珍しい戦時中の女性ファッションアイテム

アンティーク着物の売買を生業としていると、ときに不思議な着物に出会う。先日、アンティーク着物の業者が集まる市場で、写真のような着物が出て場が湧いた。
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アンティーク着物の売買を生業としていると、ときに不思議な着物に出会う。

先日、アンティーク着物の業者が集まる市場で、写真のような着物が出て場が湧いた。

第二次世界大戦のころには、戦争をテーマとした着物はかなりたくさんある。紳士ものや子供の着物の柄にもあるし、女性の着物や帯にもある。当時はそういったものがよく売れたそうである。

そういったものを集めているコレクターの方は、日本のみならず欧米にも複数おられるので、なるべくお客様の要望に応えてそういうものを仕入れようとしている。

そもそも、時代はすでにプリントの時代なので、同じものが複数あったりするし、よく似たデザインのものもある。

だから、長年そういうものを見ていると、既視感のあるものが多いのだけど、この帯には、ちょっと驚いてしまった。

三人の兵士が爆弾を抱えて鉄条網に突っ込んでいるが、もちろん、それは有名な「爆弾三勇士(もしくは肉弾三勇士)」の図である。

「肉弾三勇士」は愛国の美談として多くの映画や歌になり、お菓子やビールの宣伝にも使われ、あげくは小学校の運動会の競技にもなったという。

僕も男羽織の裏にこの「爆弾三勇士」が描かれているものを何度も見たことがあった。

しかし、これは女性用の帯である。

お太鼓結びで締めると、背中には上の写真のような図が出てくるだろう。

三人の兵士と爆弾、鉄条網がメインのモチーフなのだけど、その間に古典的な万寿菊、芝、霞、花菱模様などが描かれている。

まるで、兵士たちが突進しているトーチカと鉄条網のある野には、菊が咲き誇っているかのようだ。

鉄条網と砲煙がある程度リアルなデザインで描かれているだけに、なんだか奇妙な感覚に誘われる。

デザインとしての完成度が低いのかもしれないが、いつまで見ていても違和感が消えない。

こういった不思議なデザインの帯を購入し、好んだであろう当時の女性たちの心境は、想像をたくましくして思い描いてみるしかない。その想像が正しいかどうかはわからない。ただ、厳然として、それは僕の目の前にあるので、そういう時代だったんだと思うしかない。

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(2014年6月15日「ICHIROYAのブログ」より転載)