電話番号は時代遅れだ。番号を一旦知られてしまうと、その人からの連絡を拒む手段がなくなってしまうからだ。
私から連絡がほしいと思っている人がいても、その人の番号の羅列を知らなければ連絡することはできない。直接会ってない人からの重要な用件には対応することができないのだ。
Facebook Messengerはその問題を解決しようとしている。それは、彼らが製作したこれまでで最悪のプロダクトから誕生した。
つながる機会を取りこぼさない
今日からMessengerは機能不全に陥っている「その他受信箱」を消す。そこは友達でない人や友人の友人からのFacebookメッセージの墓場だった。少数の人しかそれがあることさえ知らない。ちゃんとこの受信箱をチェックしている人はさらに少ないだろう。iOSとAndroidのMessengerアプリからはアクセスすらできないのだ。
私の友達は、30年前にベトナムで生き別れた兄弟からFacebookメッセージを受け取ったそうだ。しかし、そのメッセージが「その他」に振り分けられていたため、半年もメッセージの存在に気づかなかったそうだ。LinkedInからのつながり申請がきて、ようやく見ていなかったことに気がついたという。
幸いなことに、そのようなことはもう起きないはずだ。今日からFacebookは「その他受信箱」の代わりとなる「Message Requests(メッセージ申請)」機能の世界展開を始める。他のユーザーに連絡を取る時に必要なのは相手の名前だけで良いということだ。そして、申請を受け取ったユーザーは相手がまた連絡して良いかどうかを決めることができる。
チャット用の友達申請
今後、友達でない人で電話番号を知らない人がメッセージを送信してきた場合、それらはMessengerの一番上に「メッセージ申請」として現れる。モバイルでもウェブ版でも同じだ。
ユーザーは連絡を取るか、あるいは永久に無視するかを決めることができる。送信者の名前、 住んでいる街、仕事や共通の友達といった基本的な公開情報とメッセージ内容を確認することができる。
送信者はユーザーがメッセージを読んだかどうかを知る術はない。返信した場合、そのスレッドは受信箱に移動し、無視した場合は「Filtered Requests(振り分けた申請)」フォルダに他のスパムと思われるメッセージと一緒に隠される。
すでにその人と会話のスレッドがある場合、あるいは相手の電話番号を知っている場合、そのメッセージは通常の受信箱に入る。一つ注意したい変更点は、友人の友人のメッセージもメッセージ申請として扱われることだ。Facebookは、共通の友人がいるからといってユーザーが友人の友人と話したいとは限らないと考えているようだ。
要するに、メッセージ申請はチャット用の友達申請のようなものだ。これによりFacebookで新たな種類の人間関係が生まれる。友達ではないが、メッセージをやりとりする人という関係だ。そのように考えると、Messengerで会ったばかりの人とつながる可能性が広がる。誰だかは知らないが、話す必然性がある人やビジネスとつながることができる。
Eメールとは違う
Tony Leachは両親の電話番号を知らない。彼は、Messengerのメッセージ申請のプロダクトマネージャーを務めている。親不孝な息子ということではない。彼の家族は頻繁に引っ越しをし、その度に必ず引越し先の土地の電話番号を取得するそうだ。「電話番号は1950年代の名残なのです」と彼はいう。「私は両親のことを大切にしています。誰かと連絡を取るのに、名前の方が番号より良い方法だと思います」。
2010年にFacebookは挑戦し、そして失敗した。その時は名前を電話番号の代わりにするのではなく、メールアドレスの代わりにしようとした。同社は、全員にMessengerと連携する(ユーザーネーム)@facebook.comのアドレスを振り当てた。ユーザーがメールアドレスに届くニュースレター、請求者などがMessengerにルートできるようにした突飛なアイディアだった。
ただ、ユーザーはそうしなかった。そして返信するほどでもない内容のものだけが振り分けられる筈だった「その他受信箱」は、友達ではない人からの重要なメッセージが誰にも読まれずに溜まる場所となった。
Appleと連絡先を同期するためのパートナーシップなどに時間を取られ、ついにFacebookのメッセージ申請のリードエンジニアであるMichael Adkinsは「その他フォルダはモバイル同士のやりとりの仕組みとして機能していません」と言った。デスクトップユーザーが離れている機能を進化させるには、「その他受信箱」を完璧に仕上げるしかない。
「別居していた親が連絡を取ろうとしていたことや誰かが財布を拾って返すために連絡しようとしていたという話を度々聞きました」とLeachは説明する。「そこで、連絡を取りたいメッセージが簡単に見つかるシステムに置き換えようと考えました」。
Facebookのビジネスにとってもこれは良い影響があるだろう。多くの人はモバイルを頻繁に利用している。Messengerが便利なほどFacebookのエコシステム内にユーザーを留めることができる。そこでニュースフィードの広告を見たり、Facebookが利益を得られるデータを生成するだろう。
「知られていないプライバシー」を「コントロールのある開かれた環境」に
