通常国会が終わり永田町は静かになった。ここしばらく、来るべき大決戦で何を問うべきか熟慮してきたが、走り出すべき時が来た。
■経営者の危機感
先日、経団連のレセプションがあり、久々に多くの経営者と話す機会があった。印象的だったのは、何人かの経営者から消費税の増税を予定通り行うべきだという話が出たことだ。高い支持率を背景に財界にも強いプレッシャーをかける安倍政権だけに、経営者がもの申すのは勇気がいる。その安倍政権に対して、経済同友会の小林代表幹事が消費税を上げるべきだと発言し、日本商工会議所の三村会頭が再々延期なら財政破たんとコメントしたのだ。
消費増税は大なり小なり企業経営のマイナスになるわけだから、企業経営だけを考えれば先延ばしは歓迎だろう。個別の企業経営を考える経営者に対して、国家の財政を考える政治家が増税の必要性を説くなら分かる。今回はその逆なのだ。両首脳がグローバル企業の出身であることを割り引いたとしても、経営者個人が加入する同友会、中小企業を代表する日商のトップが、国家の財政を憂うる立場から消費増税の先延ばしに懸念を表明したことを我々政治家は肝に銘じるべきだ。
日本経済の現状は厳しい。安倍総理は、再延期の理由を世界経済の危機にあるとしたが、さすがにこれは無理がある。IMFの経済見通しによると、2016年の世界全体の見通しは3.5%となっている。米国、EU各国などG7参加国も平均すると1%代の半ばとなっており悪くない。そんな中で、日本だけが0.5%と落ち込んでいるのだ。悪いのは世界経済ではなく日本経済なのだ。民進党も、こうした数字を背景に消費増税できる環境にはないと判断した。
■参議院選挙で問われるべき財政再建
2年前の解散会見では総理は以下のように発言している。
「平成29年4月から確実に消費税を引き上げることといたします。今回のような景気判断による延期を可能とする景気判断条項は削除いたします。本当にあと3年で景気がよくなるのか。それをやり抜くのが私たちの使命であり、私たちの経済政策であります」
安倍総理には、財界の声に真摯に耳を傾けて、なぜ、自らが宣言した使命を果たせなかったのか総括し、財政再建をどのように果たすのかということについて、ビジョンを示してもらいたい。そして、我々野党も同様の責任を負っている。ここで与野党がばらまき合戦をするようでは、日本の民主主義は劣化していくだろう。
財政再建を成功させるためには、歳出削減7に対して、歳入増3で行う必要があるとされている(アレシナの法則)。行財政改革を断行するためにも、議員定数の削減は大前提。各党は、消費増税の延期を契機に、もう一度、身を切る改革を競うべきだろう。後に述べるが、社会保障費もその例外ではない。
■中小企業、若者、地域に光を当てる
消費増税が延期された以上、歳入増の基本は経済成長だ。アベノミクスのアプローチは行き詰まっており、このままの路線を継続しても経済は良くならないと考えている。第一の矢である金融政策は、ゼロ金利に踏み込んだ黒田バズーカが逆噴射し、自陣(地方経済)にダメージを与えてしまっている。第二の矢である公共事業も財源問題でこれ以上の上積みは難しくなっている。
第三の矢である規制改革に期待する声がある。製造業、サービス業を問わず、事業の拡大やコスト削減が実現すれば、当該企業の設備投資の増加や従業員の所得の増加、マクロで見れば外需の取り込みも期待できるだろう。規制改革は行うべきだ。ただし、注意が必要なのは規制改革だけで景気が良くなることはないということだ。
安倍政権になって、マクロの実質国民所得は減少を続けている。やはり、マクロの所得が増えない限り、GDPの6割を占める消費が盛り上がらず、経済は成長しないのだ。典型例で考えても、民泊ができるようになったと言って、旅行の回数を増やす人はいないだろう。また、自動運転の車ができたとしても、車を買い増す人はいないだろう。
安倍総理は、「アベノミクスの果実を適切に分配する」としているが、適切な分配なくして、成長はない。参議院選挙では、民進党はこれまでの評価を覆し、アベノミクスで光が当たってこなかった中小企業、若者、地域に焦点を充てた経済政策を提案するべきだ。
■中小企業が正社員を雇える社会を
