福島第一原発作業員の賃金が増額へ 「東京五輪」や「競争入札」で人不足の懸念も

福島第一原発作業員の賃金が増やされることになった。一人あたり1万円増加するという。しかし今後は、東京五輪の開催や国費の投入により、人材確保が難しいとの見方も出ている。どういうことだろうか。
|
Open Image Modal
A worker wearing a protective suits and a mask walks through the Seismic Isolated Building at Tokyo Electric Power Co.'s (Tepco) Fukushima Dai-ichi nuclear power plant in Okuma, Fukushima Prefecture, Japan, on Thursday, Nov. 7, 2013. Tepco, which returned to profitability in its first-half earnings report on Oct. 31, is handling an estimated 11 trillion yen ($112 billion) cleanup of the nuclear plant wrecked by an earthquake and tsunami in 2011. Photographer: Tomohiro Ohsumi/Bloomberg via Getty Images
Getty

福島第一原発作業員の賃金が増やされることになった。一人あたり1万円増加するという。しかし今後は、東京五輪の開催や国費の投入により、人材確保が難しいとの見方も出ている。どういうことだろうか。

■原発作業員の賃金が増加へ

東京電力は11月8日、福島第一原発で働く作業員に支給している労務費割増分を、増額すると発表した。現行の1日当たり1万円を2万円に増やす。

福島第一原発では毎日約3000人の作業員が働いているが、約9割は東電社員ではなく、協力会社や請負業者の作業員となっている。ロイターの調査によると、廃炉作業に従事する企業の数は、800にも上ると言われ、元請けから下請け、孫請け、曾孫受け…と多数の企業が複雑にぶら下がっている。

東電が昨年12月に公開した作業員の「就労実態に関するアンケート」では、「あなたが雇われている会社は、東京電力と契約している元請会社から数えて何社目(何次下請会社)にあたりますか」との質問に5社目以上を選んだ人が100人以上存在している。

賃金に特別手当が加算されているかとの質問に「加算されていない」とした人は、アンケートに回答した3186人中、1023人にも上り、中間企業による賃金のピンハネや中抜きなどが横行していることも多数報道された。作業員からも東電に「東電あるいは元請が払っている手当を教えて欲しい」、「会社間での手当・待遇の違いを是正して欲しい」などの要望が出ている。

東電の広瀬直己社長は8日の記者会見で、この状況を改善するために労務費割増分を増やすことを決めたとし、次のように話した。

「この場で我々が1万円上乗せすることを発表しましたので、作業員の方たちも知ることになります。

今後、元請け企業に直接話をし、徹底をお願いするとともに、引き続きアンケートなどを行うことで、効果が出てくるのではないかと考えております」

(東京電力「「汚染水・タンク対策本部」会見」より。 2013/11/08)

■除染のほうが給料が良い?

作業員の確保については、賃金の中抜きの問題だけでなく、除染作業に労働力を奪われているのではないかとの見方もある。

20代の男性作業員は、周りで除染の仕事に移る人が増えたと感じている。国が進める除染では、日当とは別に1万円の「危険手当」が支払われる。この男性の日当は、事故の年は3万円近かったが、今は2万円を下回る。除染の賃金との差はほぼなくなった。「第一原発で浴びる線量は除染作業の数百倍になることもある。割に合わないと思う人が増えているんだろう」

(朝日新聞デジタル「疎外感、そがれる士気 福島第一原発、単純ミス相次ぐ 下がる日当「割に合わない」」より。 2013/10/14 05:00)

この点についても広瀬社長は、「除染のほうが給料が良いのではないかとよく話が出る」とした上で次のように述べた。

「1万円から2万円にというのは、これが十分かどうかというのは当然あるかと思う。

正直なところ、根拠があるわけではなく、この額にするとこれぐらい人数が確保できるなどの定量的な指標があるわけではないが、まずはこうしたことで、福島第一原発で働いていただけるような労働環境を整備したい」

(東京電力「「汚染水・タンク対策本部」会見」より。 2013/11/08)

また広瀬社長は、賃金だけではなく、労働環境を向上させることが重要とし、地上8階建ての「大型休憩所」の設置や、毎日3000食を提供する「給食センター」の設置を行うと発表した。

Open Image Modal
Open Image Modal

■「東京五輪」で人材不足に

東京電力の相沢善吾副社長は10月28日の定例記者会見で、福島第1原発の作業員確保について中長期的には難しいとする理由を次のように話している。

相沢副社長は「当面作業員が不足する心配はない」と説明し、2~3年先の見通しは立っていると強調。その上で「東京五輪の開催などで景気が良くなり仕事が増える中で、きつい現場で働く人をいかに集めるか、重要な問題だ」と話した。

(時事ドットコム「作業員確保「中長期心配」=福島第1、当面は問題なし-東電副社長」より。 2013/10/28 20:47)

■国費投入と競争入札で作業員の賃金に影響が出るとの懸念も

福島第一原発の廃炉作業には国費が投入され、作業の発注先は入札形式で決められるため、企業間の競争が激化すると受託金額は自ずと下がる。その分、作業員の賃金も下がるのではないかとの懸念もある。

(広瀬社長)「廃炉作業は30〜40年続くわけですけれども、作業員の皆さんの安全確保や労働条件の改善、使命感・責任感の維持、向上は、経営上の最優先の課題だと認識しております。

(今回発表した対策などの)によって、廃炉作業の加速化や、地域の皆さん、社会の皆さんからの信頼向上にもつながるのではないかと思っております。

(中略)

本来であれば、作業は競争入札にしていかなければなりませんが、こと、人材確保の点に関しては、大変厳しい現場で、引き続き働いてくださる方をしっかり確保していくことが必要なので、工夫して行きたい」

(東京電力「「汚染水・タンク対策本部」会見」より。 2013/11/08)

原発作業員の賃金と競争入札などの背景について、あなたはどう考えますか。ご意見をお寄せ下さい。

関連記事