Facebookは「その他受信箱」全てのメッセージをメッセージ申請の機能の一つ、振り分けた申請フォルダを通す。さらに、友人ではない人からのメッセージをこれまでSMSではできなかった賢い方法で、ユーザーが振り分けられるようにした。
メッセージが意味のあるものなら、誰でもFacebookに登録する他の15億のユーザーと連絡を取ることができる。これはLeachの言う「世界の誰とでも連絡の取れる開かれた状態だが、ユーザーは誰がユーザーに連絡ができるかに関してコントロールを持つ」ことを実現する。
後半部分は重要だ。これは間違いなく人類の多くに該当するプライバシーのコンセプトを変えるものだ。Facebookは「知られていないプライバシー」を「コントロールのある開かれた環境」に変えようとしている。FacebookのMessengerのヘッドであるDavid Marcus自身も「小さな変更のようですが、実際はとても意味のある変更です」としている。
これまで誰かに連絡しようとする際、知られていないことがプライバシーの確保につながっていた。つまり、相手が電話番号を知らなければ通話やテキストのやりとりは送られてこない。しかし、一度知られてしまうと、コントロールすることはできなくなる。相手の番号をブロックしたとしても、相手は自分の番号を変更したり、違う人の電話を使用すれば連絡することができる。「メールアドレスを一度公開してしまうと、他人がそのアドレスで何をしているか知ることはできません」とAdkinsは忠告する。「誰かに売ることだってできます。電話番号も同じです」。
最初のセキュリティーレベルを超えた時、悪用される可能性が出てくるのだ。
Facebookでは、ユーザーはコントロールのある開かれた環境にある。相手がユーザーの名前を知っていれば連絡することはできるが、ユーザーが相手をブロックすることも簡単にできる。メッセージ申請を削除、あるいは無視すれば、その人からのメッセージ通知を受け取ることは二度とない。
また、Facebookのスパム検知システムは最近作成されたばかりの友達の数が少ないアカウントにフラグを付けている。Messengerは新しいアカウントを作ってユーザーに迷惑をかけようとしているアカウントを自動でブロックすることができる。Messengerは送信者の以前のメッセージ行動やユーザーがメッセージ申請の承認の可否を考慮して、どのメッセージを表示するかも判断している。
現在、スパムでないようなら、Messengerで財布を返却しようとしている赤の他人やパーティーで会った人からの申請を見ることができる。この変更は慣れるまで少し怖い印象を受けるかもしれないし、返信する必要のない唐突なメッセージなども受け取ることがあるだろう。しかし、開かれた状況をコントロールする方が長期的にみればグローバル化が進む社会のコミュニケーションを広範囲で適応することができる方法だろう。
「さきほどお会いした者です」
プライバシーのあり方の変更は、私たちが他人と関わる方法を根本的に変えることになるかもしれない。
通常新しい人と出会ったのなら、名前を名乗り、会話をしているだろう。そして最後に一方がその関係を友情やそれ以上に発展させたいと思った場合、その人は相手の電話番号を聞かなければならない。
しかしこれは手間のかかる不便な方法だ。その人に今後も連絡を取っていいか許可を取るのは、一見相手を尊重する行為のようだが、多くの人は断りづらいと感じるだろう。結果的にいずれかが相手との関係を望んでいない、あるいは居心地が悪いと感じた場合、偽物の番号と裏切られた感情が残るだけだ。
メッセージ申請により、Facebookを業務委託の人や短期で一緒に仕事をする人、その他短期的に連絡を取り合いたい人同士で使用するという用途にも使えるようになる。友人でなく電話番号を知られたくない人とも連絡が取れる。
Facebookにとってメッセージ申請で得られるさらに大きいビジネスチャンスは、WeChatのように企業と直接コミュニケーションが取れる方法を確立させることにあるだろう。ニュースフィードは企業にとって、ビジネスの根幹ではないコンテンツ共有を担う。もしユーザーが取引の詳細を企業に伝えたり、注文を変更したい場合は、メッセージの方が適切に対応できるだろう。
Facebookは、カスタマーサービスを提供する方法を検証している。住宅の修繕の見積もりを得たり、Messengerを介してページの管理人とやりとりすることができる。そして、 Messengerには支払いシステムも組み込んだ。メッセージ申請をいつも利用している商店から受け取り、重要な更新情報を受け取ったり、チャットからすぐに商品が購入できるような未来を想像してみてほしい。
今の段階では、メッセージ申請は内向的な人にとって便利なツールになるだろう。深いつながりを作るための最初の障壁はなくなったのだから。相手の名前を知っていればそれで十分なのだ。
Leachは「直接、相手の電話番号を聞くことができなくて逃したデートの回数を考えてしまいます」と言う。
[原文へ]
(2015年10月28日 「Facebook Messengerの機能変更で自分の名前が電話番号の代わりになる日が近づいた」より転載)
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