フェイスブックの「政治広告」規制がニュースを排除する

「米朝首脳会談」報道も「政治広告」

フェイスブックが5月から実施している「政治広告」規制が、波紋を広げている。

ロシアによる米大統領選への介入疑惑では、フェイスブックにロシア側から世論の分断を狙ったと見られる3500件超の「政治広告」が掲載されていたことが判明。フェイスブックはこの件で、米議会などから批判の矢面に立たされてきた。

今回の「政治広告」規制は、これを受けた措置だ。

だがその副作用で、メディアによる一般記事のプロモーションまで「政治広告」に分類され、相次ぎ非表示にされる騒動が起きている。

さらにその影響は、書籍やレストランの広告にまで波及。

一方で,政治家による広告が「政治広告」に分類されずに掲載されるという、ちぐはぐさも目立つ。

メディア業界は反発を強めており、混乱はしばらく続きそうだ。

●「米朝首脳会談」報道も「政治広告」

トランプ大統領5月24日、翌月に予定されていた米朝首脳会談について、突如キャンセルを表明した。

「ヴァイス・ニュース」は同日、この影響でオンラインショップで売られていた米朝首脳会談記念コインの値段が急落している、とのニュースを配信した

「ヴァイス・ニュース」は、合わせてフェイスブックにプロモーション広告を出稿する。

だが「ヴァージ」によれば、これはフェイスブックによって「政治広告」と見なされ、即日、非表示となってしまった。

フェイスブックは非表示の理由について、こう説明している

この広告は「PR」ラベルなしで掲載されましたが、掲載開始後に、この広告には政治的コンテンツが含まれ、該当ラベルが必要であるとFacebookが判断しました。そのため広告は非表示となりました。

「PR」ラベルとは、「政治広告」に要求される表示。「ヴァイス・ニュース」というブランド名や、「スポンサー広告」という一般記事との区分け表示だけでなく、その広告の出稿元(スポンサー情報)も明らかにする必要がある、というものだ。

この場合は、「PR:ヴァイス・メディア」と「ヴァイス・ニュース」の運営元の表示も必要だった、というフェイスブックの認定だ。

「ヴァイス・ニュース」はこれ以降、「PR:ヴァイス・メディア」を表示し、記事のプロモーション広告の掲載を継続している。

●「ナウディス」「ビジネスインサイダー」も

ニュースメディア「ナウディス」では、刑事司法改革に関する解説動画などの広告9件が「政治広告」認定を受けて非表示に。

だが、その大半は「PR」表記を追加することで、改めて掲載にいたっている。

「ビジネス・インサイダー」でも、トランプ大統領ら各国リーダーの報酬額をまとめた記事など、30件の広告が「政治広告」だとして非表示になっている。

そして、「ビジネス・インサイダー」のケースでは、非表示にされて以降、新たに「PR」表記をつける形でのプロモーション広告は、出稿を取りやめているようだ。

「政治広告」規制の余波は、NPOメディアにも及んでいる。

プロパブリカによると、教育問題を扱うニューヨークのNPOメディア「ヘッチンガー・リポート」も、その影響を受けた。

一つは5月23日付けで掲載した記事。90万人を超す低所得層の大学生が、奨学金の受給対象でありながら、州政府の財政難のために受給できない、という現状を報じている。

この記事はオレゴン州ポートランドの地元紙「オレゴニアン」など、6つのメディアとの提携プロジェクトの一環だ。

さらに6月3日付けで掲載した、不法移民の子どもたち(ドリーマーズ)への教育支援を訴える記事。

いずれのプロモーション広告も「政治広告」に分類され、表示されていないようだ。

●映画や書籍、レストランまで

「政治広告」規制は、ニュースにはとどまらない。

米国のケーブル局「ショウタイム」は、ニューヨーク・タイムズを舞台にしたドキュメンタリー「フォースエステート」の広告を掲載したが、やはり「政治広告」として非表示に

ニューヨークの出版社「メルヴィルハウス」は、ジャーナリスト、セス・ヘッテナ氏がロシア疑惑を追及する新刊「トランプ/ロシア」の広告を出稿。だが掲載前の段階で、フェイスブックのアルゴリズムにより「政治広告」と認定されて、掲載拒否となった、という。

さらに、ハワイのレストラン「アロハ・タイ・フュージョン」は、地元紙「マウイ・タイム」の人気投票で、自店への投票を呼びかける広告を掲載。なぜかこれも「政治広告」と分類され、非表示となっている。

●「政治広告」規制の中身とは

混乱の背景には、フェイスブックの「政治広告」規制がかなり広範囲にわたっているという点があるようだ。

フェイスブックは4月、フェイスブックとインスタグラムを対象に、選挙関連広告に加えて、各種の意見広告についても「政治広告」として分類し、規制することを表明。5月24日から運用を開始した。

