福島県は2013年11月12日、「県民健康管理調査」検討委員会において、福島原発の事故発生当時に18歳以下だった子供の甲状腺検査の結果を明らかにした。2011年度から2013年度の3年間の間に検査を受け、結果が判定された約22万6000人のうち、甲状腺がんやその疑いがあると診断された人は59人だった。
一般に甲状腺がんは被爆後、4~5年後に著しく顕在化してくる。原発事故による甲状腺がんのデータはチェルノブイリ原発のものがあるが、現時点では福島のデータと同じ条件で比較することはできない。ただ一般論として考えれば、今回の調査結果はかなり深刻なものと捉えてよいだろう。
被爆がない場合、子供に甲状腺がんが発見されるのは100万人あたり17人程度であり、59人という数字はそれよりも高い。しかも59人というのは3年かけて30市町村で検査した累計であり、各年度での母集団が異なっている。確率を考えるのであれば、年度ごとに区切った方がより正確であり、その場合、最もサンプル数の多い2012年度では100万人あたり317人ということになる。
甲状腺がんは、詳細に検査しないと発見されないため、100万人あたり17人という被爆がない場合の数字は実際にはもう少し高いと考えられる。しかしケタが一つ上ということになると、統計的には有意と判断してよいだろう。
チェルノブイリ原発の事故では、ベラルーシにおいて、事故後2年で100万人あたり9人、事故後5年で100万人あたり41人の甲状腺がんが発生したというデータがある。これはベラルーシ全体の子供の数に対して、実際に甲状腺がんの手術が行われた件数が元になっている。福島県の調査は手術した数ではなく甲状腺がんと判断された数なので条件は同一ではない。ただ事故後2年後で100万人あたり317人という数字はかなり大きく、もしこれが原発事故の影響ということであれば、チェルノブイリ原発以上の被害となる可能性が高いことを示している。
また気になるのが、がんは発症していないものの、甲状腺に何らかの異常がある人の割合は、2012年度で44.7%に達するというデータである。チェルノブイリにおいても20%から50%程度に何らかの甲状腺異常が認められており、こちらのデータとも整合性が取れる。
大量の放射能が拡散した現実を考えれば、チェルノブイリと同等、あるいはそれ以上の被害が発生しても何ら不思議はない。こうした統計データはその正確性を証明するのにかなりの時間がかかるため、最終的なデータの検証を待っていては効果的な対策を打つことはできない。現時点において100%の証明ができなくても、原発による影響であることを前提に、各種の対策を講じる必要があるだろう。
また、多くの子供の甲状腺に異常があるということは、はっきりとは認定できない健康被害が増える可能性があることも認識しておく必要がある。明らかな疾患を発症していなくても、免疫システムの異常による抗がん剤への耐性変化や感染症など、見えないところで影響が出てくる可能性がある。
過度に不安を煽る必要はないが、広域被曝の影響が完全には把握されていない状況を考えると、この調査結果は重く受け止めるべきだろう。
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