもの。ちょっと難しいテーマです。みんな最初はおそるおそる「高齢者のケア」「女性の活躍」と身近な課題を挙げ始めました。
各グループの対話のテンションは上がり始め、「格差の解消」「地方の産業支援」など、明らかに自分たちの開発プロジェクトだけでは達成できない、大きな社会課題が挙げってきました。雰囲気は上々です。
この話し合いで出たすべての「このプロジェクトが関与できそうな社会課題」を、ホワイトボードに貼り出しました。
一覧すると、まさに「日本の社会課題のすべてがこのプロジェクトにつながっている」ことを実感できるようなものばかり。この時点で、メンバーの間に勇気と自信が湧いてきているのが伝わってきました。
普通の会議とはひと味違う会議
次は1人1枚、「あなた自身はこの地域の未来に何を起こしたいか?」という問いでアイデアを書いてもらいました。
会社のプロジェクトについて考えるはずの場で、いきなり「自分自身の夢」を問われたわけですが、不思議とみんなスラスラと書き始めました。A4の紙に大きな文字で書いた「自分自身のアイデア」を掲げながら部屋中を歩き回り、仲間を自分で見つけてもらいました。ここで部屋の中の盛り上がりは最高潮に達しました。
(Photo:Future Session Week 2013)
通常のワークショップの目的は、「企業の課題」に対して「最善の解決策」を考えてもらうことです。しかしこのセッションではまず、「自分ごとの未来」から対話を始めました。それが「共感する仲間」を集め、一緒に「未来を創って行こう」というパワーを生み出して行くのです。
大切なのは「正しい答え」を探すことではなく、「みんなでやりたいこと」を描いて行くプロセスなのです。 このセッションの形式を「フューチャーセッション」と呼びます。
単なる目の前の仕事の課題を解決する会議より、フューチャーセッションは楽しいんです。この日も、会場はずっと笑顔と笑い声にあふれていました。
この日のフューチャーセッションでは、自分ごとのテーマから4つの「社会を変えるチーム」が生まれました。これらのチームは、通常の企業で「アサインされたチーム」とは異なり、「自ら共感する仲間とつくったチーム」です。
こうして生まれたチームは、楽しく、強く、そして自発的です。誰かに何かを言われなくても、一緒に集まろうぜ、となります。こんな自ら共感する人が集まったチームには、さらに共感する仲間が自発的に加わってきます。そして「社会を変えるチーム」に成長していきます。
社会を変えるアクションが、このチームから次々と生まれるのです。
「社会を変えるチーム」を生み出す3つのポイント
「社会を変えるチーム」って、どんなチームだと思いますか?
私はそのチームが社会を変えるのではなく、次々と社会を変えるアクションをとる人が集い、行動を起こす後押しをしてくれるのが、「社会を変えるチーム」だと思っています。
つまり「社会を変えるチーム」は意義は、そのチーム自体がアクションをとること以上に、そのチームが存在しているにあります。存在することで問題に気づき、アクションする人が増えるのです。だから「社会を変えるチーム」には、その存在自体に価値があるのです。
社会を変えるチームは、次の3つのポイントを満たしています。これらのポイントは、フューチャーセッションで「社会を変えるムーブメント」を起こして行くプロセスとまったく同じです。
1:旗を立てる人の「大切な想い」が、人々の思考の枠組みを変える力を持つ
最初に立てる旗には、誰か個人の強い想いがこもっている必要があります。
その想いが、多くの人に共感されると同時に、フレッシュな視点を与えてくれるものであれば、効果的なフューチャーセッションを開催することができます。これは、「社会を変えるチーム」でも一緒です。
想いに共感すれば「いいね!」を押すでしょうし、そこにフレッシュな視点があれば、さらにその考えを「誰かに伝えたくなる」はずです。こうして、社会を変えるムーブメントはスタートするのです。
2:チームのコアメンバーが、参加者を代表する多様性を持っている
フューチャーセッションに多様な人を招き入れるときもそうですが、多様性ある参加者にアプローチする最善の手段は、参加してほしい人の仲間がコアメンバーの一員であることです。
そのために、最初から多様性あるメンバーを揃えることが、大きな広がりを生み出す秘訣です。自分と違うバックグラウンドを持つ人と共感したなら、ぜひともその人と一緒にチームを立ち上げましょう。
3:チームの集まる場が、常に新しい参加者にとってオープンで心地よくなっている
チームの仲間意識が高まると、どうしても場が内輪向けになってきます。そうなると、新たに参加する人にとっては居心地が悪くなってしまいます。
社会的ムーブメントを起こすためには、場をつねに開いておくことが大切です。つねに多様性を受け入れ、新たなメンバーが参加し、活躍できるようにしておきましょう。そうすれば、新たに参加した人がその人のコミュニティをつないでくれて、どんどん仲間が広がって行きます。
拡大し続けることを恐れてはいけません。どんどん開いて、広げて、そして新たに加わったメンバーに合わせて、自分自身も変わっていきましょう。だって、自分の視野をもっと広げて行けば、昔の自分の視野の狭さに気づくはずですから。
社会を変えていくということは、自分自身を変えていくことでもあるのです。
まずは身近な会議を、フューチャーセッション化してみませんか?
あなたの目の前の仕事が、社会を変えるチームへ変貌するかもしれません。
(サイボウズ式 2013年9月24日の掲載記事「あなたの仕事が社会を変える!?――フューチャーセッションの効果」より転載しました)
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