大量生産・大量消費による環境負荷やサプライチェーンでの人権問題、毛皮廃止の動き、多様性を重視したジェンダーニュートラルなデザインの登場ーー。
近年、ファッション産業において、ソーシャルレスポンシビリティ(社会的責任)がますます問われるようになってきている。
そんななか、社会課題に向き合う次世代のファッションデザイナーを育成していこうという動きが生まれている。2021年に始まったFASHION FRONTIER PROGRAM(ファッションフロンティアプログラム)はその一つだ。
一体どんなプログラムなのか。主催する「一般社団法人 unisteps」の共同代表理事・鎌田安里紗さんに話を聞いた。
「社会的な課題を全く無視して、美しいものを作る時代ではなくなってきている」
プログラムでは、選考によって選ばれた8人が約3カ月半、講義やディスカッションなどを通して、ファッションとソーシャルレスポンシビリティについて学ぶ。その上で、専門家のアドバイスを受けながら作品を制作。作品は、国立新美術館(東京・六本木)に公開展示されるほか、最終審査で3人に賞が与えられる。
プログラムは、なぜ生まれたのか。そこには、ファッションデザイナーに対する時代の要請の変化があるという。
「ファッションデザイナーにとって最も重視すべきは今も昔も、『美しさ』であり、それを生み出す創造性。しかし、社会的な課題を全く無視して、美しいものを作る時代ではなくなってきています。そして、デザインや素材選びなど、服作りにおいて重要な意思決定をするファッションデザイナーがどういう意識で服を作るかは、産業全体の意識にも非常に大きく関わってきます」
しかしながら、日本では、ファッションデザイナーがソーシャルレスポンシビリティを学ぶ「インフラ」がほとんどないのが現状だ。
「洋裁学校がルーツにある日本のファッションスクールでは、服の作り方の技術的な部分は深く学ぶものの、ファッション産業が社会や環境に与える影響、そしてそれに対してデザイナーがどんなことができるかを包括的に学べる環境は非常に少ない。さらに、既存のファッションコンテストではソーシャルレスポンシビリティに関する評価軸は限られています。そこを埋めるようなプログラムが必要だと考えました」
審査の過程では、ソーシャルレスポンシビリティが6つの視点(透明性の担保、多様性・包摂への視点、自然環境配慮、循環型システムへの視点、労働環境への配慮、動物福祉への配慮)で、創造性が4つの視点(美しさを定義できているか、過去にない新しさか、唯一無二であるか、タイムレスなデザインか)に基づいて評価される。
審査員もファッション業界に限らず、現代美術家や建築家、脳科学者、医学部教授などが名を連なる。
応募資格に、年齢や職業、経歴は問わない。2021年7月に第1期生の募集が始まり、現在は第2期生の募集が行われている。
服や社会と1から向き合い、未来のファッションを実験的に考える場に
2021年12月に実施された第1期生の作品の最終審査では、当時高校2年生だった本田琉碧(ほんだ・りゅうあ)さんがグランプリを獲得した。中学生の頃から、独学で服作りを学んだという。
作品名は「ファッションを通じて学校生活をよりよくする制服」。
ジッパーの上げ下げでズボンにもスカートにもなり、ギャザーを調節してどんな体型にも合わせられる。生地は真っ白のため、学生生活を経て服に付く汚れは「個性」となり、染め直せば後輩に引き継ぐこともできる。素材には、環境負荷の低い無染色ウールや再生ナイロンを使った。多様性や環境負荷の観点から、新しい「制服」を創造した作品だ。
その他の受賞作も、衣服のあり方や社会システムを根本的に捉え直すような作品が目立ったという。そして、それがプログラムの目的でもある。
「サステナブルファッションを考えようとすると、どうしても“現状のシステムの中でどうしていくか”という話になってしまう。でも、このプログラムはもっと自由に、未来のファッションの可能性を実験的、挑戦的に考える場にしていきたいです」
プログラムの応募申し込みは7月20日まで行われている。