普段の暮らしやビジネスに欠かせない、さまざまな紙製品。その源である森林は本来、時間がたてば成長し、いつまでも使い続けることのできる再生可能な資源です。しかし、世界には今も、紙を生産するための破壊的な森林伐採が続いている地域があります。もし日常使っている紙製品が森林破壊に関わっているとしたら...? 森林を適切に管理し、消費者もそうした森林からつくられた製品を見分けることができるよう、WWFは森を守りながら利用していることの証であるFSC(R)の普及に取り組んできました。2014年8月には、暮らしの中の身近な紙製品の一つ、飲料用の紙パックに日本では初めてとなるFSCの認証を受けた製品が登場しました。
FSCとは「森を守るマーク」
店頭やインターネット通販等で手に入る、多種多様な紙製品。
紙の環境配慮に関わる情報にもいろいろなものがあり、なかには「植林木を利用しています」と書いてあるものもあります。
しかし「植林木」とあれば、本当に環境に優しいのでしょうか? そうとは言い切ることはできません。なぜなら、そうしたものの中には、自然林を破壊してつくられた人工の森(植林地)も含まれているからです。
では使用する紙製品が、森や生き物、そして地域の人々に悪影響を与えて生産されたものではなく、環境や社会に配慮してつくられていることを、どうしたら確認することができるでしょうか?
完成した紙製品を見てみてもそれを見分けることは難しく、消費者が環境や社会に配慮した製品が欲しいと思っても、手に取った商品の背景にそうした問題があるかどうかを、知るすべがありません。
しかし、それを可能にする信頼の証となるのが、FSCのマークです。
FSC(Forest Stewardship Council(R):森林管理協議会)は、木材を生産する森林と、その森林から切り出された木材の流通や加工の過程を「認証」する制度を管理する国際機関です。
その認証は次の3つの条件を満たした製品に与えられます。
- 森林の環境保全に貢献していること
- 地域社会の利益にかなっていること
- 経済的にも継続可能な形で生産されていること
そして、消費者はFSCマークが入った製品を選択することで、世界の森林保全を間接的に応援できる仕組みになっています。
FSCが発足したのは1993年。前年にブラジルで開かれた環境と開発に関する国連会議「地球サミット(リオ・サミット)」でも大きく注目された「持続可能な開発」という考え方を、森林資源の利用について実現させるための施策として設立されました。
WWFもその立ち上げに尽力。以後、約20年にわたり、森林保全の施策の一環として、その普及に取り組んできました。その間、FSCが認証してきた森林面積も着実に広がり続け、現在では2億ヘクタール、日本の国土の約5倍の広さに近づいています。
日本で踏み出された、さらなるFSC普及の一歩
近年は、木材や紙はもちろん、自然資源を使ったビジネスを手掛ける生産者と、製品やサービスを手にする消費者、双方の間で環境に対する意識や関心が高まり、持続可能な製品を求める声なども多く聞かれるようになりました。
そうした中、身近な紙製品にFSCの認証紙が採用される例が、日本でも着実に増えています。
2014年8月には、日本で生産されたものとしては初めてとなる、FSCマークの付いた紙パック飲料が、スーパーなどの店頭に並び始めました。
これは、2013年11月に、日本テトラパック株式会社が日本国内の工場でFSCの認証を取得し、2014年6月より出荷を開始した包材を使用したものです。
このFSC認証の紙パックを利用した製品として、2014年8月には、森永乳業株式会社の飲料「ピクニック」が、9月には、日本生活協同組合連合会(CO・OP)が、取り扱う紙パック飲料の37品にFSCラベルの表示を開始すると発表しました。
世界各国で、多種多様な紙容器を取り扱うテトラパック社は、将来的には調達する紙原料の100%をFSC認証紙にするという目標を掲げています。
さらに同社は、ビジネスに欠かせない紙原料のトレーサビリティの強化や、その持続可能性を確実にするために、原紙の供給会社やFSC、WWFと連携を進めているほか、今後日本では、ウェブサイト等を通じて持続可能な森林資源の利用とFSCの認知度向上を目指し、一般の消費者に広く伝えてゆく計画があることも発表しました。
また、これまでも森永乳業株式会社は他の製品のパッケージに、日本生活協同組合連合会はティッシュやトイレットペーパーなどの紙製品で、FSC認証紙を採用してきました。
今回の、日本テトラパック株式会社の認証紙を使った製品の販売開始について、日本生活協同組合連合会、第一商品本部菓子飲料部部長の松山幸永氏は、「生協のプライベートブランド「コープ商品」が大切にしている価値のひとつに「環境への配慮」があり、持続可能な社会をめざした商品づくりにつとめています。その中で、たくさんの生協組合員にご利用いただいているコープ飲料の一部の紙パックにこのたびFSC認証を受けた容器を採用させていただけることになり嬉しく思います。これからも組合員の願いに応える商品を追求し続けて参ります」と言います。
持続可能な紙の利用を目指して
日本における、FSCに対する消費者の認知は、欧米などの先進国と比較すればまだまだ低いのが現状かもしれません。
しかし、ビジネスや暮らしに欠かせない紙の利用を、より環境や社会に配慮されたものにしようと、具体的な取組みを見せる企業は、国内でも確実に増えています。
その一例が、2013年11月に発足した「持続可能な紙利用のためのコンソーシアム」です。
このコンソーシアムは、紙の利用について先進的な取組みを行なう日本の企業5社(味の素株式会社、キリンホールディングス株式会社、JSR株式会社、ソニー株式会社、三井住友信託銀行株式会社)が、環境や地域社会に配慮した紙の利用が社会全体で拡大、浸透することを目指し、株式会社レスポンスアビリティとWWFジャパンとの協働のもとに立ち上げたものです。2014年6月にはカシオ計算機株式会社と株式会社ニコンの2社が新たに加わっています。
最終消費者に近い企業が、こうした取組みに参加することで、一般の消費者の間に、環境に配慮した紙製品が流通し、認識もより広がることが期待されます。
WWFジャパンでも、FSC認証製品がもっと簡単に手に入るように、また、そうした認証製品が消費者に選ばれるように、引き続きその情報発信に努めてゆきます。