PRESENTED BY 福島イノベーション・コースト構想推進機構

「地元の人も移住者の挑戦を応援してくれる」訪れて感じた人のあたたかさ。今、福島の町に移住者が集まる理由

震災から13年が経った福島への「移住」に今、注目が集まっている。現地を訪れ、移住先としての福島・浪江町の魅力を探った。
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浪江町の請戸浜には青い海と空、ビーチが広がる
Yuko Kawashima

自然豊かな場所で暮らすのも良いかもしれない──。

誰もが一度は考えたことがあるかもしれない“地方移住”。海、山、川に囲まれて自然が美しく、新しい挑戦をする移住者の若者が増えている町がある。福島県双葉郡浪江町だ。

現在、福島移住への関心が高まっており、移住体験ツアーには応募が殺到。参加倍率は8倍にも上る。

ふくしま12市町村移住ポータルサイト「未来ワークふくしま」では、移住を検討する人たちが下見で現地を訪れられるよう、7月からサイト上でモデルコースの紹介を始めた。

筆者もモデルコースを参考に現地を訪れ、浪江町と福島移住の魅力を探った。

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展望台からの見晴らし。浪江の町の向こうには海が見える
Yuko Kawashima

朝8時前に東京駅を出発して、11時過ぎに浪江駅に到着した。浪江町は東京駅から約3時間。特急ひたちでは東京駅から浪江駅まで直通の便もあるため、アクセスも良好だ。

今回、浪江町を訪れた目的は、移住先としての浪江町の魅力や移住サポートについて知ること。1泊2日の24時間で、モデルコースの中から7つの施設やお店を巡った。

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「未来ワークふくしま」のサイトにはふくしま12市町村をめぐるモデルコースが掲載されている
未来ワークふくしま

「地元の人たちも移住者の挑戦を応援してくれる場所」

到着したらまず、浪江町にUターンした栃本あゆみさんが営む「おむすび専門店えん」で、お昼休憩。

具沢山のおにぎりとお味噌汁、唐揚げが地元の人たちに好評な人気店だ。

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おむすび専門店「えん」の栃本あゆみさん
Yuko Kawashima

栃本さんは高校卒業後に上京。飲食業界で働いていた際に、東日本大震災と福島第一原子力発電所事故が発生し、栃本さんの家族を含む浪江町民全員が避難を余儀なくされた。

避難生活中も「絶対、浪江に帰りたい」と話していた父親と祖父母が、帰還することなく亡くなったことが、Uターンの大きなきっかけになったという。

「自分の故郷で頑張りたい、何かできないかという思いがあり、皆が“帰って来られる”ようなお店をつくろうと『えん』を開きました。店名には、一粒一粒お米を結び、人とのご縁を結びたいという思いを込めました」

浪江町が格安の家賃で店舗を貸し出す「チャレンジショップ制度」を利用して、2021年に店をオープン。2年後に今の独立店舗を開いた。

浪江について、「震災後、一度ゼロになった町だからこそ、新しいことを始める人も多く、地元の人たちも移住者の挑戦を一緒に応援してくれる場所」と話す。

「足を運び、浪江を五感で感じて」ワンストップで相談受け付け

昼食後、CO2排出ゼロの水素レンタカーを借り、まずは移住に向けたサポートについて知るため「浪江町移住・定住相談窓口」へ。

ここでは、一般社団法人「まちづくりなみえ」のスタッフが、浪江町への移住を検討している人たちの相談を受け付けている。

原発事故後、浪江町は「避難指示区域」となり、元々2万1000人いた住人は他地域への避難を余儀なくされた。2024年5月時点で、町内の避難指示が解除された地域に住むのは2226人だ。

年々、住人は戻ってきているが、相談窓口では他地域から移住を検討している人のサポートをしている。

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「浪江町移住・定住相談窓口」の玉野文菜さん(左)と、菅野孝明さん(右)
Yuko Kawashima

