スナックで歌うのは遊興? 風営法改正について藤森純弁護士に聞いた

「ルールとして定められているものが、はたして本当に必要なものなのかどうかはきちんと検証すべきです」

2016年6月23日、改正風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部を改正する法律)が施行された。

風営法改正の必要性を聞いた前編、改正風営法における「特定遊興飲食店営業」の許可取得が厳しすぎるという問題を指摘した中編に続き、改正風営法が抱えるもうひとつの問題「『遊興』の定義」について、クラブとクラブカルチャーを守る会(CCCC)の事務局長・藤森純弁護士に解説してもらった。

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■一番の本丸、「遊興」の定義問題

――もう1つの問題として、「遊興」の定義問題があると思うんですが、どのような点が問題なのかお伺いできますか。

まずそもそも、法律に「遊興」というのがなんなのかという定義がないんですね。

「遊興」をどうやって定めているかというと、警察庁が出している風営法の解釈運用基準で、「こういうものが遊興にあたりますよ」「こういうものはあたらないですよ」みたいなことが示されていて。

それで「ああ、これはあたるのね」「あたらないのね」と判断するんだけれども、どうしてこっちはあたって、そっちはあたらないのかというのがあまり明確でない。そもそも「遊興」に定義がなく、さりとて「これが遊興なんです」ともはっきりと書かれていないのが、かなり問題だと思います。

――警察庁の言っている「遊興」の例で、明確に「遊興」にあたる場合、明確に「遊興」にあたらない場合、グレーの場合、を1つずつ教えてください。

まず、「不特定のお客さんに、ショー・ダンス・演芸その他の行動等をみせる行為」や、「バンドの生演奏を聴かせる行為」は「遊興」にあたるとしていますので、ライブなどは遊興にあたると考えることになります。

一方、「遊興」にあたらないものの中で「あれ、そうなんだ」と感じることの代表例としては、「カラオケボックスで、お客さんにカラオケ装置を使用させる行為」があります。

「お客さんがカラオケボックスで歌っていること自体は、『遊興』をさせたにはあたらない」とされているんですね。

――それは、遊んでいるのはお客さん自体で、カラオケボックス側は場を提供しているのみだから、という論理ですか。

そういうことなのかもしれないんですが…。カラオケに関しても、カラオケボックスであればお客さんが入力して勝手に歌っているかもしれませんが、たとえばスナックにカラオケ装置がある場合は、カラオケをお客さんにさせて、褒めそやすというか盛り上げたりすると、それは「『遊興』させた」という解釈になっているようなんで、そこはちょっとあまり良くわからないというか。

――スナック的なものについては、解釈を示していないわけではなくて、「『遊興』に当たる」という解釈がされている。

そうですね。

「カラオケの装置を設けるとともに、不特定の客に歌うことを勧奨し、不特定の客の歌に合わせて照明の演出・合いの手などを行い、または不特定の客の歌を褒めはやす行為」は「『遊興』をさせる」にあたる、としています。

――あいまいというか、判断されていない、場合によって異なるというような、いわゆる「△」的な事例は示されていますか。

「△」の事例は、警察庁の解釈運用基準としては出していません。

事例は考えればいろいろあるんでしょうけど、警察もあえて触れていないところがあると思います。

度合いとしてどの部分までが「遊興」をさせるにあたって、どこからが「遊興」させていない、と言えるのかというのは評価が難しい部分で、そのあいだの部分が「△」に入っていくとは思うんですけど。

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スナックで歌うのは「遊興」になる?

■ロックフェスは「遊興」ではない?

――「特定遊興飲食店営業」の解釈拡大によって、いままで取り上げてきたナイトクラブやライブハウスという2つの営業形態以外にも、規制が及びうるものはあるのでしょうか。たとえば、ロックフェスなどはどうですか。

ロックフェスに関しては、警察は「特定遊興飲食店営業」にあたらない、という判断をしています。

なぜそういう考え方をするかというと、「特定遊興飲食店営業」というのは、構成要素が3つありまして、

・「深夜にやること」

・「お酒を提供すること」

・「お客さんに『遊興』をさせること」

です。この3つの要素が全部合わさったものが「特定遊興飲食店営業」にあたる、と言っている。

ロックフェスは深夜をまたいで行われる場合もありますが、警察の説明としては、

「お客さんに飲食物を提供しているエリアと、お客さんがライブを観るエリアがくっきり分かれている。ライブを観るところにお客さんがお酒を持って行ったりしているが、それはお客さんが勝手に持って行ったんであって、フェスを主催している側がさせているわけではない。なので、『特定遊興飲食店営業』にあたらないと解釈できるのではないか」

という趣旨のことを言っています。

――今の説明だと「バーカウンターとダンスフロアが分かれているタイプのナイトクラブ」との差異はどういうところになってくるのでしょうか。

そこは考え方として難しいところです。飲食をさせるバーエリアと「遊興」のエリアが扉によってくっきりと分かれていた場合に、はたしてそれが「特定遊興飲食店営業」にあたるのか、という部分は、解釈の余地があると個人的には思っています。

