メディアが信頼度の格付けは、フェイスブックのユーザーアンケートが決める――。
フェイスブックが「ニュースフィード」からメディアの「ニュースを排除」するアルゴリズム変更を発表してから1週間。その影響を巡る様々な懸念を受けて、同社は19日に急遽、追加措置を発表した。
それによれば、フェイスブックがメディアの「信頼度」を評価。それが高ければ、ニュースフィードにはなお表示されるが、そうでないメディアは表示されなくなる。そして「信頼できる」かどうかは、フェイスブックがユーザーへのアンケートの結果をもとに決める、としている。
まさに、ニーマンラボの「2018年のジャーナリズム予測」で、オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所、ラスムス・クライス・ニールセン氏が予測した、「メディアの選別」だ。
フェイスブックが先行して「ニュース排除」の実験を行っているスロバキアなど6カ国では、その結果として、フェイクニュースの氾濫が報告されている。
そして今回のユーザーアンケートという手法については、外部からの介入の可能性などを指摘する疑問の声が出ている。
フェイスブックとメディアの関係は、ますます混沌としてきた。
●「信頼できるメディア」のみ表示
本日、今年の仕様変更第2弾をお知らせしたい:みなさんが目にするニュースは、全体として少なくはなるが、それを高品質なものにする変更だ。プロダクトチームに指示したのは、信頼でき、有益で、地域の情報を伝えるニュースを優先させるということだ。週明けから、それら信頼できるメディアの優先を始める。
19日、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏は、自らのフェイスブックページへの投稿で、そう述べた。
ザッカーバーグ氏は11日、ニュースフィードに表示する投稿は友人や家族など双方向のコミュニケーションを喚起するものを優先し、メディアのニュースなどの表示を少なくする、と発表していた。
それからわずか8日後の、事実上の軌道修正だ。
19日の投稿でザッカーバーグは、現状ではニュースコンテンツはニュースフィードの約5%を占めるが、仕様変更後は約4%に減少するとし、「これは大きな変化だ」と述べている。
フェイスブックは、ユーザーのニュースフィードに1日に寄せられる投稿数は平均して1500件で、それをアルゴリズムで絞り込み、約300件を表示している、と明らかにしている。
これをあてはめると、従来は1日あたり15件表示されていたメディアのニュースが、仕様変更後は12件に減少する。単純計算で1カ月あたり、90本のニュースがニュースフィードから姿を消すことになる。
●フェイクニュースの氾濫と「態度豹変」
今日の世界には、極めて多くのセンセーショナリズム、虚偽情報、偏向情報があふれている。ソーシャルメディアは、人々がこれまでにないスピードで情報を拡散することを可能にしている。我々がこの問題にしっかりと取り組まなければ、さらに広がることになってしまう。だからこそ、ニュースフィードが高品質のニュースを押し上げて、共通理解の構築を後押しすることが重要なのだ。
ザッカーバーグ氏は11日の発表では、「ニュース排除」の理由として「ニュースを読むことは受動的な体験にすぎない」と切って捨てていた。だが19日の発表では打って変わって、「ニュースは、人々が重要なテーマについて会話を始めるための、不可欠な手段となるだろう」と真逆の評価を披露する。
この態度豹変には、今回のニュースフィードの仕様変更に先立って、スロバキア、スリランカ、セルビア、ボリビア、グアテマラ、カンボジアの6カ国で行った「ニュース排除」実験の余波が影響しているようだ。
フェイスブックはこの6カ国で昨年10月から、メディアが配信したニュースをすべて、通常のニュースフィードでは非表示とし、「発見フィード」という新コーナーのみに表示する実験を開始した。
するとその結果として、フェイスブック上での共有などのエンゲージメントが激減したのみならず、メディアのニュースの代わりに、フェイクニュースが氾濫し始めた、とニューヨーク・タイムズが報じている。
ニュースフィードからニュースが消え、友人や家族などの投稿で埋められていけば、そこに価値観が閉じられていく「フィルターバブル」が発生する可能性は高まる。そして、「フィルターバブル」こそ、フェイクニュース拡散の温床と指摘されてきた。
まさに、そんな事態が、「ニュース排除」で起きている。
ザッカーバーグ氏の、「ニュース」への態度豹変は、この事態を受けたもののようだ。
●「信頼」の選び方
「その判断は、我々自身ですることもできるが、それは気が進まない方法だ」とザッカーバーグ氏。そして、「(ユーザーの)コミュニティに決めてもらうことにした」と述べている。
