11月4日、最高裁大法廷で「夫婦別姓を認めない民法の規定は憲法違反かどうか」を争う裁判の弁論が開かれ、来月16日に判決が言い渡される。
現在の民法によると、男女が婚姻関係を結ぶ際は夫か妻のいずれかの姓を選ばなくてはならない。つまり他方は改姓が求められるのだ。
夫婦のいずれの姓を選ぶのかは夫婦間の協議によるが、実際には96%の夫婦が夫の姓を選択しており、夫婦同姓を定めた民法は男女差別を助長しているのではないかとの批判もある。
1998年、法務省法制審議会は選択的夫婦別姓制度の導入を答申したが、『伝統的家族観が崩れる』などの世論もあって法改正には至らなかった。
その後、日本は国連の女性差別撤廃委員会から繰返し法改正の勧告を受けているが、2012年の内閣府「家族の法制に関する世論調査」でも、同制度の導入に向けた法改正についての賛否は割れていた。
一方、今月実施された朝日新聞社の電話による全国世論調査では「賛成」が52%と「反対」の34%を上回っている。
夫婦別姓の利点は、結婚後も自分のアイデンティティとなっている姓を男女が共に維持できることだ。少子化に伴い実家の姓を残すことを希望する人も大勢いるだろう。
一方、前述の内閣府世論調査では同制度の導入が「子どもにとって好ましくない影響があると思う」との回答が7割近くに上るなどデメリットとして「家族の一体感を損なう」と指摘する意見も聞かれる。
選択的夫婦別姓制度は、婚姻による同姓を強制するのではなく、希望する夫婦には別姓を認めるという新たな選択肢だ。
世界的には同性婚の広がりなどがみられるように結婚観が多様になり、家族のあり方として夫婦が同じ姓を名乗ることを全ての夫婦に対して法律が一律に規定することが妥当なのかどうかが問われているのではないだろうか。
夫婦同姓であれば、夫であれ妻であれ、必ず一方は改姓しなければならず、他方は自らのアイデンティティを失う可能性がある。夫婦として同姓を名乗ることが自らのアイデンティティにつながると考える場合は、夫婦同姓でも特に支障はない。
だが、自己のアイデンティティを守ることで配偶者のアイデンティティを損なうことになれば、夫婦が相互の人権侵害をすることになりはしないだろうか。
夫婦のいずれか、もしくは双方がアイデンティティを喪失しないためには、一人ひとりが「個」のアイデンティティを守る制度が必要だ。
ライフスタイルや家族のあり方が多様化した成熟社会では、同姓もしくは別姓を選べる選択的夫婦別姓制度は基本的人権を守る上で不可欠だと思われる。
関連レポート
(2015年11月17日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
社会研究部 主任研究員