フェイスブックがパレスチナのジャーナリストを検閲する

フェイスブックは、このアカウント停止の具体的理由は明らかにせず、「手違いだった」として謝罪。復旧措置を取ったという。

フェイスブックの"メディア"としての責任をめぐる騒動が収まらない。むしろ、より深刻なケースが表面化している。

今度の舞台はパレスチナだ。

ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区にある2つのニュースメディアのジャーナリストら7人のフェイスブックのアカウントが9月下旬、一斉に停止されたのだという。

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フェイスブックは「手違いだった」と釈明。アカウントはほどなく復旧したようだ。

ただ、この騒動には前段がある。

その前週、フェイスブックはイスラエル政府と、ネット上の暴力行為の扇動対策に取り組むことで合意していたのだ。

パレスチナのジャーナリストらは、フェイスブックから"扇動者"と認定されたのではないか――そんな疑念が出ている。

フェイスブックと現実社会とのひずみは、抜き差しならないものになってきた。

●突然のアカウント停止

この騒動を報じたのは、イスラエル・パレスチナ問題を扱うシカゴのニュースサイト「エレクトロニック・インティファーダ」の共同創業者、アリ・アブニマさん。

それによると、クドス・ニュース・ネットワークシェハブ通信という、パレスチナ自治区の2つのニュースメディアの編集者たち7人のフェイスブックのアカウントが、9月23日に突然、一斉に停止されたのだという。

それぞれフェイスブックページを開設しており、クドスは500万人超、シェハブは600万人超の「いいね!」を持つ。

アルジャジーラによると、クドスでは、エンターテインメントや国際報道のニュースにもアクセスできなくなった、という。

フェイスブックは、このアカウント停止の具体的理由は明らかにせず、「手違いだった」として謝罪。復旧措置を取ったという。

フェイスブックはこのような釈明をしているようだ。

我々のチームは毎週、数百万もの(規約違反の)報告を処理しており、時には間違えることもあります。今回の誤りは大変申し訳なく思っています。

●イスラエル政府との合意

このアカウント停止が注目を集めたのは、その前週、フェイスブックとイスラエル政府の、提携合意が発表されたことが関わっている。

合意では、フェイスブックとイスラエル政府が共同で、暴力行為を扇動する書き込みをモニターし、削除していくというもののようだ。

AP通信によると、フェイスブックはこの合意に際して、次のような声明を発表している。

ネット上の過激主義は、政策決定機関、市民社会、学界、そして企業との強力なパートナーシップによってしか立ち向かうことはできない。これはイスラエルでもそうだし、さらに世界中であてはまることだ。

この合意には、昨年来のフェイスブックとイスラエルとの緊張関係が背景にある。

イスラエルは、パレスチナ人による暴力行為がソーシャルメディア上の扇動によって頻発していると指摘。特に、フェイスブックに規制を強めるよう要求のボルテージを上げてきた。

7月には、イスラエルのエルダン公安相は、強い言葉でフェイスブックを非難している。

(暴力行為の)被害の責任は、フェイスブックの血塗られた手にもある。フェイスブックは怪物に変身したのだ。

エルダン公安相らは、フェイスブックにコンテンツ規制強化を義務づける国内法制定も推進。

また同月、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスによる、イスラエルへの攻撃の犠牲者遺族らが、フェイスブックが「攻撃計画の場を提供し、支援したことが、米国の反テロ法(愛国者法)に違反している」としてニューヨーク南部地区連邦地裁に10億ドル(1000億円)の賠償を求める裁判を起こしている

AP通信によると、イスラエルのシャクド法相は、フェイスブックとの提携合意発表に際して、それまでの"扇動"投稿の削除状況を明らかにしている

それによると、過去4カ月に同政府はフェイスブックに対して158件、ユーチューブに対して13件の削除を要求。これを受けて、フェイスブックは削除要求の95%、ユーチューブは80%を実際に削除したという。

●ジャーナリストたちの疑念

今回、アカウントを停止されたパレスチナメディアのジャーナリストたちは、それがフェイスブックとイスラエル政府による合意に基づくもの、と受け止めたようだ。

エレクトロニック・インティファーダに対し、クドスの責任者であるエズ・アルディン・アルアクラスさんはこう述べている。

我々はこれ(アカウント停止)がイスラエルとフェイスブックの合意の結果だと信じている。

表現の自由とジャーナリズムのプラットフォームと考えられているフェイスブックが、このような合意に加担するのはとても奇妙なことだ。

アルジャジーラによると、今年だけでイスラエル政府は145人のパレスチナ人を、ソーシャルメディア上での"扇動"の罪で起訴したことを明らかにしているという。

アルアクラスさんはこうも述べている。

今回の件は、いかなる圧政国家も、メディアを閉鎖したければフェイスブックを頼りにすればいい、ということを物語っている。

すでにそれは進みつつあるようだ。クドスの通訳兼ジャーナリストのニスリーン・アルカティブさんは、アルジャジーラにこう話している。

多くのパレスチナのメディアが理由もなく、フェイスブックによってページを閉鎖されている。すくなくとも5つのページがすでに閉鎖された。

●ソーシャルメディアによる検閲

フェイスブックの情報選別については、いくつもの問題点が指摘されてきた。

中でも、ナパーム弾攻撃から裸で逃げ惑う少女をとらえた報道写真「ナパーム弾の少女」を繰り返し削除した際、フェイスブックはこんな風に釈明している。

裸の子どもの画像は、いくつかの国では児童ポルノと見なされる可能性もある。

「それが違法とされる国もある」――この論理が広がれば、ある国の主張によって、世界中のコンテンツの削除や、アカウントの停止にもつながりかねない。

フェイスブックとイスラエル政府の連携は、そんな問題点を浮かび上がらせる。

NGO「ソーシャルメディア推進のためのアラブセンター」共同設立者のナディーム・ナティフさんは、アルジャジーラにこう述べている。

気がかりなのは、フェイスブックが何が"扇動"かを定義する際に、イスラエルの政策と用語を採用している、という点だ。

さらに、スノーデン事件をスクープしたインターセプトのグレン・グリーンワルドウォルドさんは、こう指摘する

フェイスブックは、ジャーナリズムにおけるずば抜けた最強の支配者であるといっても、過言ではないだろう。そのフェイスブックが、一国の政府とともに、敵対勢力の言論を検閲するというのは、言いようもないほど重大な事態だ。

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■ダン・ギルモア著『あなたがメディア ソーシャル新時代の情報術』全文公開中

(2016年10月1日「新聞紙学的」より転載)