写真改竄、人違い―米人種差別衝突で広がったフェイクニュース

シャーロッツビルで開かれた白人至上主義者らによる集会と、差別反対派の衝突をめぐって、ネットではいくつかのフェイクニュースが飛び交った。
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米バージニア州シャーロッツビルで開かれた白人至上主義者らによる集会と、差別反対派の衝突をめぐって、ネットではいくつかのフェイクニュースが飛び交った。

「差別反対派が警官を殴打」「トランプ大統領が差別主義者と記念写真」「デモ参加の差別主義者は大学教師」

人種差別を焦点に、死亡者も出た衝突事件は、米国内だけでなく海外での関心も極めて高い。その注目度と情報の混乱が、フェイクニュースの発火点になったようだ。

●自動車の突入で死傷者

事件が起きたのは8月12日の土曜日。南北戦争で奴隷制存続を主張した南軍のロバート・リー将軍の銅像撤去計画に対し、白人至上主義のクー・クラックス・クラン(KKK)、ネオナチなどを含む「オルトライト(オルタナ右翼)」が抗議集会を開催。

この集会に対し、黒人の権利擁護を掲げるブラック・ライブズ・マター(BLM)や反ファシストを掲げる「アンティファ」などの反対派のグループが抗議活動を行い、両者が衝突。

この際、ナチズムを信奉する右派集会参加者の一人が、反対派のグループに自動車で突入。バージニア州の法律事務所に勤める32歳の人権活動家の女性が死亡したほか、19人がけがをした。

また、この騒動の警備に当たっていたヘリコプターが墜落。同乗していた警察官2人も死亡している。

●「差別反対派が警官を殴打」

週明けの月曜日、14日ごろから、警察官が、デモ参加者らしき人物に鉄パイプのような棒で殴打される場面を撮した写真が、ツイッターで出回る。

警察官を殴打する人物のジャケットの背中には、赤と黒の旗をあしらったアンティファのロゴマーク。ツイートでは「(この写真が)多くを物語る」と書き込まれていた。

この衝突事件をめぐり、トランプ大統領は会見で、「両サイドが非難されるべき」「(オルトライトを非難するなら)オルトライトを襲撃したオルトレフト(オルタナ左翼)はどうなんだ?」と、反対派による暴力行為についても指摘している。

殴打される警察官の写真は、まさにその指摘を象徴するようなものだった。

だが、この写真は、捏造加工されたものだった。

ファクトチェックサイト「スノープス」が14日に公開した記事によれば、これは2009年12月に、ギリシャ・アテネで撮影された写真だ。15歳の少年が警察官の発砲により死亡するという事件をめぐるデモでの、警官隊との衝突の模様だという。

ただ、元の写真では警察官を殴打する人物が着ているのは無地のジャケット。その写真を改竄し、背中にアンティファのロゴを加えてあったのだ。

Fact Check: Antifa Member Photographed Beating Police Officer?

Full Report: https://t.co/doP9v8DgxDpic.twitter.com/R5u9J4RJIj

— snopes.com (@snopes) 2017年8月15日

画像検索サービスの「ティンアイ」で調べてみると、この改竄写真は今回の衝突事件に合わせて加工されたものではなく、この数年、ネットで出回っていたもののようだ。

アンティファのロゴは、国ごとに少しずつ違うようだが、これはドイツのロゴのように見える。

写真の現場はギリシャ、加工素材はドイツ。いずれにしても米国バージニア州とは、大西洋をはさんだ距離にある。

●「トランプ大統領との記念写真」

「白人至上主義の集会参加者とトランプ大統領の記念写真」

これをツイッターに投稿した一人が、英テレグラフの中東特派員、ラフ・サンチェス氏だ。白人至上主義の集会に参加している人物の写真と、トランプ氏とのツーショット写真を合わせて「難しい話ではない」と書き添えていた。

白人至上主義で知られる人物のツイッターアカウントのプロフィール写真に、トランプ大統領とのツーショット写真が使われていたことから、両者のつながりを示すものとして、流布していたようだ。

だが、これも改竄写真だった。ツイッターアカウントの本人が、トランプ氏と別人のツーショット写真を自分の顔とすげ替えたものだ。

本人がツイッターでこう明かしている。「みんなトランプと私の写真を本物だと思ってるけれど、これはフォトショップで加工したものだ」

テレグラフのサンチェス氏は、間もなく写真のツイートを削除。訂正のツイートを流している。

●別人を取り違える

衝突事件の後、@YesYoureRacistというツイッターアカウントを中心に、白人至上主義の集会の模様を撮った写真から、参加者を特定する、「ドキシング」と呼ばれる動きがネットで始まる

その中で、風貌などが似ている、ということから全くの別人がネットで名指しされる、という騒動も起きた。

被害に遭ったのは、アーカンソー大学の男性助教だ。

集会の写真の中に、やや小太りでヒゲをたくわえ、「アーカンソー大学工学部」と書かれたTシャツ姿の参加者がいた。

人物特定を募るツイートは1万回以上もリツートされた結果、男性助教の名前があがる。助教もヒゲをたくわえ、同大学工学部の医用生体工学科に所属していることが、その人違いのもとになったようだ。

助教は当時、イベント出席のため、大学の同僚らとともに、衝突現場から西に1400キロ離れたアーカンソー州ベントンビルにいた。

だが間もなく、助教のツイッターやインスタグラムは、非難の書き込みであふれた、という。

なお、この「ドキシング」をめぐっては、本人に行き当たり、勤め先を辞めたり大学を自主退学する親から勘当される、などのケースも明らかになっている。

●トランプ大統領の「うそ」

ちなみに、トランプ大統領はこの衝突事件に関して、白人至上主義グループなどの集会は、市当局から正当な許可を得たのに、反対派のグループは無許可でデモを行っていた、と主張していた。

だが、ワシントン・ポストのファクトチェックによると、反対派グループも、白人至上主義グループの集会会場となった公園近くの別の公園で、当局からの許可は得ていた、という。

また、市広報の説明では、集会が行われている公園へに立ち入ることや、その近くの路上にいることについては、市当局の許可は不要、だという。

同紙は、このトランプ氏の発言に対して、ピノキオのマークを4つつけた「大うそ」の認定をしている。

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(2017年8月18日「新聞紙学的」より転載)