第1回投票を4月23日に控えるフランス大統領選に向け、候補者たちは選挙キャンペーンを強化し始めている。しかしこのレースはすでにスキャンダルやさまざまな噂にまみれており、状況は見通せない。
最有力候補だった中道・右派の統一候補フランソワ・フィヨン氏が不正給与疑惑に対して謝罪し、現在支持率が上昇している中道・無党派のエマニュエル・マクロン氏は同性愛者との不倫疑惑を否定し、極右のマリーヌ・ルペン氏はアメリカのドナルド・トランプ大統領を称賛し、フランスの「主権」を取り戻すと誓った。
今回の大統領選では、伝統的に力を持つ政党が無党派や右翼ポピュリストの候補者たちに後れを取っており、まさにフランス政治の「不安定な時代」を反映している。2月8日の世論調査の結果によると、「国民戦線(FN)」のルペン氏とマクロン氏が最も支持を集めている。両者のどちらかが勝った場合は、既成政党以外からの初のフランス大統領となる。
わずか数週間前までは、大統領選の結果はすでに見えていると思われていた。2016年11月末の予備選で右派・共和党の統一候補に選ばれたフィヨン氏が、決選投票でルペン氏に圧勝すると考えられていたからだ。
しかし現在、フィヨン氏はスキャンダルで深刻な打撃を受けている。1月25日付の週刊紙「カナール・アンシェネ」は、フィヨン氏が100万ドル以上の公金を勤務実態に乏しい妻ペネロブ氏や2人の子供に給与として支払っていた疑惑を報じた。
■ 家族への不正給与疑惑で失速したフィヨン氏
記者会見するフィヨン元首相。/ Benoir Tessler
フィヨン氏は6日、妻の雇用について謝罪したが、あくまで妻は実際に給与分の働きをしていたと主張した。8日にも「隠すことは何もない」と弁明した。
フランスの有権者にとって、この縁故採用のスキャンダルは、既成の政治家から離れる理由になる。フィヨン氏の失策に乗じたのは、39歳の無党派エマニュエル・マクロン氏で、11月の立候補以来、急速に人気を高めている。6日の2つの世論調査によると、マクロン氏は2回目の決選投票に進み、ルペン氏に勝利する見通しという。
■ 同性愛者との不倫疑惑が浮上したマクロン氏
政治運動「アン・マルシュ(前進)!」代表、2017年大統領選候補のエマニュエル・マクロン氏。ROBERT PRATTA / REUTERS
マクロン氏は最有力候補になったことで、攻撃対象にもなっている。マクロン陣営の広報担当バンジャマン・グリボー氏は14日、ロシアが国営メディアの「ロシア・トゥデイ」や「スプートニク」を通じて中傷し、サイバー攻撃などで選挙妨害をしていると語った。
ルペン氏がロシアへのフィヨン氏もロシアとは戦略的な関係を回復すべきだと主張しているのに対し、マクロン氏は欧州連合(EU)を支持している。グリボー氏は「ロシアはフィヨンとルペンを支援している。ロシアは強い欧州ではなく、弱い欧州を望んでいるからだ」と語った。
保守派のニコラス・ドゥイク議員は、マクロン氏の背後に「非常に裕福な同性愛者の圧力団体」がいると主張した。これを受けてマクロン氏は7日、同性愛者との不倫疑惑を否定した。相手はラジオフランス社長のマチュー・ガレ氏とされる。
元経済相のマクロン氏は、自らを「アウトサイダー」として宣伝し、幅広い政治的立場の人たちを引きつけようとしている。またマクロン氏は中道的なキャンペーンでフランス経済の復活を訴えている。また、既成政党に反対するスタンスを示し、不満を持つ有権者の感情に訴えようとしている。
マクロン氏はキャンペーンでポピュリスト的な巧みな話術をいくらか使うが、マルペン氏はそれを自分の政治的アイデンティティの核にしている。ルペン氏のスローガン「国民の名において」は、トランプ氏の主張と似ている。反EU、反移民政策を長年にわたり政策に掲げている
世論調査によると、ルペン氏は第1回投票では勝利するが、決選投票でリベラルと穏健な保守派が協力すれば、完全に敗北する見通しだ。しかし、ルペン氏はこうした予測を無視しようとしている。トランプ氏の当選やイギリスのEU離脱を例に挙げ、「世論調査はあてにならず、自分は勝てる」と主張している。
■ トランプ氏にならい「フランス第一」を訴えるルペン氏
「国民戦線(FN)」党首で、2017年フランス大統領選候補のマリーヌ・ルペン氏。ROBERT PRATTA / REUTERS
ルペン氏のキャンペーンはトランプ氏と共通点が多い。製造業で失われた雇用の復活や、国境警備の強化などを主張している。ルペン氏はトランプ氏のイスラム圏7カ国の入国禁止令を称賛し、それに反対する行為は「不誠実」だと話した。
ルペン氏は4日にキャンペーンを開始し、1時間にわたる演説で、グローバリゼーションやイスラム原理主義者など身近な対象を標的にして抗議した。またルペン氏は反エリートを鮮明にし、「民衆のためのフランス」を実現できる候補者だとアピールした。
ルペン氏はトランプ氏について「既存の政治体制を打ち破って当選した。国益とアメリカ国民に従い、公約を迅速に実現する」と称賛し、自身もそれにならうことを誓った。
有力候補の3人に比べ、世論調査で出遅れているのは与党・社会党の候補ブノワ・アモン氏だ。アモン氏の選出は、支持率が低迷するフランソワ・オランド大統領が2期目に出馬しない意向を示したことが大きい。現職のフランス大統領が2期目に挑戦しないのは、1958年に第五共和政が始まって以来初となる。アモン氏は今のところこの大統領選では存在感を出せていないが、実験的な政策を公約に掲げている。例えばベーシック・インカムの導入や、仕事を奪うかもしれない産業ロボットへの課税を主張している。
最も勢いがあるのはマクロン氏だ。しかし、ここ数週間で事情は大きく変わりつつある。第1回投票が行われる4月23日まで、今後さらにスキャンダルや大きな変化が起こる可能性はまだ十分にある。
ハフィントンポストUS版より翻訳・加筆しました。
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