室温から絶対零度近くの極低温(0.08K=Kは絶対温度ケルビンの略、-273℃)まで2時間以内で冷やす小型の物性測定用冷凍機(ADR、断熱消磁冷凍機)を、東北大学金属材料研究所の青木大(あおき だい)教授らと低温物性装置メーカーの日本カンタム・デザイン(東京)が共同で開発した。通常の冷凍機と異なり、磁気を用いて冷却し、従来の50~100倍も速い世界最速の冷却速度を達成した。簡便な極低温冷凍機として研究現場で新しい材料の開発などに役立ちそうだ。9月5日に東北大学で発表した。
物性研究や材料開発では、極低温の条件が重要である。超伝導や磁性など物質の基本的性質の多くは極低温で明らかになるためだ。通常、0.1K以下の極低温を得るには、高価で大型の冷凍機を使う。この冷凍機では、室温から極低温まで温度を下げるのに数日から1週間程度の長時間を要する。新しい超伝導体や磁性材料の開発などの競争激化で、極低温まで素早く簡便に冷やせる冷凍機の開発が待ち望まれている。
今回、共同で開発した冷凍機は、物質の磁気的性質を巧みに利用した簡便、安価な冷凍機で、クロムミョウバンを冷凍材料として用いて、「磁気熱量効果」で極低温を得る方法を採用した。まず、米カンタム・デザイン社製 PPMS(物理特性測定システム)で、2Kまで磁場中で冷却した後、断熱状態で磁場をゼロに下げると、吸熱反応が起きて 0.08Kの極低温まで冷やせた。室温から 2 時間以内に到達することができた。
物性測定用の冷凍機としては、従来の冷凍機の 50~100 倍もの冷却速度と、けた違いの性能を示した。従来の冷凍機と比べて、モーターなどの機械的な動作が不要で、原理が単純なため、故障が少なく、半永久的に使えるメリットもある。今回の極低温冷凍機は、世界標準の米カンタム・デザイン社製 PPMS と組み合わせれば、パソコンのクリックだけで、室温から 0.1Kまで短時間に冷却できるようになった。
既存の極低温冷凍機は低温寒剤として-269℃(4K)の液体ヘリウムが必要となる。現在、ヘリウム資源の枯渇、需給バランスの崩れにより、液体ヘリウムの入手は困難になりつつある。今回開発した極低温冷凍機はヘリウムを使わない極低温冷凍機としても意義は大きい。サイズは高さ10センチ、直径2.5センチほどの円柱状で、手のひらに載るぐらい。日本カンタム・デザインが製品化して、1台350万円で売り出した。
青木大教授ら研究グループは「この磁気熱量効果による冷凍機の開発は『コロンブスの卵』のような発想が基になった。ヘリウム危機という背景のもと、磁性・超伝導の基礎研究に携わる大学研究者のひらめきに端を発した、企業との共同開発の成果だ。新しいこの極低温冷凍機は全世界で使用され、極低温研究の新しいツールになるだろう」と期待している。
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・東北大学 プレスリリース