フランス大統領選の決選投票に進出した極右政党「国民戦線」のマリーヌ・ルペン氏は4月24日、選挙期間中は党首を一時的に離任すると発表した。これは決選投票に先立ち、過去に物議を醸してきた政党のイメージを払拭するための政略的な動きと見られている。
しかしさらなる論争が待っていた。党首代行として新たに指名されたジャンフランソワ・ジャルク氏が、1週間も経たないうちに辞任した。ジャルク氏は、第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるガス室使用は「ありえない」と過去に発言したことが明らかになり、4月28日に突然辞任した。これは、ルペン氏の選挙選や国民戦線を「脱悪魔化」するために徹底してきた努力を水の泡にするものだ。
反ユダヤ主義とホロコーストの否定は犯罪となるが、国民戦線を何年も悩ませている問題の1つでもある。ルペン氏の父親で国民戦線を創設し、40年近く党首を務めたジャン=マリー・ルペン氏は、ホロコーストを「歴史的にはささいなこと」に過ぎないと繰り返し発言して有罪判決を受け、何度も罰金を科された。マリーヌ・ルペン氏は党を引き継いだ後、2015年に父親を党から除名した。
しかし新たに明るみになったジャルク氏の発言は、政党のイメージチェンジを図ろうと苦心するルペン氏に打撃を与え、父親の悪名高い発言を思い起こさせた。2000年のインタビューで、ジャルク氏はナチスが致死性のガス「ツィクロンB」を使用して数百万人のユダヤ人を虐殺した事件に疑問を呈した。
インタビューによると、ジャルク氏は「私としては、技術的に不可能だと考えています。そのガスを使用して大量虐殺するのは不可能です」と語っている。
失脚したフランスの国民戦線党首代行ジャンフランソワ・ジャルク氏(左)は、大統領候補マリーヌ・ルペン氏と交代してからわずか数日で辞任した。Getty Images
ジャルク氏は当初、このような発言はしていないと否定した。今後は国民戦線のスティーブ・ブリワ氏が党首代行に就く予定だが、ジャルク氏の失脚はルペン氏とそのポピュリスト政策にとって最悪なタイミングだ。5月7日のフランス大統領選の決選投票で、ルペン氏は中道派の政治運動「アン・マルシュ!」を率いるエマニュエル・マクロン氏と対決する。マクロン氏は世論調査でルペン氏をリードしている。
今回のフランス大統領選は、スキャンダル続きだ。
駆け出しの政治家で、高校時代の先生と結婚したマクロン氏は、2016年1月の経済相在任時、アメリカ・ラスベガスのイベント「CES」で不正な利益供与があったとされる疑いと、同性愛者との不倫疑惑で非難されている。
第1回投票で落選した保守中道の統一候補フランソワ・フィヨン氏は、公金を横領し、勤務実態のない妻と子供に不正に給与を支払っていた疑いで捜査を受けている。
欧州議会は27日、ルペン氏を500万ユーロ(約6億円)の資金を党の秘書の給与に不正流用していると非難した。ルペン氏はこの疑惑を否定しているが、調査が進んでいる。
ルペン氏はまた今回のホロコーストの件について疑問を呈し、1942年7月16日から17日にかけてパリで1万3000人以上のユダヤ人を一斉検挙し、ヴェロドローム・ディヴェール競輪場に収容し、アウシュビッツ収容所に送った「ヴェル・ディヴ事件」の責任はフランスにないと述べた。