ニュースで「女性天皇」「女系天皇」問題を報じようとしない、日本テレビとフジテレビ
令和元年の初日となった5月1日。各テレビ局のニュース番組など報道番組をウォッチしていて気がついたことがある。1日は代が替わって天皇陛下が即位されたことがトップニュースになって日本中の人々がお祝いムードで大騒ぎする様子が報道されたものの、「皇位継承」について地上波のニュース番組で解説して報道した局と、丁寧に報道しなかったかあるいはまったく報じないかという局の2つにわかれていたことだ。
具体的にいえば、日本テレビやフジテレビはこの問題にほとんど触れなかった。菅義偉官房長官が記者会見で午前9時すぎにはコメントしていて、各社のテレビカメラが撮影していたがその映像を大きく放送しなかったのだ。この日の0時をもって皇位の継承が無事に行われて、次を含む今後の皇位継承がどうなっていくのかが国民的にも大きな関心事であるにもかかわらず。皇位継承については、これまでどんな議論があるのかを解説しないと理解するのは難しい。
テレビ朝日とTBSは定時のニュースの中で放送していた。テレビ朝日のニュースサイトでは菅官房長官の会見の映像も見ることができる。
ちなみにこの皇位継承問題の見通しについては、NHKのニュースの中でも解説委員による解説として伝えられた。日本テレビの夕方ニュース「news every.」には評論家の池上彰が生出演して、この日の天皇陛下の行事などについて時間をさいて解説していたが、皇位継承問題についてはいっさい触れなかった。
池上彰は、この半日前にテレビ東京の「池上彰の改元ライブ カウントダウンは生解説&平成令和バスツアー」という生放送の番組で、皇族たちの顔写真を示しながら解説していた。
「安定した天皇制を維持すうるためには将来には女性天皇が必要かどうかを議論していかなければならない」などと説明している。
それなのに日本テレビの夕方ニュース番組では、同じ池上彰が解説しながら、あえてこの問題については触れていない。様々な問題についてタブーなく切り込む印象の池上だけに、見ていてとても不自然な印象をもったが、女性天皇あるいは、(父方の祖先が天皇と結びついていない)女系の天皇についての議論に対しては、保守派が神経質に扱うテーマだからとあえてテレビ局側が避けたように思われた。
このように天皇の「皇位継承」の問題も、「血」をめぐってどれが伝統なのか、国民の理解を得られるのか、などという話になりがちで、なかなか冷静に話し合うということができないままになってきた。
こうした中で、令和となった初めてのNHK「ニュースウォッチ9」(以下、NW9と略す)が、令和という時代に私たちが考えるべき「家族のカタチ」という特集を放送した。もちろん、これそのものは天皇の皇位継承問題に直結するような話ではない。直結はしないのだが、天皇家の「家族像」もこの2日間ほど私たちはニュース報道などで数多く見ていて、「教育方針」も一般庶民と同じように存在することが紹介されると、天皇家も含めて人間の幸せとは何かに思いをはせる人も少なくないことだろう。令和の時代の新しい家族のかたちとは何だろうかと考えた人も多いのではないか。
そんななかでNW9が示した”令和”の「家族のカタチ」特集は私たちに考えさせる内容だった。一言で簡単に表現しにくい内容だったが、LGBTの人たちがカミングアウトするようになって性の多様性も広がってきている現状での新たな「家族」のかたちや児童虐待の増加などで、里親や特別養子縁組を通して、血がつながっていなくても「家族」だという一体感を持った人々が出てきているという現状を伝えたのである。
令和という新しい時代の幕開けにふさわしいものだった。放送された時間は20分あまりあった。
番組では、新しい時代の「家族」について考えたいとして、まず桑子真帆アナが自分の家族について語った。父と母、姉の4人家族で典型的な日本の家族像だったと、幼少期の写真を見せながら伝えた。その後で、2013年の是枝裕和監督の「そして父になる」(血のつながらない家族がテーマ)や2018年の同じく是枝裕和監督の「万引き家族」の映像をバックにして、桑子アナが原稿を読み上げた。
