ボビー・オロゴンさんって覚えていますか。「外国人特有の」おもしろい日本語でお茶の間を沸かした彼です。カイヤさんなんかも含め、『外国人特有の片言の日本語』って、おもしろく聞こえるんですよね。愛嬌があるというか。大坂なおみ選手の日本語を「かわいい」というのと同じです。
日本では、外国人の片言日本語は、「なんだその発音」「なにその言い間違え」のように、笑いの対象になります。それは意地悪な意味じゃなくて、愛情のある、いわば「なにしてんねんお前(笑)」みたいな気持ちでの「笑い」であることが大半です。
一生懸命日本語で話している外国人を貶すような心の貧しい人もなかにはいますが、実際のところ、暖かく見守りつつ「愛嬌があるなぁ」という意味で「おもしろい」と感じている人がほとんどだと思います。
でも、いくら悪意がなくとも、それは「笑い」になっちゃいけないと思うんですね。そう思うようになったのは、わたし自身が外国語を勉強し、毎日外国語を話して生活しているからなんですけど。
外国人の言葉をおもわず笑ってしまう気持ち
ドイツ留学中、バーでお酒を飲んでいたときのこと。日本人留学生の男の先輩が、「ohne Scheiß」という言葉を使いました。
若い人、とくに男の人が使う話し言葉で、英語でいう「no kidding」。「まじ」よりもっと口語的、イメージでいえば「ガチ」というニュアンスでしょうか。学生やティーンエイジャーの男子が使う感じです。
それを聞いたドイツ人は、みんな爆笑。片言のドイツ語を話す日本人がゴリゴリの話し言葉を使ったのがおもしろかったようです。
たしかに、ふだん「今日、授業、むずかしい、できなかった」と片言で話している外国人が突然「ガチで」と言ったら、そのチグハグさをおもしろく感じるでしょう。
でも先輩はちょっと戸惑ったように「なにがおもしろいの?」と聞き、まわりに「似合わないから」と言われ、ムッとしていました。
先輩的には、ネイティブっぽいドイツ語を話したいから覚えたての話し言葉を使ったわけで。勉強したから、実践で使おうと「挑戦」したんです。それを笑われたんだから、ムッとしますよね。
この笑いは、ボビー・オロゴンさんが「まじでお前フザケンナヨ」と言うことで起こる笑いと同種です。悪意はなく、「なんかおもしろい」から笑っちゃうやつ。
それをキャラとして使っている芸能人ならまぁアレですが、日常生活でこの「笑い」は、外国語学習者にとってかなり意地悪なものに感じます。
というのも、この「笑い」をめぐってドイツ人パートナーに何度が怒ったことがありまして。新しく覚えた単語を使ってみよう!とチャレンジするも、「どこでそんな言葉覚えたの、使ってる人はじめて見たよw」と言われたり、まちがった言い回しを「かわい〜!!」と言われたり。
ええ、相手に悪気はありません。でも、馬鹿にされている気分になるんです。笑われると、チャレンジする気がなくなるんです。
悪意のない「笑い」がトラウマになることも
とまぁこんな感じで、外国語学習者の片言を笑うのってよくないなぁと思うわけですよ。
笑う側には多くの場合、悪意はありません。バカにするつもりもないし、なんならちょっと愛情をもってというか、微笑ましいというか、そんな気持ちですよね。
でもその悪意ない笑いが、外国語学習者にとってはものすごいプレッシャーになることもあるんです。辱められてる、みんなに笑われてる、みたいな。悔しいし恥ずかしい。
とくに日本人は、「まず話してみる」が苦手な人が多いじゃないですか。まちがえるのが怖くて話せないって人がたくさんいますよね。
そういう人が話す外国語に対する悪意のない笑いって、場合によってはトラウマになります。「わたしの英語笑われた......」って。
まぁ、ネイティブが軽く笑いながら「いやこれはこうだよ」って教えてあげて、外国人も「そっかありがとう!」って言えればいいんですけどね。そういう人ばっかりじゃないので。マジメであればあるほど、そういう「笑い」に耐えられなくて話すのが怖くなっちゃう人もいます。
だから、いくら悪意がなくても外国人の片言をおもしろがるのはよくないんじゃないかな、と思うわけです。
片言でも「話す」人に対する敬意
で、こういった「笑い」がまかり通っちゃうと、片言でも外国語をがんばって話す人に対する敬意が失われちゃうんじゃないかな、と心配にもなります。
そもそも、外国語で会話するってめちゃくちゃすごいことじゃないですか。とくに学校では習わない第3言語(英語以外)。
しかも異国の地であれば、まわりはみんなネイティブばっかですよね。そんななか、外国人がヨソの国の言葉を使ってがんばって話すわけですよ。それってすごい勇気のいる行為です。
まわりは、その国の言葉を勉強し、その言葉で気持ちを伝える外国人に、敬意をもってしかるべきだと思うんですね。だって相手は、こっちの文化に敬意をもって言葉を勉強してるんだから。
『さんまのからくり御殿』かなにかで東方神起の方やKさんが出演されていたときも、本当にすごいなぁと思いました。大人になってから勉強して、バリバリの関西弁に対してもちゃんと答えを返していて。
でもそういう人に対してですら、ちょっとした言い間違いで「笑い」が起きる。それがモヤっとするんですよ。
いやいや、それを笑うあんたは、日本語以外になんかしゃべれんのか。外国語を本気で勉強したことあんのか。ネイティブばっかりに囲まれながら話を振られるプレッシャーを感じたことがあんのか。そう思っちゃいまして。単純に失礼ですしね。
外国人の片言が「おいしいキャラ」になってるのにも違和感があるし、悪意がなくてもそれが「笑い」になることはよくないんじゃないか、というのがわたしの意見です。
外国語学習者からすれば、ネイティブから自分の外国語能力がどう評価されているかはかなり気になるところなので、気軽に「その言い間違いウケる」なんて言うべきではないのです。
気にしない人もいっぱいいるだろうけど、気にする人だっていっぱいいますから。
親しき仲にも礼儀あり。外国語でがんばってコミュニケーションをとる人の片言を笑わないようにしましょう、という話でした。
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