ロシアのフェイク広告は、最激戦州をピンポイントで狙っていた。そして実際に、激戦州では全米平均よりもフェイクニュースが氾濫していた――。
米大統領選におけるフェイクニュースの拡散について、こんな実態が次々と明らかになってきている。
米大統領選への介入をめぐる"ロシア疑惑"では、フェイスブック上で、ロシアとみられる不正アカウントにより1000万円分にのぼる政治広告が購入されていたことを、フェイスブック自身が公表している。
CNNは、その配信先として、トランプ氏が僅差で制したミシガンとウィスコンシンという最激戦州が含まれていた、とのスクープを掲載している。
またこれとは別に、米大統領選でのツイッターによるフェイクニュースの拡散を調査しているオックスフォード大の研究チームは、16の激戦州のうち12州が、フェイクニュースの拡散で全米平均を上回っていた、との調査結果をまとめた。
フェイクニュースの生態系は、激戦州に照準をあわせていたことが、裏付けられてきている。
●最激戦州、ミシガンとウィスコンシン
CNNは3日、複数の関係筋の証言として、ロシア関連とみられる不正アカウントによるフェイクブック広告の購入問題で、配信地域指定の中に、ミシガン、ウィスコンシン両州が含まれてた、と報じた。
フェイスブックは9月6日、470件にのぼるロシア系不正アカウントによって、米大統領選の予備選の期間を含む2015年6月から今年5月までの2年間に、10万ドル(1100万円)分、約3000件の政治広告が購入されていたことを明らかにしている。
そして、10月に入ってから、新たに、この3000件の政治広告が、あわせて1000万人に見られたとの推計を発表した。
フェイスブックはさらに、フェイク広告の4分の1は、配信地域が指定されていたことも公表していたが、その具体的な地域名については、明らかにしてこなかった。
トランプ氏当選のカギとなった中西部の衰退した工業地帯「ラストベルト(さびついた地帯)」のミシガンとウィスコンシンは、まさに今回の大統領選を象徴する最激戦州だった。
前回、2012年の大統領選では、ミシガン(オバマ:2,561,911 ロムニー:2,112,673)は40万票差、ウィスコンシン(オバマ:1,613,950 ロムニー:1,408,746)は20万票差で民主党が勝利。
前々回の2008年大統領選でも、ミシガン(オバマ:2,867,680 マケイン:2,044,405)80万票差、ウィスコンシン(オバマ:1,670,474 マケイン:1,258,181)40万票差。民主党の地盤のはずだった。
ところが2016年はミシガン(クリントン:2,268,839 トランプ:2,279,543)で1万票(得票率0.3ポイント差)、ウィスコンシン(クリントン:1,382,536 トランプ:1,405,284)で2万票(同0.7ポント差)という僅差で、いずれもトランプ氏が制している。
そこに、ロシアのフェイク広告の視線が注がれていた、ということになる。
●ツイッター上の"選挙コンテンツ"
ツイッターによるフェイクニュースの拡散と激戦州との関わりを調査したのは、オックスフォード大学インターネット研究所「コンピューテーショナル・プロパガンダ・プロジェクト」のフィリップ・ハワード教授らのチーム。
ハワード氏らはこれまでにも、米大統領選やフランス大統領選でのツイッターボットの氾濫など、フェイクニュースの生態系をデータ分析から明らかにしてきた。
今回の調査では、米大統領選の投開票日(11月8日)をはさんだ2016年11月1日から11日までの期間に収集した2200万件のツイートを対象とした。
このうち、発信者の場所に関する情報がわかり、選挙関連のキーワードかハッシュタグを含み、"選挙コンテンツ"のURLを共有していた127万件のツイートを分析。
それぞれの"選挙コンテンツ"を、報道機関による「メディアのニュース・コンテンツ」、政党や候補者、専門家らによる「専門家のコンテンツ」、フェイクニュースサイト、ウィキリークス、ロシア系サイトの「偏向・陰謀論コンテンツ」、個人ユーザーなどが発信する「その他の政治ニュース・情報」に分類した。
●激戦州のフェイクニュース
この中で最も数が多かったのは「偏向・陰謀論コンテンツ」の26万9000件。
「メディアのニュース・コンテンツ」(25万7000件)を上回り、「専門家のコンテンツ」(13万件)の倍以上となっていた。
さらに、"選挙コンテンツ"における「偏向・陰謀論コンテンツ」の州ごとの拡散状況を指数化して分析。
すると、16の激戦州のうち、12州(アリゾナ*、ミズーリ*、ネバダ、フロリダ*、バージニア、ノースカロライナ*、ペンシルベニア*、ニューハンプシャー、ジョージア*、ミシガン*、オハイオ*、コロラド)で、全米平均を上回る拡散が見られた、という(*はトランプ氏勝利)。
残る4州(メーン、ミネソタ、ウィスコンシン*、アイオワ*)は全米平均を下回っていた。
ワシントン・ポストの取材に対し、ハワード氏は「偏向・陰謀論コンテンツ」の拡散プレイヤーとして、ロシア筋、オルトライト(オルタナ右翼)などのトランプ支持層、そして"ポリティカル・コレクトネス(政治的中立性)"への反発層の三つをあげ、こう述べている。
これらの三つのグループは、大量のコンテンツを共有し、さらに互いに大量のコンテンツを拡散しあう。これらの動きは連携している。同じ狙い、つまり激戦州に偏向したコンテンツを投入するために活動していたのだ。
フェイクニュースの生態系が、入念にデザインされている。
その一端が垣間見えるデータだ。
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(2017年10月7日「新聞紙学的」より転載)