福島の甲状腺がん「放射線の影響は考えにくい」 健康調査検討委の座長はどう答えた

検討委員会の座長を務める星北斗氏(福島県医師会副会長)は3月7日、東京の外国特派員協会で、調査結果について改めて説明し、見解を披露した。
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Taichiro Yoshino

東京電力・福島第一原発事故に伴う放射線の健康被害などについて調査・検討している福島県の「県民健康調査検討委員会」は2月15日、中間とりまとめ案を発表した。

関心の高かった事故当時18歳以下の甲状腺がんについては、1巡目となる2011年10月~2014年3月の調査で113人、2巡目の調査(2014年4月~)で51人(2015年末現在)が「悪性または悪性の疑い」と判定されている(下図)。とりまとめ案では「放射線の影響とは考えにくい」が「可能性は小さいとはいえ現段階ではまだ完全には否定できない」と評価した。

福島の甲状腺がんについては、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の先例から、原発事故との因果関係を疑う見方と、被曝状況の違いなどから可能性は低いとする見方が対立している。検討委員会の座長を務める星北斗氏(福島県医師会副会長)は3月7日、東京の外国特派員協会で、調査結果について改めて説明し、見解を披露した。

主な質疑応答は以下の通り。

――東電の補償などが何か調査結果に影響することはあるのか。

調査に関する影響は感じていません。法的に東電の人たちに何らかの措置が行われることに対して、当然してもらうことはしてもらうべきだと考えています。しかし、そのことが今の私たちやこれからの子供たち、これからの福島をよい方向に導いてくれないのであれば、我々は、そういうことなんだろうな、と考えると思います。

――甲状腺がんについて「多発であるから早く手を打つべきだ」とする医師もいる。座長は多発と考えるか。

言葉の定義をしなければいけないと思いますが、多発という言葉を使っていいものか考えなければいけないと思いますが、多く見つかっているという意味では、これまで知られている統計に比べて多く見つかっていることは事実です。もちろん、その影響があるということも考慮に入れて検査を実施しているわけですから、私たちはその影響がまったくないことを申し上げるつもりはありませんし、そのことは繰り返し言ってきております。

これまでの検査は地域単位、学校単位で実施しましたので、これまでのところ非常に高い検査受診率を維持しています。ところが18歳を超えますと集団で検査することは難しくなりますので、今後どうするかは一つの課題と考えております。

中間とりまとめにも引用されていることですが、空間放射線量が非常に少ないこと、今回見つかったがんの発見が被曝から1~4年と非常に短いこと、事故当時5歳以下からの発見が今のところない。それから、地域ごとの差が大きくないことなどから、我々は直接の影響とは「考えにくい」という表現を使っております。

――チェルノブイリでは、現時点では「多発でない」と言っていたが、10年後に「多発」と見解が変更された例もある。

チェルノブイリとの比較は、放射線量が大きく違うのが1点。検査を始めた時期も精度も異なっているので、科学的に専門家の評価を聞きながら評価をし続けていくことと思います。

――地元で医療に携わっている人に原発への影響を否定的に捉える方が多いように思う。地元で活動しているからこそ否定的にとらえたい心境が影響しているのか。

私自身はそういう影響があるとは思っていません。外から見ている方が批判的に捉えるということも、必ずしもそうとは思いません。科学ですので、エビデンスをしっかり見つめて、どう評価するかを求められていると思いますので、判断に影響することはないと思います。

――がんの患者はすでに150人以上見つかっている。これから劇的に増えていくとみる人もいる。それは正しいと思うか。

放射線の影響で増えていくのかという質問であれば、現時点では私はそうは見ていません。ただ、それを頭から否定する気もありません。これまで見つかったがんに加えて、検査をすれば、相当数のがんが見つかることは当然、想定されると思います。それが放射線の影響と明らかになるデータが出てくれば、そういう評価をすることになると思います。増えるのではないか、あるいは増えないだろうという予断を持って当たってはなりません。

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――過剰診療のせいで多く見つかっているのではないかと指摘がありますが、そうなのか、そうでないのか、どうすれば決着がつけられるのか。初期被曝の放射性ヨウ素がしっかり測られていないことは今から取り返しがつかないが、その上で甲状腺がんの発生の因果関係をどう今後、評価できるのか。

科学的に放射線の影響かどうかを最終的に決定づけるのは、放射性ヨウ素の被曝量とがんの発生頻度に一定の因果関係があると証明する必要があると思います。非常に当時の甲状腺被曝線量を把握する調査は非常に少ない、そのために得られたデータも非常に少ないのも事実です。

同じくらいのサイズでまったく放射線の影響がなかったと思われる地域で、同じような検査をすべきだという意見を持っている人がいることも知っています。しかしそれは、私は現実的でないと思いますし、不要な(という表現がいいかどうか分かりませんが)甲状腺がんを見つけてしまうことにもしなれば、被曝を受けた可能性がない人たちに、がんというものを突きつけることになりかねないし、慎重に取り組むべきだと思っています。その上で、実際に受けた被曝線量を推計するのは非常に難しいとしても、これからもしっかりと調査をしていって、本当に因果関係があるかどうか、きちんと評価するよう努力すべきだと思っています。

――いわゆる「福島の脅威」は現実的なのか。メディアが危険をあおるが、実際には何も起きていない。こうした状況は再考されるべきだと考えるか。

何も起きなかったとは言いません。私は多くの人たちが恐怖にさらされたという事実は変わらないと思います。それは放射線の医学的・科学的影響という範疇を超えて、我々の心に大きく突き刺さっていると思います。ある年代の女の子が「私もう結婚できないわ」という声をよく聞きます。私たちはそれを忘れてはいけないと思っています。ただ、誤解を受けてそういう思いを持ち続けることはあってはならないとも思っています。ぜひ多くの方々に福島を訪れていただき、今の福島を見ていただきたいと思っています。

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