〈東日本大震災〉福島の特養、再開するも年1億円超の赤字

施設長は「町に戻りたい人が戻れる環境をつくるために経営が苦しくてもやるしかない」と奮い立たせている。
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再開と同時に就職した滝本さん(右)

 多くの命を奪った東日本大震災の発生から6年を迎えた。東京電力福島第1原発から20キロ圏内にある社会福祉法人広葉会の特別養護老人ホームリリー園(福島県楢葉町)は昨年4月12日、苦境を乗り越えて元の場所での再開を果たした。再開当初8人だった利用者は22人(うち7人が震災前からの利用者)に増えた。施設に活気が戻りつつあるが、経営面などで課題も残る。

 「2011年3月11日は中学校の卒業式でした」と言う介護職員の滝本美樹さん。地震が起きた時、同県広野町の自宅にいた。幸い自宅は高台にあったため津波を免れた。「目の前で起きていることが信じられなかった」と当時を振り返る。

 震災後、同県いわき市に家族と引っ越し、別の県の短大で介護を学んだ後、リリー園の再開と同時に就職し、帰郷した。介護の仕事について「教科書通りにはいかないけど利用者さんに『ありがとう』と言われることがやりがいになる」と話す。

 現在リリー園の介護職員は13人(3人が長期病欠)。震災前からの職員は5人で、残り8人は震災後に採用された。埼玉、神奈川、福岡など大半は他県の出身者だ。

 地震発生時、リリー園で勤務していた介護職員の早川まゆみさんは「ここに戻って来られると思わなかった」と話す。楢葉町の自宅は改修中で今はいわき市から片道約1時間半かけて車で通う。法人職員全体でも同市在住者は多く、長時間通勤が負担になっている。

 早川さんは今の心境を「喜びと不安が半々」と言う。「職員の大半が辞めてしまい今後やっていけるのか心配。若い人に一緒に働いてほしい」と呼び掛ける。

■財政支援を要望

 リリー園には入所待機者が16人いる(今年2月現在)。定員は40人のため空きはあるが、介護職員不足で受け入れられずにいる。

 施設は4ユニットで二つのブロックに分かれている。今は一つのブロックで22人の利用者を実質10人の介護職員とパート2人で担当している。

 永山初弥施設長は「一刻も早く40人を受け入れたいが、それには介護職員を16人程度確保したい」と言う。職員確保に向け、職場説明会に出たり求人サイトに載せたり、手を尽くしている。

 その結果、今年4月採用の内定者が3人、ほかに1人が入職を前向きに検討している。今いる職員10人と合わせると14人になるが、それでも16人に届かない。また入職しても夜勤を任せるまでには時間もかかる。

 「通常は22人の利用者なら介護職員は8人程度でよいが、今は15人雇用(パート含む)している状態。単純計算で7人分が余剰だが、慣れない環境での職員の負担にも配慮している」と永山施設長。

 深刻なのは経営状態だ。利用者が22人と少ないために、介護保険事業の収入に対して人件費や管理経費などの支出が多くなっている。そのため15年度は1億3000万円の赤字。16年度も似たような状況だ。

 ぎりぎりの状況に法人は16年7月、国と県に財政支援を要望した。永山施設長は「健全経営からはほど遠い。再開はしたが、以前と状況は変わらない」と話す。

 楢葉町は15年9月に原発事故による町民の避難指示が解除された。今年1月末現在で町内に住んでいる人は781人。帰町率は10・6%と低い。それでも永山施設長は「町に戻りたい人が戻れる環境をつくるために経営が苦しくてもやるしかない」と奮い立たせている。

(2017年3月13日「福祉新聞」より転載)