ザッカーバーグ氏が「気が進まない」のには、理由がある。
フェイスブックは、「社内の編集者チームが意図的に保守派メディアを排除している」との疑惑を報じられた経緯がある。米大統領選期間中の2016年5月というタイミングでもあり、「保守派メディア排除」疑惑は大きな批判を呼ぶ。結局、ザッカーバーグ氏は保守派論客たちをシリコンバレーの本社に招き、自ら釈明あたる事態となった。
その"トラウマ"から、今回の「信頼度」の格付けは、ユーザーのアンケートに判断をゆだねる形にしたようだ。
ニュースフィードの責任者、アダム・モッセリ氏のリリース文によると、この調査はすでに実施済みのようだ。
このユーザーアンケートをもとに格付けしたメディアの「信頼度」に加え、有益な情報か、地域に役立つ情報か、などの要素によって、表示の優先度を調整していく、という。
そして、まずは米国で実施した後、世界展開するのだという。遠からず、日本のメディアも格付けをされることになる。
●メディアの選別と介入の危険
そして、ユーザーアンケートやメディアの格付けの結果の公開について、フェイスブックは今のところ、一切言及しておらず、ブラックボックスとなる可能性が高い。
オックスフォード大学ロイター・ジャーナリズム研究所のリサーチディレクター、ラスムス・クライス・ニールセン氏は、「2018年のジャーナリズム予測」の中で、こんな予測をしていた。
2018年は、大手プラットフォームが「ニュースにはトラブルにわずらわされるほどの価値はない」と判断する年になるのでは、と恐れている。その結果、(1)ニュースの役割を低下させ、システム的に他のコンテンツと分離し、(2)プラットフォームでニュース配信を許される報道機関の数を絞り込み、誰がそのチャンスを手にするかを厳密にコントロールすることになるのでは、と。
まさに(1)は「ニュース排除」、(2)は今回の追加措置である「メディアの選別」。2018年が始まってから1カ月もたたずに、その予測が2つとも実現してしまった。
「メディアの信頼度」と一言でいっても、その物差しそのものが、政治的立場などによって大きく異なる。
ピュー・リサーチ・センターは2014年、米国の2900人を対象に、メディアの信頼度を調査し、その結果を発表している。
それによると、皮肉なことに、米国で最も信頼度が高いメディアは、英エコノミスト、2位は英BBC、と、上位を英国メディアが占める結果となってしまった。
米国の代表的メディアであるニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストは、リベラルと保守で大きく評価が分かれたため、総合すると、それぞれグーグルニュース(11位)を下回る13位と14位となった。
メディアの業界団体である「デジタル・コンテント・ネクスト」のジェイソン・キント氏は、ニューヨーク・タイムズのインタビューにこう述べている。
評価にもとづき、さらにブランドを信頼の基準としてメディアの優劣の仕分けに取り組み始めるというのは、極めて前向きの動きだ。ただ、悪魔は細部に宿る。それを具体的にどう実施するか、だ。それがハッキングを受けたり、操作されたりする可能性は? そのランキングシステム自体の信頼性はどう担保される? 現時点では多くの疑問が残る。
同じタイムズによるインタビューの中で、元ニューズ・コーポレーション戦略担当副社長で、現在はユニビジョン傘下のギズモード・メディア・グループCEOのラジュ・ナリセッティ氏は、アルゴリズム至上主義のフェイスブックが、ユーザーアンケートに判断をゆだねる手法を「大いなる皮肉」であると同時に、「責任放棄」と断じる。
(ユーザーによるメディアのランキングは)フェイスブックが、社会に不可欠となったプラットフォームとして、グローバルなメディアの"よき管理人"となるべきその社会的責任を、盛大に放棄することだ。
国連「表現の自由」特別報告者のデビッド・ケイ氏は、さらに深刻な問題を指摘する。信頼度について、ユーザーと政府の立場が分かれた場合、フェイスブックはどちらにつくのか、と。
地域のユーザーコミュニティはあるニュースメディアを信頼できると判断しても、その国では当該メディアが検閲され、あるいは非合法認定をされている場合、どうなるのか? マーク・ザッカーバーグ氏は、ユーザーコミュニティの認める信頼できるメディアと、政府の認めるメディアが違った場合どうするのか。フェイスブックは、どちらにつくのだ?
▼シリーズ「メディアのサバイバルプラン」
・その3:フェイスブックがニュースを排除する
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(2018年1月20日「新聞紙学的」より転載)