ダーウィンは正しかった、恐怖は人の強み

恐怖感情を抱くことは認知情報処理を妨げるという、この1世紀の間信じられてきた心理学の定説を覆し、ダーウィンの主張を支持する知見といえる。
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恐怖が人の心を活性化し、判断力を高めることを、京都大学霊長類研究所の正高信男(まさたか のぶお)教授らが実験で突き止めた。これは、恐怖感情を抱くことは認知情報処理を妨げるという、この1世紀の間信じられてきた心理学の定説を覆し、ダーウィンの主張を支持する知見といえる。心理学でもダーウィンの洞察は正しかった。ダーウィンが活躍した英王立協会刊行のRoyal Society Open Science11月5日付のオンライン版で発表した。

夏目漱石の小説「草枕」の冒頭に「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」とあるように、理と情は対立するものと考えられがちだ。特に恐怖のようなネガティブな感情は人間の判断を鈍らせるというのが心理学の基本原理となっている。これに反対したのがダーウィンで、1872年の著書「人及び動物の表情について」で「恐怖を抱くことは人間の強みになる」と書いた。しかし、この考えはその後、まったく無視された。

研究グループは140年余の年月を経て、ダーウィンの考えを検証するため、実験を試みた。成人108人と子ども25人にそれぞれ、3原色を構成する赤、緑、青のさまざまな色のヘビと花の写真を見せ、その際の写真の色の回答を求めた。成人もこどももヘビの色を答える時のほうが、花の色を答える時より迅速に回答することを確かめた。この実験は簡便で、再現性も高かった。実験を基に「ダーウィンの主張を支持するデータで、恐怖は理性的判断を行うに当たって良くないという定説は覆った」と結論づけた。

正高信男教授は「恐怖に心が活性化する機敏な反応は、危険を回避するために必要な適応だろう。恐怖に対してすくんでしまって、迅速な回避行動が取れない不適応な人々がいるのではないか。この研究は、ダーウィンの指摘の再発見にとどまらず、一般の社会生活を営むのが困難な人たちの心理を解明する手がかりになる」と話している。

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京都大学 プレスリリース