オリンピック、東京ではなくフロリダでやりませんか? 提案に「むちゃくちゃな話」と専門家ら批判

「提案は本当に馬鹿げており、妄想とも言える考えです」。オリンピック半年前の開催地移転提案に、専門家たちが反論しています。
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東京でやれないなら、フロリダでどうですか?

アメリカ・フロリダ州のジミー・パトロニス最高財務責任者は1月25日、IOC(国際オリンピック委員会)に2021年夏のオリンピック・パラリンピックの開催地を東京からフロリダに移すよう勧める書簡を送ったと明らかにした

このパトロニス氏の提案に、経済学者や公衆衛生の専門家たちが大きな疑問を投げかけている。

フロリダ開催を提案した書簡

パトロニス氏は書簡の中で、日本政府が非公式に2021年夏のオリンピックの中止を決めたという報道を引用している(IOCや日本政府は報道を否定)。

その上で「開催地選考チームをフロリダに派遣し、州や自治体の担当者とこのサンシャイン・ステートでのオリンピック開催を話し合う時間はまだあります」とし、「この機会に私はフロリダでの開催を提案します。そのために必要な人と皆さんを引き合わせることができます」と開催地移転を提案した。

パトロニス氏はまた、フロリダに「十分なホテルの空きや整備された交通網」や「スポーツ施設を備えた12の大学」があることを強調。

「そして何より重要なのは、フロリダにはオリンピックに喜んで携わりたいと考えているリーダーたちがいることです」と同州を売り込んだ。 

ホテルがあるからといって…

このパトロニス氏の提案には、様々な専門家が異議を申し立てている。

オリンピックの経済的影響を専門とする、ホーリークロス大学経済学者ヴィクター・マセソン氏は「フロリダにたくさんのホテルがあるからという理由で、オリンピックを6カ月以内に準備できるというのは、むちゃくちゃな考えだ」と強く批判する。

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お台場にあるオリンピックのモニュメント
ASSOCIATED PRESS

マセソン氏はまた、フロリダにはオリンピックサイズの陸上競技場や1万人を収容できる競泳用のプールなど、開催に必要なインフラが現時点で整っていないことを指摘。

感染状況から見ても提案は「あきれるほど馬鹿げた話だ」とマセソン氏は話す。

「東京が新型コロナウイルスのためにオリンピックを開催できないのであれば、フロリダでオリンピックを安全に開催するなど絶対にありえません」

「これは、大規模スーパー・スプレッダーになりかねないイベントを本当に開くべきかどうかを東京が真剣に考えていて、フロリダがそうではないということを意味しているだけです」

新型コロナの状況

フロリダは2020年夏に新型コロナウイルスのホットスポットになったものの、ここ数カ月は感染者数と人口当たりの死者数は減っている。

しかし、ニューヨークタイムズによると、同州は直近14日間の人口当たりの死者数が、最も高い州の一つだ。

パトロニス氏の書簡は、観客を入れるかどうかの想定や、各国のワクチンのスケジュールについては触れていない。

アメリカ政府は、夏までに国民大部分へのワクチン接種を計画している。しかし開発途上国のワクチンの供給は、先進国に比べて遅れるだろうと予想されている。

ジョンズ・ホプキンス大学の健康安全保障専門家アメシュ・アダリヤ氏は「一般的に考えて、感染連鎖を引き起こさずにオリンピックのようなイベントを開くのは難しい」と話す。

「スーパーボウルのようなイベントを開くと、状況は変わります。そしてスーパーボウルはオリンピックに比べればまだ開催しやすい方です。オリンピックは、検査計画や感染率、ワクチン供給計画などが異なる様々な国から、多くの人たちがやってくるのです」

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フロリダ州オーランドにある「ESPNワイド・ワールド・オブ・スポーツ・コンプレックス」のバスケットボールアリーナ。テレビカメラの横に消毒スプレーが置かれている(2020年7月29日)
AP PHOTO/ASHLEY LANDIS

パンデミックでの開催実績

パトロニス氏はまた、フロリダではパンデミックの最中にも大規模スポーツイベントが開かれてきたと説明している。

同氏が挙げているのは、オーランドにあるディズニーワールドで開かれたNBAの試合だ。NBAはディズニーワールドにあるスポーツ複合施設、ESPNワイド・ワールド・オブ・スポーツに「バブル」と呼ばれる隔離空間を作って、2019ー20後半のシーズンの試合を開催した。

しかし、ワシントンD.C.の内科医師カヴィタ・パテル博士は、バブルを成功に導いたのはフロリダではなく、NBAが徹底した手順を導入したからだと指摘する。

パテル氏はまた、2021年のオリンピックを安全に開催するためには延期は止むを得ないと話す。

「結論を言えば、最も安全な方法は2022年夏への延期です」

「そうはいっても、延期には多くの圧力があるでしょう。アスリートたちでさえフラストレーションを感じていると思います。しかし(2021年の)オリンピック参加は安全ではありません。もし観客を入れようと考えているのであれば2021年はありえません」

経済面からも撤退は「ありえない」

IOCのスポークスパーソンは26日、パトロニス氏の書簡を受け取っておらず、オリンピックは予定通り東京で7月23日、パラリンピックは8月24日にスタートする予定だと述べた。

またIOCは26日に発表したプレスリリースで、東京オリンピックのための新型コロナウイルス対策を発表した。

オリンピックの政治経済的コストを研究するスミス大学経済学者のアンドリュー・ジンバリスト氏は、IOCがパトロニス氏の提案に応じることは「ゼロだろう」と話す。

ジンバリスト氏もインフラの欠如や新型コロナウイルスの状況を挙げた上で「まったく信じられないような提案だ」とパトロニス氏の提案を批判する。

「東京と日本はこれまでに、大会開催に350億ドル(3兆円超)の経費を見込んでいます。彼らがこれから撤退することはないでしょう」

またジンバリスト氏は、7月と8月のフロリダの暑さや湿度は、アスリートにとって妨げになるものであり、安全上のリスクになりうるとも指摘している。

「提案は本当に馬鹿げており、妄想とも言える考えです。これは何もわかっていない無知なフロリダの政治家が、自分の名前を宣伝しようととった行動です」

「彼自身が本当に可能だと思っているかどうかわかりませんが、全くありえない話です。ただただ馬鹿げています」

 ハフポストUS版の記事を翻訳・編集しました。 

(翻訳・編集:安田聡子 @satokoysd