――フェス以外に、これは明確に「特定遊興飲食店営業」にあたらないという判断が既に示されているものはありますか。

映画館です。映画館も、先ほどの論理と同じで「お酒などを売っているのは外のロビーで、そこと映画を観るフロアとはくっきり分かれている。飲食物の持ち込みはお客さんが勝手にやっている」という理解になっているので、オールナイトの映画上映が「特定遊興飲食店営業」の規制にかかるかというと、そうではないんですよ、という整理をしているようです。

なお、映画を単に上映して客に観せることについては、警察は「遊興」をさせたことにあたらないという解釈もしています。

――ロックフェスと映画館以外にはありますか。

例えば、スポーツバーで単に試合の映像を流しているだけで店側が積極的に客を盛り上げるといったことをしなければ、「遊興」をさせたといえないとしています。

また、寄席、歌舞伎、クラシック音楽のための劇場等についても専らお客さんに興行を楽しんでもらうための施設で、一般的には飲食店にあたらないことが多いので、特定遊興飲食店営業の許可は必要ないという整理をしています。

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ロックフェスはセーフ。しかしバーは…

■法改正の真価はこれから問われる

――改めて、2016年6月23日をもって、何が変わったという風にお考えですか?

ひとつとしては、深夜の飲食店で客に「遊興」をさせることが解禁されたことがあるのではないでしょうか。

――それに対して、事業者側の対応は十全に進んでいるのでしょうか。

正直申し上げて、立地の問題などもあって特定遊興飲食店営業の許可を取るのが難しい店舗さんもあると聞いていますし、若干様子見の部分もあるんじゃないかと思います。

――現状を受けて、CCCCや藤森さんご自身としては、どのような活動を続けていくおつもりでしょうか。

ルールに関して日本には「お上が言ったことはそのままルールとして受け入れて、守んなきゃいけないものなんだ」というような考え方がどうしても根深くありますし、私もそういったところがないとはいえないです。

でも、ルールとして定められているものが、はたして本当に必要なものなのかどうかはきちんと検証すべきです。そこが時代に合っていなかったり、何かのボトルネックになっていたりするのであれば、それを解消していくように動いていく。それができれば、より住みやすい世の中がつくれると思います。

今回、風営法が改正されたことに関して、定義の定まらない「遊興」を問題視して「改悪なんじゃないか」と評価される方もいらっしゃいます。もちろんそういう風になってしまう可能性もあるかもしれない。けれども、そうなりかけたとしても、よりよい方向になんとか変えられないかと考えていくほうが、いいんじゃないかなと自分は思っています。

今回の法改正が、たしかにいい面もありつつ、問題点も残っているということは厳然たる事実です。その中でどれだけ少しずつでも問題を解消していくかというのを考えて、これからも活動できていけばいいなと思っています。

それは恐らくCCCCの人たちも同じように思っていて、おそらく今後も何かしらの形で、自分たちの文化を守ったり発展させたりしていくために活動していくんじゃないかと思います。

CCCCのユニークなところは「事業者でない」という立場なので、そこからどういう風にやっていこうかというのを新たに模索して、やっていくのかなと。そういう役割が必要なときはまたかならず来ると思います。

■価値観の違う人々と共存していくために

――クラブカルチャーや風営法の問題に特に関心のない一般市民が、この問題に対して考えるべきことはありますか。

自分としては関心がない方に関心を持てと強制することではないと思うし、「わかってくれよ」みたいな感じで訴えることであるとも思っていないんですけど。

ただ、これだけいろいろな価値観がある世の中で、自分の考えに合わないものに対して、短絡的に「自分の趣味に合わないから」と排斥するのではなくて、「あ、こういう人たちもいるんだ。そういう人たちもいていいよ。ただし、ルールは守るとか、こっちが寝る時間には静かにしてくれるとか、そういうところはきちんとやってくれよ」というような考え方をする人が増えればいいなと。

自分の趣味ではないし、自分の理念には合っていないけれども、他の人がやっている事自体は許容する、ということができるような世の中になっていけばいいなとは思っています。

自分にも、好きなものと興味がないものはやはりあって。でも自分にとって興味がなかったとしても、他の人にとっては興味があるものだったりする場合も当然あるじゃないですか。

その時に、自分は興味が無いものだからこれはいらないんだっていうのはちょっと…おこがましいと思うし、そういうことをすることによって、かえって自分の好きなものも脅かされてしまうってこともあると思っているので。

価値観を理解するというところまではいかなくとも、別の価値観があること、存在するっていうことを認めることができるようになればいいなという風に思っています。

…ちょっとふわっとしていますが(笑)。

――藤森さんにとって、「ルール」というのはどのようなものですか。

そうですね…基本的には社会っていうのは、複数の人達のやり取りの中でできているものなので、自分1人だったらそんなルールは要らないかもしれないけれど、自分と価値観が違う人達と共存していくためにはそういうルールはなきゃいけなくて。

でも、そのルールを金科玉条のごとくただ受け容れるんじゃなくて、そのルールが果たして必要なのかどうかは常に検証していかなければいけないとは思っています。

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