マリーヌ・ルペン氏が率いるフランスの極右政党「国民戦線」で、内部対立が顕著になってきた。5~6月にかけてあった大統領選と国民議会選での惨敗をきっかけに始まった党改革の中で、幹部らの路線の違いが鮮明になってきたからだ。
例えば、国民戦線が以前から主張している「EUの共通通貨ユーロから脱却し、国民通貨フランを復活させる」という議論。7月頭に党内の2人の経済学者が、有権者にとって「あまりにも不安をかきたてる」この政策を放棄するよう示唆したところ、約2週間後に副党首のフロリアン・フィリッポ氏が、「脱ユーロ・独立路線」を改めて貫き通すべきだとする文書を公開。「脱ユーロ政策」の放棄に歩み寄りを示すルペン党首が、フィリッポ副党首の側近であるソフィー・モンテル氏を幹部の地位から追いやるという事態に発展した。
こうした内部対立の動き受けて、党は7月21、22の両日に会議を開き、今後の党のあり方について話し合った。「党再編」に向けた動きは、必然的に党の重要政策・路線の再検討に関わってくる。「私はすべてを変えたいのです」とルペン党首は明かし、1970年代に創設されたこの政党を根本から見直すべく、会議のテーマを7つの項目に分類した。すなわち、(1)キャンペーンの計画とテーマ、(2)戦略、(3)党運営の仕組み、(4)連携組織の推進と運営、(5)選挙キャンペーンと公開討論会の組織、(6)プロパガンダと広報戦略、(7)当選議員の各地方への定着である。
「とても順調に運びました。建設的で、礼儀正しく、非常に興味深い会議でした」。1日目の終わりに、フィリッポ副党首はこのように請け合った。「私たちは国民戦線の将来、その再編について話し合いました。目的は、よりいっそう人々を寄せ集め、魅了し、熱狂させる大きな運動を作ることです。マクロンのシステムに対峙する運動が必要なのです」
単なる上辺だけの改変だろうか、それとも真の政治改革だろうか。2日間の会議は、いずれにしても、国民戦線の党員たちの野心あふれる調子を伝えるものだった。
■政党名の変更
この象徴的な作業はすでに実行に移されたようだ。初代党首のジャン=マリー・ルペン氏がいかなる修正を加えることも反対していたこの極右政党の歴史的名称が、まもなく消えようとしている。娘のマリーヌと現副党首は、この政党名が選挙戦でのさらなる勢力拡大に歯止めをかける要因になったと判断したのだ。「"国民戦線"は"国民戦線"以上のものを集めることができません。新しい現実があるならば、この新しい現実には新たな名前が必要だと私は思います」とルペン党首は6月に述べていた。またフィリッポ副党首はさらに言葉を強くして、国民戦線という名称は「人々に恐れを抱かせる」とし、いつの日か党が覇権を握ることを目指すのであれば、この名前はそれに必要不可欠な選挙的基盤を確保するのに足枷となると評した。
では「国民戦線」に代わる名称とは何だろうか?具体的な回答は持ち越しとなった。
■党運営の再編
「党運営の仕組み」の見直しは、今回の会議の大きなテーマだ。とはいえ党規約の全般的な改変を声高に主張した幹部は、きわめて少ない。国民戦線の将来に重くのしかかる、ジャン=マリー・ルペン前党首の複雑な立場という問題も残っている。公式には引退を表明しているルペン氏だが、党規約に基づいて「名誉党首」の地位に就いており、結果として党の戦略的会合の場で未だに発言権を持っている。
党規約の改変は少なくとも、国民戦線が白紙から再出発し、ジャン=マリー・ルペンという過去のページを決定的にめくることを可能にするのではないか。
■「脱ユーロ」議論に終止符を打つ
「脱ユーロ」問題は大統領選以来の争点だった。何人かの幹部は、この問題こそ選挙戦で中道の有権者を惹きつけることのできなかった要因だとしていた。「脱ユーロ」をめぐっては、フロリアン・フィリッポ副党首に代表される「独立路線」信奉派と、伝統的に右派政党に根強く存在する保守層とのあいだに深刻な溝が生まれている。
ユーロやEUからの脱却は「一般的な有権者、もっと言えば大部分の有権者が納得していない考えです。ですから我々は、そうしたことを考慮に入れない訳にはいかないでしょう」。国民戦線のニコラ・ベイ幹事長はこのように語った。
大統領選の公開討論でも弁論に苦戦したこの問題に関して、ルペン党首には譲歩する準備ができているようだ。「私たちは国民通貨(フラン)への回帰が、人々に不安を引き起こすものであったこと、フランス人の多くがその必要性を感じていなかったことを自覚しています」とルペン氏は6月に認めていた。
しかし彼女の右腕のフロリアン・フィリッポ副党首が、問題をかき乱している。「もし明日わが党が、通貨の主権、すなわち国家の主権を放棄するのであれば、私はもはやそこで何もできなくなるでしょう」とフィリッポ氏は予告した。
■根本政策の問題
通貨問題以上に摩擦の種となっているのが、国民戦線が長年集中的に取り組んできた、移民や治安に関する根本政策だ。「フィリッポ派」の党員たちは、教育や環境問題など新たな政策議論に立ち入っている党員がいることに懸念を示し、従来通り「移民」「イスラム教徒」「治安」の問題摘発に集中するよう同胞たちを戒めている。
一方で党内の多くの幹部が、こうした国民戦線の根本政策は、大統領選のキャンペーン中にほとんど取り組まれていなかったと考えている。拡大する移民問題やテロの脅威の中で、そうした政策が反響を呼んでいたにもかかわらずだ。「有権者がこの2017年、私たちに期待しているのは、移民、治安、イスラム過激派との闘いに関する問題です。なぜならそれらは今現在の心配事だからです。それは事実であり、具体的であり、過去ではなく、ひりつくように熱い現在に属する問題なのです」。ルペン党首の姪であるマリオン・マレシャル=ルペン氏の側近、エルヴェ・ド・レピノー氏は極右サイト「ブルヴァール・ヴォルテール」でこのように苛立ちを示した。
マリーヌ・ルペン党首の路線は「移民や治安に関する従来の国民戦線の言説を飛び出て、すべてのフランス人に向けて、あらゆるテーマについて話せるようになるというものです。この路線に戻れば、わが政党が覇権を握る日は遠ざかるでしょう」。フィリッポ副党首はこう警告している。
■他政党・勢力との連携
他の政治勢力との連携に挫折するという政治的袋小路から、国民戦線が脱するにはどうすればいいか?大統領選中、ニコラ・デュポン=エニャン党首率いる右派政党「立ち上がれフランス」と手を結ぶことで、その最初の一歩は踏み越えられたものの、連携は短命に終わった。
ルペン党首はその必要性を確信している。「我々は国民戦線という垣根を越えて、フランスのための闘いを続けたいと望む人々を、迎え入れることができる運動を組織せねばなりません」。
「つまり我々はニコラ・デュポン=エニャンと共に行動を続ける必要があるということです。現在の政治的位置がよく分からない人々についても、私は会いに行こうと思っています」こうフィリッポ副党首は述べながら、具体的な名前として共和党のナンバーツーであるローラン・ヴォキエ氏を挙げた。「彼と話して、お茶でも飲むことができれば光栄です。少なくとも話すためには、顔を合わす必要がありますね」。またフィリッポ氏は、ニコラ・サルコジ元大統領のアドバイザーだったアンリ・ガイノ氏についても、「同じく話し合うことができるはずです」と付け加えた。
ハフポスト・フランス版より翻訳・加筆しました。