フジテレビ「とんねるずのみなさんのおかげでした。」が30周年を記念したスペシャル番組を放送した。その中で「保毛尾田保毛男」に扮した石橋貴明と「ノリ子」に扮した木梨憲武が登場。
まさか2017年に「ホモ」という言葉をテレビから聞くことになるとは思ってもみなかった。
「この格好は28年ぶり」と話す「保毛尾田」こと石橋は、顔の下半分を青くして露骨な青ヒゲを表現し、頬はピンクに塗り、くぐもった話し方をする。
共にコーナーに参加したビートたけしが保毛尾田(石橋)を見て「別の国に行ったら死刑だぞ」と笑う。さらに「小学校のときこういうオヤジが公園で待っていた。みんなで一緒になって逃げたことある」と続ける。
ノリ子(木梨)がすかさず「あんたホモでしょ?」と聞くと
保毛尾田(石橋)は「ホモでなくて、あくまでも噂なの」と答えた。
きっとこのくだりが約30年前にやっていたネタなのだろう。全く面白くもない。
私は保毛尾田保毛男をリアルタイムで見たことはないが、人から当時の様子などを聞いたことがある。
年上のゲイの知人は、自身のセクシュアリティに悩んでいたとき、最初に見た同性愛のキャラクターが保毛尾田保毛男で絶望したと言っていた。
当時は今よりももっと声をあげにくかったのだろうと想像する。保毛尾田保毛男がテレビの中で同性愛者をネタにして、面白おかしく振る舞い、周りもそれを見て笑う。テレビを見ていた人たちは、次の日、学校などで保毛尾田保毛男のマネをして「ホモ」「きもい」と笑っていたのではないだろうか。
その中にはきっと同性愛・両性愛者の児童生徒もいただろう。痛みをこらえながら無理して周りにあわせ、一緒になって笑っていたかもしれない。そして、自分で自分のことを否定してしまう人もきっといたと思う。
私自身、中学高校時代、自分のセクシュアリティは人とは違う気持ち悪いもので、「笑いにする」か「隠す」しか方法はないと思い込んでいた。それはメディアや社会で同性愛者がそう語られていたからだ。
こんな負の遺産が、2017年に復活してしまった。
ここ数年で、ニュースの中ではLGBTなど性的マイノリティについて取り上げられる機会が多くなってきた。報道の分野では性的マイノリティ特有の困りごとを伝えたり、一般社会にLGBTが存在し生活していることを伝える側面が増えた。
ドラマでも、TBSの「逃げるは恥だが役に立つ」や日テレの「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」など、ゲイのキャラクターが日常に溶け込んでいる様子を描いたものも増えている。
しかし、バラエティの分野では、まだまだ同性愛という属性だけで笑いとして消費されることが多いと感じる。
フジテレビも、同社が運営しているニュースサイト「ホウドウキョク」ではLGBT LIFEというコーナーを設け、LGBTに関する情報を発信したり、今年5月にはTOKYO RAINBOW PRIDEに合わせてお台場のフジテレビ社屋を6色のレインボーにライトアップしたりと、積極的にLGBTに関する理解を広げている。
依然、性の多様性の理解に関しては過渡期で、知っている人もいれば知らない人もいる。同社の中でもそれは同じだろう。知らなかったのだとしたら、知ってもらえるようこれからも働きかけていきたい。
ただ、気持ちとしては番組制作に関わっていた誰かが「これ、ダメじゃない?」と気づいて欲しかった。一般社団法人日本民間放送連盟の放送基準11章-77には「 性的少数者を取り上げる場合は、その人権に十分配慮する。」と記載されている。懐かしいねと盛り上がっている中で、誰か一人でも気づいてくれていたら、何かが変わっていたのかなと思う。
この「保毛尾田保毛男」を懐かしいと感じる世代は、小学校や中学、高校生の子どもがいる人も多いのではないか。この番組をみた大人が何の悪気もなく懐かしがっているのを見て、自分のセクシュアリティに悩む子どもたちの心が翳るのを想像すると胸が痛い。
私は批判することは大事だと思っているが、批判だけして「同性愛を笑いにすると叩かれるからやめよう」という空気になってしまうのも違うと思う。性が多様であるという認識を広げ、今まで見えていなかっただけで、様々なセクシュアリティの人たちが、同じように毎日を生きていることを伝えていきたい。
メディアの表現物により良いものが増えていくよう、自分にできることをやっていきたい。