我々が目指すべきは、望めば正社員になることができ、結婚し、子どもをつくることができる社会だ。そのためには、小泉政権以来増加してきた非正規労働者の増加に歯止めをかける必要がある。時まさに、生産年齢人口が減少し、中小企業の人手不足が深刻化している。企業が付加価値を上げるためにも、今が正社員を増やすチャンスなのだ。
民進党は、日本経済を支えている圧倒的多数の中小企業が正社員を雇いやすくする政策を提案している。例えば、月収20万円の正社員を雇うと、年金保険料、医療保険、失業保険に加えて、40歳以上になると介護保険料が発生し、事業主は給与に加えて毎月3万円から4万円の負担を強いられる。この負担の重さが、正社員を雇う場合のネックになっているケースが多い。
中小企業が新たに正社員を雇い入れる場合、社会保険料の半分を支給するとしても、税収増も想定されるため、初年度の所要額は217億円程度、5年後で1085億円にとどまる。安倍政権は、単年度7280億円という巨額の法人税減税を行うとしているが、円安のメリットで内部留保をため込んだ大企業に更なる減税をしても景気へのプラス効果は期待できない。アベノミクスの恩恵が及んでいない地方経済に活力を与えるためにも、法人税減税の財源を社会保障負担の軽減に回すべきだ。
■人生前半の社会保障
参議院選挙を前に、保育などの子育て支援、給付付き奨学金などの教育の議論が盛んになっている。遅きに失したとは言え、自民党が子育てや教育の責任が社会全体にあることを正面から認めたことは前進だと思う。ただ、これまでは子育てや教育の充実は、経済成長の果実としての財源が確保されたらという前提がついてきた。
私は、この壁を打ち破り、経済政策の柱として子育て、教育など「人生前半の社会保障」の充実を挙げたい。昨年、柴田悠京都大学准教授の話を聞く機会があった。柴田准教授は、各国の福祉政策が経済指標に及ぼした影響を分析し、子育て支援が、女性の労働力化率、労働生産性の上昇を通じて、経済成長率を高めるという分析を行っている。
柴田准教授の分析は実感とも符合する。多くの若者は、所得を貯蓄に回す経済的ゆとりがない。特に、保育所の充実、奨学金の充実などの現物給付は、GDPをダイレクトに押し上げ、支援を受ける親や本人の将来の労働生産性を高める効果を持つ。柴田准教授によると、公共事業の乗数効果が1.1なのに対して、子育て支援の乗数効果は2.3。ちなみに、プレミアム商品券などは日常の消費の一部に使われるだけなので消費の合計額はほとんど増えず、乗数効果は1を大きく下回る。天下の愚策の商品券のばらまきと異なり、人生前半の社会保障の充実は成長の源となるのだ。
■シルバー民主主義と向き合う
子育て支援に対する社会的な要請、経済的な効果を考えると、私は近い将来、新たな財源の確保、子ども家庭省の創設など、様々な制度的な対応が必要だと考えている。ただ、短期的には現状の予算の中でその財源を確保しなければならない。
私が生まれた1970年代前半、7%だった高齢化率は今や25%。私が高齢者になる時には40%近くに達する。月日の経過と共に、豊かな(豊かになっていく)若者と貧しい高齢者という一般的な構造は大きく変わった。これからも高齢者福祉は重要だ。特に、資産がなく低年金の高齢者については更なる対応が必要だ。元気なお年寄りも、やがては医療や介護の不安を持つようになる。
ただ、年収200万、300万の若者や、子育て世代が、数千万円から億の単位の資産を持つ高齢者の社会保障費用を負担するのは限界がきている。私は、多額の資産を持つ、もしくは所得を得ることのできる高齢者に一定の負担をお願いするべき時期が来ていると考えている。
消費増税を先延ばしする以上、我々政治家は有権者にとって耳の痛い話から逃げるべきではない。数の上でも、投票率の上でも影響力の大きい高齢者の皆さんに、人生前半の社会保障の充実と、負担について理解を求めるべきだ。世代間の対立を煽るのではなく、「皆さんのお子さん、お孫さんのために力を貸してもらいたい」と丁寧に訴えることができる政治家が、与野党を超えて何人いるかで、わが国の未来は決まると思う。
私は、政治家として未来への責任を果たしたいと思う。