窓口では、移住に関する様々な相談を「ワンストップ」で受け付け、その上で相談者を関係各所に繋ぐことができる。

相談内容で多いのは、住宅と仕事について。窓口では不動産会社やハローワークと連携し、最新の物件情報や仕事の募集情報を揃えているため、相談者も心強い。

移住者には、浪江の企業に就職する人もいれば、新規就農や起業をしたり、リモートワークで会社員を続けたりする人もいるという。

窓口で日々、相談にあたる菅野孝明さんは、浪江町の魅力や移住についてこう話す。

「自然が好きな人にはすごく良い場所だと思います。海から山まで車で10分という場所はなかなかありません。移住について気になったら、まず足を運び、長く滞在してみて、自分に合うかどうかを五感で感じてみるのが1番良いと思います」

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請戸港
Yuko Kawashima

浪江町では、移住検討者向けに「お試し宿泊」として、1人2万円で最大30日間、公共宿泊施設「いこいの村 なみえ」に泊まれるという制度も。

お試し宿泊や、現地を訪れモデルコースを巡る際には、交通費などを補助する制度もあるため、活用すれば格安に移住準備の現地リサーチや、物件・仕事探しなどができる。

さらに、移住を決めた際には、最長2年間の家賃補助や、移住支援金などのサポートも手厚い。それらの移住支援についても窓口で聞くことができる。

浪江町を含む、原発事故で被災した福島の12市町村では、移住サポートの取り組みが活発に行われている。

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移住検討者が長期のお試し宿泊ができる「いこいの村 なみえ」のコテージ棟
Yuko Kawashima

「浪江は人が優しい」未経験から飛び込んだエゴマ栽培

菅野さんの話を聞いていると、他地域から浪江町に移り住んだ若者の経験をもっと聞きたくなり、若手農家の大高充さんを訪れた。

夕日でエゴマの葉が輝く畑で作業をしていた大高さんは、「浪江の畑で浴びる潮風が大好き」だと笑顔で語った。

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エゴマ畑で作業をする大高充さん
Yuko Kawashima

大高さんは、先に浪江町に移住していた友人を訪ねたことをきっかけにこの土地に魅了された。東京で大学に通い、2019年に移住。新規就農という道を選んだ。

「私は福島県白河市出身で、東京にいた5年間もずっと、福島への思いがありました。浪江は人が優しく、魚などごはんもとても美味しいです。事業を起こして町を盛り上げていきたいという熱い思いを持った人も多いです。人との距離が近く、新しく農業やビジネスを始めたいという人を、地元の人たちも応援してくれます」

未経験から農業の世界に飛び込み、花き農家やエゴマの生産・加工をする農家の元で働き、移住の翌年には独立してオオタカ農業を設立。現在は4ヘクタールの畑でエゴマを栽培する。

また、官民合同チームのサポートを受け、福島、東京の企業などと共にエゴマを使ったチョコレートスイーツも開発し、販売している。

震災乗り越え繋ぐ、地元の味。浪江の人々の憩いの場

夕飯は、地元の人たちに40年近く愛される居酒屋「こんどこそ」へ。

店長の大清水一輝さんオススメの、刺身の盛り合わせや、メヒカリの唐揚げ、生ウニなどを頂いた。

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居酒屋「こんどこそ」
Yuko Kawashima

「こんどこそ」は大清水さんの母親が開いたお店で、震災の際に一時閉店を余儀なくされたが、2011年10月には避難先の二本松市で店を再開。その後、また浪江でも店を開きたいと、2018年9月に浪江店を再開し、大清水さんらが店を切り盛りしている。

震災を乗り越え、浪江で暮らす地元の人たちの憩いの場所となっている。

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移住検討者が長期滞在できる「いこいの村 なみえ」コテージ棟の室内
Yuko Kawashima

宿泊先は、移住検討者のお試し宿泊に使われている「いこいの村 なみえ」へ。移住検討者が長期宿泊できるコテージ棟は、冷蔵庫やキッチン、食器も揃っており自炊もできる。

宿泊施設内には、サウナ付きの大浴場もあり、自然に囲まれた施設では快適に過ごせた。

レジャーや買い物も充実。ボルダリングも

2日目は、浪江町での生活を探るために、買い物やレジャーの施設へ。

まず訪れた「道の駅なみえ」には、浪江の生産者さんがつくった野菜や海産物、地酒の直売所に加え、パン屋やフードコートもある。フードコートでは、ご当地グルメ「なみえ焼そば」や請戸漁港で揚がった、しらす丼も売られていた。

