安倍晋三首相とともにヨーロッパを歴訪中の昭恵夫人は4月30日、ドイツのフェルトハイム村を視察したことを自身のFacebookに投稿した。
フェルトハイムは、ベルリンから南西約60kmのブランデンブルク州にある、人口約130人の小さな村だ。バーも美術館もないが、2010年10月にドイツ国内で初めて、自然エネルギーを利用しての電力自給自足を達成した自治体となった。
主に発電に利用しているのは風力とバイオガス。43基の風力タービンは7万4,100キロワット時(kWh)を、バイオガス工場は400万kWhをそれぞれ発電する。そのうち、村で消費する1%を除いて販売され、ドイツ国内の電気料金を半分程度下げることに貢献しているという。
2011年の福島第一原発の事故以降は、村に視察に訪れる人が増加。年間に約3000人が訪問するほどになった。ドイツ誌・シュピーゲルはフェルトハイムについて、「今や再生可能エネルギーへの転換を目指す世界中の街の、“灯台のような存在”だ」と報じている。
しかし、フェルトハイムは以前から電気の恩恵を受けていたわけではない。ほんの少し前までは、法外な電気料金を支払わなければならないような状況だった。
■電気会社から自由を求めた
1995年、この村に5基の風力タービンを設置したのが、ドイツで後々に大手の再生エネルギー企業となるエネルギー・クエレだ。風が強いこの村で、エネルギー・クレエの風力発電は発電量を伸ばし、フェルトハイムにある風力タービンの数は、今では家の数よりも多い。
しかし、良い事ばかりではなく、住民からの反発も出た。
「なんで自分の住む村で発電が行われているのに、こんなに電気料金が高いんだ?」
エネルギー・クレエの風力発電で作られた電力は、フェルトハイムに配電網をもつ会社に8セント/kWhで売られていた。ドイツの4大電力会社の1つであるE.ONの子会社だ。E.ON子会社がフェルトハイム住民に課した電気料金は、28セント/kWh。ドイツの家庭用電気料金と比べてみても、フェルトハイムの電気料金は非常に高かった。
フェルトハイムはE.ON子会社に対し、配電網の売却またはレンタルを提案するが、E.ON子会社は拒否。そのため、フェルトハイムはエネルギー・クレエとともに、独自の送電網を作ることを決意する。両者はヨーロッパ連合(EU)や州の補助を受け、E.ONとは別の送電網を独自に整備し、各家庭につなぎこんだ。住民も1件あたり3000ユーロを出資したが、結果、住民の電気料金は17セント/kWhとなり、原発を使わずにドイツの平均的電気料金よりも安く、クリーンなエネルギーで自給自足できる村に変化を遂げる。
さらに村は、エネルギー・クレエが2006年にフェルトハイムに整備したバイオガス工場で発電した熱も各家庭に接続し、暖房などに利用している。
■失業率ゼロを誇る
エネルギーの自給自足ができるようになったフェルトハイムには、電気料金以外にも喜ぶべき点がある。失業率がほぼゼロに近いということだ。ドイツの平均失業率が30%であるのと比較すると、その数は驚異的だ。
フェルトハイムの主産業である農業を行う人だけでなく、同村で行われてるようになった発電・送電事業でも仕事が生まれ、また、村にはさらに太陽光パネル工場ができたため、この工場で働く人もいる。エネルギーの自給自足により、新たな雇用が生まれる好循環を生んだことになる。
視察を終えた昭恵さんが、「美しい素敵な所」とフェルトハイムについて言及する一方、安倍首相は29日、ドイツの有力紙「フランクフルター・アルゲマイネ」のインタビューに書面で答え、原発は簡単にやめられないとコメント。メルケル首相自らが脱原発を掲げたドイツに比べ、日本で自然エネルギーによる自給自足の自治体が誕生するのは、もう少し先の事になりそうだ。
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