筆者は3月6日、事故後の対応を続ける福島第一原発の敷地内を取材した。
今も放射線量が高い地域が散在するなか、1日4000人もの作業員が防護服にヘルメットを着用して動き回っていた。
その量の多い少ないは人によって差があるものの、日々、一般の人以上の放射線を浴びながら、原発事故の後始末に従事する人々。
その姿は、間近に見ているだけで感慨深いものがあった。
そうした作業員の一人が作業中の事故で、亡くなったという。
原発事故の収束作業中の事故死は初めてだ。
それだけにショックを受けた。
亡くなったのは東電の「社員」ではなく、「協力企業の作業員」だいう。
安全管理は十分だったのだろうか。
救急対応は大丈夫だったのだろうか。
新聞やテレビの報道でも、そのあたりの詳細がない。
今朝の新聞報道で特に気になったのは、東京新聞だ。
福島第一で作業員死亡 周辺病院は閉鎖中 搬送63キロ先
問題なのは東電の通報の遅さ。現地対策本部には、事故から約十分後の午後二時半に一報が入ったが、同五十一分にまず各方面へファクスで事故発生の連絡を優先した。救急車を要請したのはさらに十八分後の午後三時九分だった。
たまたま救急車が近くを警戒活動中だったため七分で到着したが、通常なら三十分かかる。さらに、周辺の病院は閉鎖中で遠方まで搬送する必要があるため、救急車を多少待たせてもいち早く要請すべきだった。
東電の尾野昌之原子力・立地本部長代理はこの日の会見で「事故が起きたらすぐに救急車を呼んでおく、ということもあるが、今回はそうしなかった」と説明している。事故を受け、二十九日には全面的に作業を中止する。
出典:東京新聞
事故の後で「救急車の要請」が遅れた点を批判的な見地から記事にしている。
確かに福島第一原発は、原発事故で周辺の立ち入りができない地域が広がっているなどで、周辺の病院は閉鎖中。
いざという場合の救急体制などは、他の場所よりも時間がかかる。
また、これは先日、私自身が福島台地原発の敷地内に入って痛感したことだが、収束作業を行っている作業現場に入るには、「入退域管理棟」という建物で防護服、手袋、靴、ヘルメット、防護マスクなどを着用しなければならず、その上で被爆していないかスクリーニングして入るため、それだけで時間が15分から20分程度はかかってしまう。現場から出る時も同じような手順が必要だ。
このため、いったん内部で事故が起きれば、事故で負傷した人をどうやって現場から外へ運搬するか、放射線物質で汚れていないかどうか、どうやってスクリーニングをするかが大きな課題になってくる。
福島第一原発には、医師が常勤している。しかも、こうした「労災」のようなケースにも対応できる医師が原発事故の数ヶ月後から常駐している。
福島第一原発で常時医師を配置する体制が整いました。
このたび、別紙のとおり、(独)労働者健康福祉機構(※1)に対し、福島第一原発の労働者の健康管理に従事する医師の派遣について、協力を要請した結果、常時医師を配置する体制が整いましたので、報告いたします。
○現在、東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下、「福島第一原発」という。)においては、事故の収束に向け、多くの労働者の方に従事いただいております。
○こうした労働者の健康管理に当たっては、作業の特殊性にかんがみ、緊急時に医師が速やかに対応できる体制を構築する等の特段の対応が必要です。
○このたび、福島第一原発において、常時医師を配置する体制を整備する観点から、(独)労働者健康福祉機構(※1)に、医師の派遣を要請いたしました。
○これまでの産業医科大学から派遣されている医師(※2)に加えて、労災病院の医師が配置されることにより、福島第一原発内において、24時間体制の労働者の健康管理が可能となります。
出典:厚生労働省のホームページ
事故発生の連絡は東京電力が「報道関係各位一斉メール」としてホームページに発表している。