「しかし、ここ数年、家族のあり方を問う作品が次々に発表されています。虐待をうけた、血のつながらない家族を受け入れた家族を受け入れた家族。(「彼らが本気で編むときは、」の映像に合わせて)心と身体が一致しないトランスジェンダーの子育てを描いた作品もあります。
平成は家族のカタチが多様化し始めた時代でした。
では、令和の時代はどうなるのか。そして、家族とは何なのかを取材してきました。」
桑子アナの表情から、彼女が本気で取り組んで取材したのだということが伝わってくる。
この後に番組では取材した3つの新たな「家族のカタチ」をVTRで見せていく。
最初に見せたのは、2人の女性と2歳の男の子という「家族」だ。全員、顔はCGのお面をつけて登場する。2人の女性は同性のカップルだ。
カップルは50代のアキさん(仮名)と30代のサユリさん(仮名)だ。番組ではこの2人をレズビアンという表現も、LBGTという表現もしていない。番組としては、特別視するようなレッテル貼りにつながることは避けたいのだということだと理解することができた。わずかに当人が「恋愛の対象は女性だけ」と語ることで同性愛のカップルなのだとわかる。男の子はサユリさんが産んだ子どもで、知人の男性から精子提供を受けたという。
ひとつの屋根の下で暮らす3人だが、戸籍の上では家族にはならない。戸籍上は男の子とサユリさんが親子で、シングルマザーであるサユリさんが息子と暮らす形になっている。日本では現在、同性婚は認められていないからだ。一緒に暮らしていても、アキさんは「他人」ということになる。2人は共稼ぎだが、勤務先には本当のことは伝えていないという。男の子を預けている保育園には「親戚」だと伝えているという。
本当のことを言ったところで後から嫌な気持ちになるぐらいなら親戚にしておいた方が楽だというアキさんとサユリさん。近い将来、子どもが自分たちのことをどう受けとめるのかに関連して準備はしているという。それは新しい家族のあり方について書かれた絵本だという。
「おかあさんがふたりのいえ」「おとうさんがふたりのいえ」も登場する絵本だが、もし男の子から質問されたら、「いろいろな家族がいるなかでうちはママが二人なんだよ」と説明するつもりだという。
桑子アナは二人に「家族とは何か?」という質問を投げかける。
アキさんの回答が示唆に富む。
「一番、安心できる場所でもあるし、一番自分をさらけ出せる場所でもある。いろいろなことがそこにはたくさんあるのかな」
次に番組が紹介した「家族」は、“里親”というカタチの家族である。
目を背けたくなるような児童虐待事件が相次いで起きている現在の日本で、虐待や経済的な理由から親元で暮らすことができない子どもたちを迎い入れて暮らす家族が増えている。
番組では、都内に暮らす篠幸子さん、篠雄一さんの夫婦が中心になっている里親家族を紹介する。
顔をお面のCGで隠している男の子は5歳。生まれてすぐに施設に預けられ、3年前から篠さん夫婦の元で育てられている。
里親の役割は、実の親と暮らせない子どもを一時的に預かることで、戸籍上の家族ではない。篠さん夫婦には実の子どもが4人いるというが、映像で見る限り、実の子と里子も一緒になって遊び、分け隔てなく育てていることが画面からも伝わってくる。
4人も実子がいる篠さん夫婦が里親になろうとしたきっかけは相次ぐ虐待事件だったという。
(篠幸子さんの話)
「こんなにたくさんの子どもが家族で育ててもらえない現実を見て、話を聞く中でその子どもたちをなんとか、もし一人でもうちの家で育ててあげることができるのだったら・・・、もう4人も5人も一緒だというのがあったので・・・」
これまで里親として預かった子は10人。篠さんは良いことをしたときは「褒め褒めシャワー」と「チューチュー攻撃」をし、悪いことをしたときにはガツンと叱るのだという。最後になぜ叱るのかを説明するのだという。
