普天間基地「腹案だった? 幻の移設案」とは

今月行われた名護市長選挙で、普天間基地の辺野古移設反対派である稲嶺進氏が再選されました。「辺野古はNO」というのが、地元の突きつけた民意です。しかし、政府は選挙結果が出た現在も、むしろ辺野古代替施設の建設作業を加速する動きを見せています。
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普天間基地のイメージ写真
Carl Court via Getty Images

今月行われた名護市長選挙で、普天間基地の辺野古移設反対派である稲嶺進氏が再選されました。「辺野古はNO」というのが、地元の突きつけた民意です。しかし、政府は選挙結果が出た現在も、むしろ辺野古代替施設の建設作業を加速する動きを見せています。

政府関係者は「辺野古移設を早く決めないと、危険な普天間基地がこのまま残る」と主張します。地元の反対にも関わらず、政府が辺野古にこだわり続けるのはなぜなのでしょうか。

「政権交代をしたのだから、すべてがそのままである必要はない。柔軟であっていいと。オバマさんの頭の中にも決して辺野古じゃないといけないよという気持ちはなかったと思います」

永田町を去ってから、沖縄について取材を受けるのは初めてという鳩山由紀夫元総理は、当時のことをそう振り返りました。

鳩山元総理が「最低でも県外」と言って政権交代をし、オバマ大統領に「トラスト・ミー」と告げた2009年。なかなか結論を出せないでいた民主党政権に対して、当時メディアは「アメリカが怒っている」と、苛立ったアメリカ政府が、さも辺野古移設への決断を迫っているかような報道をしていました。

「あの記事はおかしいよね。あれは官僚がマスコミにしたリークだと思う」と鳩山氏は言い、アメリカはあくまで辺野古にはこだわっていなかったと強調しました。

鳩山氏の言葉を裏付ける資料があります。2010年2月ワシントンDCでの日米交渉の記録です。

ジム・ウエブ上院議員 「日本における政治的現実を理解している」

リチャード・アーミテージ氏 「普天間の辺野古移設案は見直しある」

ケント・カルダー教授(ルース前日本大使のアドバイザー) 「危険除去が当初の目的で、湾岸にはみ出す必要はなかった。現行の辺野古案は実行可能ではない」

この日米交渉こそ、鳩山元総理のいう「腹案」の一つであった、「普天間飛行場のキャンプ・ハンセン移設案」について話し合われたものです。軍事アナリストの小川和久氏が提案し、もっとも早期に普天間飛行場の危険を除去する案として、鳩山氏が検討したものです。

いったい、どんな案だったのでしょうか。小川氏によると、

「計画の第一段階は普天間基地をいち早く閉鎖すること。急造だけれども飛行場を作って、48時間くらいでヘリベースをね。そこに移駐させるとその時点で普天間を閉鎖できる」

なんと、これについては、米軍関係者も2日でできると認めていたというのです。

「さらに、キャンプ・ハンセンの一番南側に海兵隊の建物がある。そこはもともと終戦間際に米軍が作った1800mの滑走路・チム(金武)飛行場があったところだ。これを利用すれば、海を埋め立てるより、はるかにコストも安く、工事期間も短くてすむ」

「そもそも辺野古案は無理がある。海兵隊は地上部隊が主力でしょ。この部隊は4、5万人の規模で動いてくるわけ。兵隊が使う装備のかなりの部分は空軍の輸送機でどんどん降ろす。集積するスペースが辺野古にはない」

さらに、1800mの滑走路では大型輸送機も離発着できないといいます。この点については、当時の国務省担当者だったケビン・メア氏も「足りない部分は、民間航空の滑走路が使えようにしてカバーする」と認めました。

つまり、辺野古移設案というのは、かくも不十分で米軍にとっても満足のいかない案なのです。

そんな中、政府の特命ミッションとしてワシントンと交渉した小川氏、民主党の藤田幸久議員の「ハンセン陸上案」について、米政府関係者は「日本側からのはじめての具体的な提案」と評価したといいます。

しかし、2010年5月、再びペンタゴンで「ハンセン陸上案」について交渉していた小川氏と藤田氏のもとに届いたのが、時を同じくして沖縄を訪問した鳩山氏の「学べば、学ぶにつけ沖縄には抑止力が必要...」と辺野古移設に傾いた発言でした。

ワシントンDCでの交渉中、ネットでこのニュースを見た小川氏は「バカヤロー」と思わず叫んでしまったそうです。

「アメリカ側は小川案で一本化するならそれでいいと、のめるという温度だったのに、一本化するどころか、並行して官僚が議論していた辺野古案に総理がぶれた」

一体、なぜぶれたのかという問いに鳩山氏はこう答えました。

「『最低でも県外』のメッセージに合わないところがあった。さらに、辺野古以外の選択肢を防衛省、外務省から提示されたことがなかった。なんとか辺野古に戻したいという気持ちが官僚にはありましたよね。普天間の早期危険除去という意味で、小川案は大変、有力、有望な案だと思いながら、周囲の動きを押し返せず、十分まとめきれなかったのは残念」

それでも総理大臣なら自らの思いを貫くべきだし、そもそも「脱官僚」にまったくなっていない民主党政権の情けなさにがっくりするわけですが、一方で「ハンセン陸上案」をめぐる交渉経緯を検証すると、改めてアメリカは辺野古にこだわっておらず、こだわったのは日本の外務官僚、防衛官僚という姿が見えてきます。

小川氏は言います。

「日本が外交と安全保障をきちんとする能力を持っていないことが辺野古案に現れている。辺野古案は外交安全保障の合格点には程遠い」

日本の防衛官僚、外務官僚が辺野古にこだわる背景に「土砂利権」を指摘する声もあります。普天間基地の早期危険除去、そして沖縄の負担軽減につていは、「辺野古、さもなくば普天間維持」といった二択ではなく、今一度、幅広い選択肢をもって議論、交渉されるべきではないかと思います。