【どうして「データで見る」のか?】
筆者は女性活躍と少子化の関係について昨年5つのレポートを発信 した。その中で、少子化の進行を阻止するには「晩産化を阻止すること」が全ての少子化対策のベースとなる政策となるであろうと提言した。(下部の関連レポートを参照)
晩産化を阻止することで、その他の少子化政策が少子化阻止により大きな効果を持つようになるとする根拠として、「生殖適齢期への国民的認知の低さ」「医学的な年齢と妊娠の関係」「今までの子育て支援政策に晩産化阻止を主たる目的とした政策がなかったこと」の3点を、適齢期に関する意識調査、医学的データ、わが国の子育て支援政策の個々の具体的な検討を通して紹介した。
では、「晩産化」と「少子化」を実際に統計的にみた場合にも、両者の間に明確な関係があるのであろうか?
筆者は晩産化と少子化の関係について統計的な観点からも明らかにしたいと考え、OECD加盟国34カ国の「第一子出産年齢」と「出生率」のデータを用いて相関分析を試みることにした。
【第一子出産年齢と出生率の相関関係】
分析を行う前にもう一度、過去のレポートでも紹介した、着々と上昇し続けるわが国の第一子出産年齢について確認しておこう。1975年からの40年間の間にわが国の女性の第一子出産年齢は約5歳上昇している。参考までに第一子出産年齢の推移を表したものが、次図である。
第一子出産年齢が40年間の間に約5歳上昇した、という事実を踏まえた上で、第一子出産年齢と出生率(*1)との間には一体どういう関係性があるのか、「約5歳の上昇」は統計的には何を意味するのかを見てみよう。'OECD Family Database'を用いてOECD加盟の34カ国について両者の相関分析したものが次の図である。
相関分析の結果、第一子出産年齢と出生率の間には-0.491という「中程度の強さのマイナスの相関関係」があることが判明した。
つまり第一子出産年齢の上昇は出生率を低下させる方向に影響を与えているといえる。
しかも、グラフから日本の30歳を超えるという第一子出産年齢は、34カ国の中でも出産年齢が高いグループに属している、といえる。
そして、これが最も重要な示唆であるが、30.4歳という第一子出産年齢は、少なくともOECD34カ国においては統計的に見て、出生率1.5を切る超低出生率を引き起こしやすい年齢水準であることがわかった(*2)のである。
相関分析の結果をみても、「第一子出産年齢を引き下げる」ことが少子化進行の阻止に有効であるといえるだろう。しかしながらこれまでのレポートに紹介した通り、今まで行われてきた子育て支援諸策は「若くして生みたいカップルを支えるもの」もしくは「若くして生まないと子ども2人は難しいという当然のことを国民に伝えるもの」ではなかった。
今でも、第一子出産年齢が上昇していることを「その年齢ぐらいでみんな産んでいるから私も」といった日本的横並び意識でとらえる母親希望者や、それくらいの年齢で部下または部下の配偶者が出産することを漠然と前提とした企業の人事管理姿勢は消えてはいない。
これではOECD加盟国34カ国のデータからみると、出生率の上昇は困難であるといっていいであろう。
統計的にみても「若い妊娠希望カップルをいかに増やせるか」、このことにわが国の未来の人口がかかっているのである。
(*1) 合計特殊出生率(TFR):(期間)合計特殊出生率はある年における全年齢の女性の出生状況を、一人の女性が行うと仮定して算出する数値であり、ある一時点におけるその国の出生率を表現する。
(*2) 第一子出産年齢が30歳を超えるということは必ずしも超低出生率社会を生み出すとは限らないが、その可能性が高くなることが分散図から示されている。
関連レポート
(2015年5月18日「研究員の眼」より転載)
株式会社ニッセイ基礎研究所
生活研究部 研究員