日本は人口減少時代を迎え、労働力不足が懸念される中、一層の「女性の活躍推進」が期待される。
政府は2020年までに「指導的地位に占める女性の割合」を3割に引き上げることを目標に掲げている。女性が社会や企業の意思決定に参画することで人材のダイバーシティが進化し、社会の生産性の向上が見込まれるからだ。
しかし、その実現には様々な障害がある。子育てや介護などのケアワークが、今なお、一方的に女性の大きな負担になっており、厳しい時間制約の中で働く人が少なくないのだ。
先日、国立女性教育会館主催『企業を成長に導く女性活躍推進セミナー』パネルディスカッションにコーディネーターとして参加し、女性の活躍推進を積極的に進める企業3社の事例発表を聞いた。
そのとき会場から『女性の活躍とは管理職になることなのか』という質問があった。これまで女性の活躍推進の象徴として、企業の経営幹部に昇進したエリートがロールモデルとして紹介されることが多かったが、男性に限っても管理職や執行役員になれる人はごく少数しかいない。
もちろん経営層に加わることは価値のあることだが、むしろ普通の女性が普通に働いて活躍できることが重要ではないか。
従来のワークライフバランスが欠如した男性中心社会の働き方を前提にした女性活躍ではなく、すべての人がそれぞれの持つ能力を活かして適材適所で働く機会が開かれていることが必要だ。
仕事と生活の調和のもとに、個々人が多様な資質を備えたダイバーシティを実現し、男女を問わずに「個」を活かす働き方が求められているのである。
プリンストン大学教授アン=マリー・スローター氏は、オバマ政権時にヒラリー・クリントン国務長官のもとで政策企画本部長を務めた人物だ。
著書『仕事と家庭は両立できない?~「女性が輝く社会」のウソとホント』(原題は「Unfinished Business」、NTT出版、2017年)の中で、『キャリアの成功だけが人間の幸福の証でもなければ人生の功績の尺度でもない』とし、
『仕事と同時に、家族や友人を愛し気遣う生き方が尊重され、そこから深い満足を得られるような社会であってほしい』と述べている。
その上で、『誰かの世話をすることは、自分自身を内省し、自分の一面を成長させる活動』であり、「ケアする経験」からは知識、忍耐力、適応力、正直さ、勇気、信頼、謙虚さ、希望等の資質が得られ、それらは仕事においても不可欠だとしている。
「女性の活躍推進」は女性だけの問題ではなく、男性も含めた既存の働き方を見直すことが必要だ。男性も女性も固定的な性別役割に囚われず、日常生活における「ケアする経験」が育む多様な資質を活かす働き方を実現することが重要ではないだろうか。
関連レポート
(2017年11月7日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員