アメリカFRB、政策金利を再び据え置き 景気回復の遅れを考慮、大統領選も影響か

「大統領選が、FRBの利上げ見送りの決定に影響を与えているかもしれない」

ワシントン――アメリカの中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)は9月21日、指標金利を据え置くことを発表した。これは、消費者や企業が負担する借り入れ時のコスト増加を今後さらに数か月間、抑えるためと見られる。

FRBの金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)は、目標FF(フェデラル・ファンド)金利=銀行間で資金を貸し借りする際に使われる金利=を0.25%〜0.5%の範囲で据え置くことを決めた。

FF金利は短期借入金利の経済的指標であり、自動車ローンのほか住宅ローンのいくつかもこれを指標とする。

FF金利が維持されることにより、消費者や企業の借り入れコストが低く抑えられるのはほぼ確実だ。

今回の決定は、2009年6月にリーマンショックに端を発したリセッション(景気後退)が公式に終結してから現在までの経済成長率に対するFRBの不安を反映している。ただし、FRBの政策立案者の間では利上げを求める声も強まっている。その兆候として、委員会に名を連ねる各ボストン、クリーブランド、カンザスシティーの連邦準備銀行の総裁3人が金利据え置きの決定に反対し、FF金利を0.25%引き上げるよう主張した。

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連邦準備理事会のジャネット・イエレン議長は21日に記者会見し、中央銀行の政策金利の維持について述べた。

経済成長は2016年前半、予想を下回るペースの約1%の伸びにとどまった。最近の雇用の伸びは堅調ではあるが、歴史的に見ても高い割合の労働者が職探しをあきらめ、パートタイムの雇用に甘んじている流れを止めるには至っていない。

理事会は通常、行きすぎたインフレ経済を沈静化させるために、標準金利を上げる。しかし、不十分な労働市場と賃金の伸びの遅さから、基調的なインフレ率(食品や原油などの変動の激しいものの価格を除く)は、いまだ理事会の目標の2%を下回っている。

「我々としては、引き上げの条件は強まったと判断している。しかし、現状はさらに我々の目標に向かっての成長が持続しているというさらなる証拠を待つことに決めた」と、イエレン議長は決定後の会見で語った。「インフレが低く止まっているが、我々は2%の目標値までやがて上昇すると予測している」

「経済は以前に考えられていたよりも、利上げする根拠が出てきている」とイエレン議長は付け加えた。「これは朗報だ」

FRB幹部は言及していないが、観測者筋は「目前に迫る大統領選挙が、FRBの利上げ見送り決定に影響を与えているかもしれない」と指摘している。追加利上げの可能性が検討されるの次のFRBの会合は、12月に開催される。

「政局に影響を与えるために何かをすることは誰も望んでいません。とりわけ、この政局と同様、議論の多い大統領選ではなおさらです。そしてとりわけ、FRBの統合性と独立性に異議を唱える大統領候補がいるのですから」と、オンライン不動産企業「レッドフィン」のネラ・リチャードソン主席エコノミストは述べた。

大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ氏は「オバマ大統領の功績を高めるために、利率を低いままにしている」と、イエレン議長を非難している。民主党候補のヒラリー・クリントン氏はトランプ氏の発言を非難し「大統領や大統領候補が、FRBの決定にコメントするのは不適切だと述べた

低金利がこれほど続くとリセッション以前に予想した人は1人もいなかったと思います。

ーーダン・アルパート、ウエストウッド・キャピタル

FRBの決定は、ほとんどのアナリストや投資家にとって驚くことではなかった。しかし、深刻な景気後退リスクへの影響については期待に反した。

「低金利がこれほど続くとリセッション以前に予想した人は1人もいなかったと思います」と、シンクタンク「センチュリーファウンデーション」フェローで、ウエストウッド・キャピタル投資銀行の創設者ダン・アルパート氏は言った。