福島第一原子力発電所 掘削作業中における作業員の被災について 平成26年3月28日 東京電力株式会社 本日(3月28日)、固体廃棄物貯蔵庫にある空コンテナ倉庫付近(免震棟北側)で、掘削作業中の作業員が土砂の下敷きになったとの情報が午後2時30分頃に福島第一原子力発電所緊急対策本部に入りました。
現在、救出作業を行っております。
詳細についてはわかり次第、お知らせします。
出典:東京電力のホームページ
以下、そのつど「続報」を入れている。
福島第一原子力発電所 掘削作業中における作業員の被災について(続報)
平成26年3月28日 東京電力株式会社
本日(3月28日)、掘削作業中の作業員が土砂の下敷きになったことに関する続報です。 土砂の下敷きになった作業員を救出し、入退域管理棟救急医療室に搬送されました。
なお、本人については意識がなく、心静止の状態です。
その後、午後3時26分、救急医療室を救急車により出発し、磐城共立病院に搬送しております。
出典:東京電力のホームページ
福島第一原子力発電所 掘削作業中における作業員の被災について(続報2)
平成26年3月28日 東京電力株式会社
本日(3月28日)、掘削作業中の作業員が土砂の下敷きになったことに関する続報です。 被災された作業員の方については、午後5時22分に磐城共立病院にて死亡が確認されました。
亡くなられた方には心からご冥福をお祈り申し上げますとともに、ご遺族の皆さまには心からお悔やみ申し上げます。
なお、当該作業員は、空コンテナ倉庫北側の基礎杭補修のため、周辺地盤を2m程度掘削し建屋の基礎下でコンクリートのはつり作業を行っていました。
その際に、コンクリートと土砂が崩落し、当該作業員が下敷きになったことがわかりました。
また、災害発生の時刻は、午後2時20分頃であったことを確認しました。
現在、警察による現場確認を行っております。
当社といたしましては、今回の災害の発生原因について詳細に調査するとともに、再発防止に努めてまいります。
出典:東京電力のホームページ
では、昨日の事故では福島第一原発の常駐医師はどのように対応したのだろうか。
「常勤医師」の関与が気になって、東京電力広報部に取材してみた。
以下、その説明をまとめる。
14時20分、事故が発生。
作業員がその場で意識不明状態。
現場では作業員を運び出し、心臓マッサージなどの蘇生作業を行った。
14時30分、現場から福島第一原発の現地対策本部に連絡が入る。
14時50分、「入退域管理棟」に作業員を運び、放射線の検査を実施した後でER(救急救命室)で、「常勤医師」が診察。AED(自動体外除細動式)による蘇生やアドレナリンの投与による蘇生を試みる。
15時2分、より設備が整った医療機関での対応が必要と判断、救急車を要請。
15時16分 救急車が到着。
15時26分 救急車出発。
17時22分、磐城共立病院にて死亡確認。
こうした時間経過をみる限り、救急車の要請が遅れて救命対応に遅かったかと言えるかどうかは、現場での医師の判断などの詳細が分からない現状では、私には東京新聞の記事のように断言することはできない。
事故の現場や入退域管理棟での蘇生の試みがあったことから、事故直後の段階から、手を施しようがないケースであったことも考えられる。
ただ、東京新聞が指摘したように、いざ事故が起きた場合に「陸の孤島」状態である福島第一原発の救急体制を向上させるべきことは考えるべき課題だと思う。
ヘリポートを作って、ドクターヘリによる搬送もできるような体制も視野に入れてもよいだろう。
もちろん、事故などないにこしたことはない。
だが、4000人もの人たちが動きにくい防護服などを身にまとって働く、足場の悪い制約された現場だ。
日々被爆しながら、いわば命がけで働いている人たちのために、いざという時の救急体制を最大限に整えておくべきではないか。
おおげさに言えば、彼ら作業員は私たち日本国民のために働いていると言ってもよいのだから。
そのことを忘れてはならない。
(下請けの構図の問題など、事故が投げかけた他の問題については別途、記事を出していく。)
(2014年3月29日「Yahoo!個人」より転載)