「あなたが大好きだから。愛しているから叱るのよ」
画面からも篠さん夫婦がどれほどの愛情をかけて育てているのか伝わってくる。
里子の男の子に母親である篠幸子さんが尋ねる場面がある。
(篠幸子さん)「お兄ちゃんと一緒に寝る」
(男の子)「ううん」
(篠幸子さん)「誰と?」
(男の子)「お母さん。好きだから」
(篠幸子さん)「いやーん・・・。ありがとう」
法律上、里親が養育できるのは18歳になるまで。それまで篠さん夫婦は愛情を注いでいくつもりだという。
さらに3つめの「家族」として番組が紹介したのは、血がつながっていないものの「特別養子縁組」によって家族になった人たちだ。
「里親」が法律上の家族関係ではなく、あくまで一時的なものに過ぎないのに比べて、特別養子縁組は法律上の親子関係となる。
この特別養子縁組も里親と同じ様に、深刻化して増加する一方の児童虐待の被害を受けているやそうしたリスクがある子どもに対する対応策となっている制度だ。NW9の中でも「平成に入って横ばい状態だったが、児童虐待が深刻化する中、平成25年以降、増加している」と説明されていた。
番組では、特別養子縁組で母親になったと公表している武内由紀子さん(46)を紹介した。
40歳で不妊治療を開始したものの妊娠には至らず、最後の治療で結果が出なかった時に、夫と話し合って特別養子縁組を決意したという。半年間におよぶ研修や面談をうけ、準備を進めてきたという武内さんだが、昨年6月、生みの親が育てられないという理由で、生後4ヶ月の赤ちゃんの母親になったという。血がつながらないことで、今も不安がよぎることもあるというが、一日一日、時間を積み重ねていくことで家族になっていくのではないか。令和の時代をそう生きようと考えているという。
特別養子縁組の母親・武内由紀子さんはこう語る。
「血のつながらない夫婦の中に血のつながらない子どもができて、3人とも他人なんですよ。うちは。
3人が他人なんだけど、支え合って、補い合って、ひとつになっている。家族として。
いろんな家族がいて、それが普通という、そういう社会になっていけばいいなあ。そう思います」
令和の時代の「家族」というのはどんなカタチになっていくのか。特に、里親と特別養子縁組が登場したことは感慨深いものがある。今も減ることがない虐待事件に対処するためには、血を分けた実の親よりも社会全体で考えていく時代が望ましいのでは? そんな家族観も見え隠れする。
血でつながった親の責任を問うことよりも、「血」や「戸籍」に関係なく子どもたちをどうやって幸福な人生に導いていくのかを優先していくのが令和に生きる大人たちの責任ではないか。そう思わせられるVTRだった。
このVTRを受けた後で、スタジオでの有馬嘉男・桑子真帆のキャスター2人の語りが熱かった。
(有馬)
「いろいろな家族のカタチ、ありましたけど、みなさん、それに納得していて、しかも幸せそうでしたね」
(桑子)
「笑顔にあふれていましたね。みなさん、どうごらんになったでしょうか?
私、取材を通して、『家族』とは何かって、ずっと考えていたんですけど、みなさん、共通していたのが、そこに確かな愛情があるんですよね。
それだけじゃなくて、自分以外の相手に対して責任を背負っている。それがまさに『家族』なのかなと感じたんですよね。
そこに性別とか血のつながりとか関係ないですよね。
これから令和という時代。もっといろいろなカタチの『家族』が生まれていくかもしれません。
でも、どんなカタチであっても受け入れられる時代になったらいいなと心から思います。」
新しい時代に、キャスターたちが本気で取材して向き合った「家族」のカタチ。
血や戸籍に必ずしもこだわらない新しい生き方の模索。
様々なことを考えさせてくれる素晴らしいキャスターコメントだったが、NHKの看板ニュース番組らしく、この「時代」というものに正面から挑もうとした力作の特集だったと思う。
*5月2日付「Yahoo個人」より転載。