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道の駅なみえの直売所
Yuko Kawashima

道の駅から徒歩数分のところには、コンビニやスーパーもあり、食品や日用品の買い物には困らない。

お昼ごはんには、ご当地グルメを使った「なみえ焼そばパン」をテイクアウトした。

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道の駅なみえのパン屋で販売されている「なみえ焼そばパン」
Yuko Kawashima

食後は、週末など余暇の過ごし方について知るために、道の駅から車で5分の位置にある、JR浪江駅そばの交流施設「ふれあいセンターなみえ」を訪れた。

ここには、ボルダリング施設やランニングコース、ナイター完備の野球・サッカーのグラウンド、図書館が揃っている。

ボルダリングでは、週末や平日夜の仕事終わりの時間帯に、人々が訪れて体を動かしてリフレッシュしているという。

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ふれあいセンターなみえのボルダリング
Yuko Kawashima

道の駅、ふれあいセンターなみえの双方に、子どもが遊べるキッズスペースもあるので、小さな子どもがいる家族連れも安心だ。

ふれあいセンターなみえの隣にある「浪江町地域スポーツセンター」にはトレーニングルームも完備されている。

浪江町の暮らしやすさについては、宝島社が発行する「田舎暮らしの本」(2024年2月号)の「2024年度版 第12回 住みたい田舎ベストランキング」の「人口1万人未満の町」の総合部門と若者世代・単身者部門で1位を獲得するなど、高い評価を受けている。(*1)

現地を訪れ触れた人々の思い。さらに進化する浪江と移住

今回、移住について知るという目的で浪江町を訪れ、浪江の人々のあたたかさや、さらに町を発展させていこうと奮闘する地元の人々や移住者のポジティブな思いに触れた。

全町避難で一度は住民がいなくなったこの町だからこそ、自分たちの手で浪江に活気を戻し、官民連携で盛り上げていきたいという、熱い思いがそこにはあった。

浪江駅周辺では今、建築家・隈研吾氏も参加する整備計画が進んでいる。「まちの顔」として、駅前に商業施設や広場、住宅などが建設される予定で、浪江町がさらに活気付き、住みやすくなることが想像できる。

筆者自身、これまでにも、復興支援活動や観光で東北や福島を訪れた経験はあったが、今回は「移住してみたら、どんな生活?」という目線でモデルコースを回り、これまでとは違った福島を発見することができた。

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浪江町の中心部を少し海側へいくと、緑や川の美しい光景が広がる
Yuko Kawashima

ふくしま12市町村移住支援センター長の藤沢烈さんは、移住を検討している人に対し「ぜひ実際に現地を訪れて、先輩移住者の話を聞いてほしい」とし、こう話す。

「移住の決め手で一番大きいのは、その地域の人との繋がりです。実際に現地を訪れて同年代の先輩移住者の話を聞くことが移住を決断する後押しになっています」

移住に関心を持ったら、まず現地を訪れ、見て、聞いて、話して、五感で福島を感じることが1番の近道なのかもしれない。

福島移住に関するオンライン調査(*2)でも、地域の雰囲気や移住後の日常生活について知り、先輩移住者の話を聞くために「現地に実際に行き、現地の人の話を聞きたい」という声が多かった。1人でも多くの移住検討者が福島を訪れやすいようにと今回、モデルコースが作られた。

ふくしま12市町村移住ポータルサイト「未来ワークふくしま」のウェブサイトでは、地域別や「子育て」「農業」などのテーマ別のモデルコースが公開されている。

地方移住や福島移住を少しでも考えている人は、ぜひこのモデルコースを参考に、気になる地域を回ってみてはいかがだろうか。

 

(写真=川しまゆうこ)

 

注釈)

*2 公益財団法人 福島イノベーション・コースト構想推進機構「福島移住促進に向けた インターネットパネル調査分析」(2024年3月)