この低利率はリセッション前の労働市場の状態に戻るのには鈍く、まだ十分に健全ではない経済回復に対して出したFRBの回答だ。

4.9%の失業率、月次雇用統計の連続増加といった経済指標から、アメリカ経済が引き続き好調だということがわかる。しかしこうした統計は、多くの労働者が低賃金あるいは短時間労働の仕事に移っていったという事実を曖昧にしている。また、労働人口から抜け落ちた人も他にいる。

雇用率を測定するもう一つの指標となる「総人口に占める働き盛り世代の雇用率」には職探しをあきらめた人が含まれ、自ら無職を選択している可能性がある24歳未満や55歳を超えた人々は含まれない。

その割合は昨今の景気回復を通じて順調に伸びている。しかし8月現在では、25歳から54歳までのアメリカ人の77.7%が職に就いているが、この値は2007年のリーマンショック前のピーク値の80.3%よりまだ低い

世帯当たりの平均所得(次の表)も景気回復の指標の一つだが、2014年から15年にかけて5.2%上昇している。だが、リセッション前のピーク値にはいまだに達していない。記録を更新した1999年と比較した場合は言うまでもない。

さらに、黒人労働者と白人労働者の所得差は、労働市場が売り手市場になって雇う相手を選びにくい状態になると縮小するものだが、近年は変化がないかむしろ上昇している。

このように労働市場が弱い結果、一般消費者の購買動向に左右される企業の業績は不安定な状態が続いている。主要な小売企業の株価指標となるスタンダード&プアーズ(S&P)社の小売企業部門指標は、2015年の同時期の値から5%ほど下がっている。

業界全体のトレンドは、程度の差はあるが、ワシントンDCの都市部に4店舗を構える個人所有の小売チェーン「ホビー・ワークス」を見てみるとわかりやすい。

ホビー・ワークスのマイク・ブレイCEOは12月、ハフポストUS版に「もし販売が引き続き好調なら、雇用を拡大したい」と話していた。ところが販売は低迷し、従業員の労働時間を削減せざるを得なかった。

ブレイCEOは「着実で堅実な改善はみられませんでした。状況は徐々に良くなっているのですが」と述べた。

状況は徐々に良くなっている

――マイク・ブレイCEO、ホビー・ワークス

ラスベガスのガレージドア企業「パイオニア・オーバーヘッド・ドア」のロン・ネルセンCEOにとって、事業環境は良好だ。

自身を含め従業員5人の同社では、高賃金につられて2人の社員が退社している。うち1人は競合のガレージドア企業に転職した。ネルセンCEOによると、この業界はいま活況を呈しているという。

過去3年のうち2年で利益をあげたネルセンCEOは「FF金利の引き上げが要因とみられる事業ローン利率引き上げの影響をしのげた」と語った。現在、同社にとって最大の脅威は競争であるという。彼によれば、それが「あるべき姿」なのだ。

FRBが2008年12月以来初めてとなる利上げに踏み切る際には、イエレン議長は急速にインフレが加速したとき金利を「唐突に」引き上げなくてはならない事態は避けたいと話していた。

しかし、経済環境が許すならばできるだけ早急に基準金利を「正常化」もしくは引き上げたいとFRB幹部が考える理由は別のところにある。次の景気後退に見舞われた際にFF金利レートが高い水準にあれば、利下げにより経済を刺激する材料を中央銀行は確保しておけるからだ。

しかし、連邦議会が課税減あるいはインフラ投資のような公共投資によって経済を刺激する金融政策を決めることを拒んだたため、FRBには経済回復を阻害してはならないという大きな圧力があった。これが、中央銀行が他の先進国の中央銀行のように、「オンリー・ゲーム・イン・タウン(他にやりようがない)」というあだ名をもらった理由だ。

「先進国の政府、特に欧米では、経済成長を促すために必要なことをしていない」とアルパート氏は締めくくった。「この時期の歴史が書かれる時、それがテーマになるだろう」

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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