公正取引委員会が8月27日、芸能事務所とタレントの契約や取引内容をめぐり、独占禁止法上問題となり得るケースを資料にまとめ、自民党に提示した。
資料では、芸能事務所がテレビ局などの出演先に圧力をかけて、移籍・独立したタレントの活動を妨害する行為などを例に挙げている。今後は、芸能事務所や業界団体への周知にも取り組んでいくという。
公取委がまとめた芸能事務所の問題行為 内容は?
資料は、27日午前に開かれた自民党の競争政策調査会で配布された。
資料では、芸能人の移籍・独立、また待遇に関して「独占禁止法上問題となり得る行為」がまとめられている。
移籍や独立に関しては、テレビなどの出演先に圧力をかけて芸能人の芸能活動を阻害する行為や、移籍や独立を諦めさせるためにタレントを「干す」などと脅し、芸能活動の妨害を示唆する行為などが問題になり得るという。
【芸能人の移籍・独立に関するもの】
・所属事務所が、契約終了後は一定期間芸能活動を行えない旨の義務を課し、または移籍・独立した場合には芸能活動を妨害する旨示唆して、移籍・独立を諦めさせること(優越的地位の濫用)
・契約満了時に芸能人が契約更新を拒否する場合でも、所属事務所のみの判断により、契約を一方的に更新できる旨の条項を契約に盛り込み、これを行使すること(優越的地位の濫用)
・前所属事務所が、出演先(テレビ局等)や移籍先に圧力を掛け、独立・移籍した芸能人の芸能活動を妨害すること(取引妨害、取引拒絶等)
また、報酬など芸能人の待遇に関する見解についてもまとめられた。
【芸能人の待遇に関するもの】
・所属事務所が、芸能人と十分な協議を行わずに一方的に著しく低い報酬での取引を要請すること(優越的地位の濫用)
・芸能人に属する各種権利(氏名肖像権、芸能活動に伴う知的財産権等)を芸能事務所に譲渡・帰属させているにもかかわらず、当該権利に対する対価を支払わないこと(優越的地位の濫用)
芸能界の問題をめぐっては、最近では、吉本興業の「書面で契約書を締結しない」契約のあり方などにも疑問の声が上がった。
公取委が配布した資料では、契約のあり方についても独占禁止法上の考え方を明記。
書面ではなく口頭で契約を行うことについて、「直ちに独占禁止法上問題となるものではない」としながらも、「競争政策上望ましくない」との見解を示した。
【競争政策上望ましくないもの】
・契約等を書面によらず口頭で行うことは、直ちに独占禁止法上問題となるものではないものの、優越的地位の濫用等の独占禁止法上問題となる行為を誘発する原因となり得るため、競争政策上望ましくない。
公取委は、これらの行為が実際に独占禁止法上違反となるかどうかは、タレントが被る不利益の程度や、代償となる措置が取られているか、またあらかじめ十分な協議が行われたかなどを考慮し、「個別具体的に判断される」としている。
7月にはジャニーズ事務所を注意 公取委が芸能界にメス
公正取引委員会は、企業に属さずフリーランスとして働く人が増えたことを背景に、公正・自由な人材獲得競争を確保するため、「人材と競争政策に関する検討会」を開催。2018年2月には、人材分野に関する独禁法上の考えをまとめた報告書を公表した。
フリーランスにはスポーツ選手や芸能人も含まれることから、この検討会以降、公取委はスポーツ・芸能分野における契約や取引のあり方についても独禁法上の観点から見解を示してきた。
2019年7月には、元SMAPメンバーのテレビ出演をめぐり、テレビ局等に圧力をかけている場合は「独禁法上違反につながる恐れがある」として、ジャニーズ事務所を注意している。
今回の資料では、芸能分野においてどのような事例が「問題行為」となるのか、具体的な内容が初めて挙げられている。移籍・独立トラブルが相次ぐ芸能界に、改めて公取委が「メス」を入れたかたちだ。
公取委では今後、独占禁止法上の考え方について、セミナーや勉強会などを通して業界団体や芸能事務所などに周知していくという。また、芸能分野の取引の改善や見直しに向けた業界団体の自主的な取り組みも支援していくとしている。