フェイスブックが現在のところ、「政治広告」としているテーマは、「中絶」「予算」「人権」「経済」「教育」「エネルギー」「環境」「外交」「行政改革」「銃」「健康」「移民」「インフラ」「軍」「貧困」「社会保障」「税」「テロ」「価値観」と、20項目に及ぶ

政治課題になりそうなテーマは、ほぼ網羅されている。

「政治広告」かどうかの判断は、まずAIによるフィルターをかけ、さらに人間のスタッフによる視認で行っているようだ。

一般ユーザーが「政治広告」についての報告を行う仕組みもある。

フェイスブックは昨年10月、この「政治広告」審査のために、1000人のスタッフを新たに雇用すると表明。最終的に、3000~4000人態勢で審査を行う予定というが、まだその規模には達していないようだ。

「政治広告」と認定された場合には、広告主は社会保障番号、免許証、自宅住所などの情報をフェイスブックに送り、米国内居住であることを証明しなければならないという。

すると審査の上で、10日ほどで「政治広告」掲載のためのコードが送られてきて、広告掲載が可能になるという。

Here's what Facebook's identification postcard (actually a letter) looks like. I requested it late last Thursday, received it today. pic.twitter.com/aqlpkrTqMn

— Jeremy B. Merrill (@jeremybmerrill) 2018年6月1日

広告には、前述のように、フェイスブックのアカウントのほか、広告出稿元(広告主)の情報も表示する。

さらに、「政治広告」はフェイスブックが構築したデータベース「アーカイブ」に保存。誰でも検索できるようになっている。

「アーカイブ」では、広告とともに、「掲載開始日」「インプレッション数」「広告費」「オーディエンスの内訳[性別・年齢][場所]」などの情報も表示される。

●「政治広告」認定されない政治家の広告

だが、これだけの規制によって、メディアなどの広告が排除される一方、政治家の広告が、「政治広告」に認定されていないケースもある。

プロパブリカは、2017年から独自にフェイスブック上の「政治広告」のデータベースを構築している。それによると、いくつもの「政治広告」認定をされていない政治家の広告が見つかる、という。

その中には、ジェフ・マークリー上院議員(民主、オレゴン)、ドナルド・ノークロス下院議員(民主、ニュージャージー)、プラミラ・ジャヤパル下院議員(民主、ワシントン)らが含まれているようだ。

●メディア業界の反発

フェイスブックの動きに、メディア業界は反発を強めている。

メディア約2000社が加盟する「ニュースメディア連合(NMA、旧米新聞協会)」のデイビッド・チャバーンCEOは、「政治広告」規制の運用開始前の5月18日付けで、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEO宛の公開書簡を送付

この中で、チャバーン氏は「メディアと支援団体とを混同させることで、報道とプロパガンダの境界を曖昧にする危険がある」と懸念を表明している。

さらに運用開始後の混乱を受け、6月11日付けで、NMAに加えて世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)など6団体との連名で、ザッカーバーグ氏にさらなる申し入れを行っている。

この中で、改めて、ニュースコンテンツと意見広告などの政治的コンテンツを「政治広告」という分類で一括することに懸念を表明。

「アーカイブ」からのメディアの除外と、その認定におけるNMA、WAN-IFRAなどの業界団体による協力を申し出ている。

だが、プロパブリカの取材に対する声明の中で、フェイスブックのグローバル・ニュースパートナーシップを担当するキャンベル・ブラウン氏は、メディアの除外については否定的のようだ。

「アーカイブ」の中で、メディアの広告に関しては、政治・意見広告とは別枠を用意する予定、としながら「ホワイトリスト」化はするつもりはない、という。

広告主のうち特定のグループ、この場合はメディア、をすべて除外するということは、我々の透明化の努力と、フェイスブックにおける選挙の公正性を強化する取り組みに反するものだ。悪人がメディアを名乗って身元を曖昧にすることに加担するような立場は取りたくない。

そして、2016年の米大統領選を混乱させるため、外国から政治広告を出稿したケースでは「メディア」を偽装するケースが多かった、とも述べているという。

●ロシア介入疑惑の余波

フェイスブックの「政治広告」規制の発端は、ロシアによる2016年米大統領選への介入疑惑だ。

ロシアのフェイクニュース工作(トロール)の専門業者「インターネット・リサーチ・エージェンシー(IRA)」が、米大統領選をはさむ2015年から2017年にかけてフェイスブックに3500件を超す広告を掲載

選挙に直接絡む内容に加え、その大半は人種問題や移民問題、銃規制など、米国の世論を分断するような幅広いテーマを扱っていたことが明らかになっている。

フェイスブックが選挙広告だけでなく、20項目にも及ぶテーマをあげて意見広告を規制するのも、この介入事例を踏まえてのことだろう。

また、法規制の動きも出ている。昨年10月には、民主党上院議員のマーク・ワーナー氏(バージニア)、エイミー・クロブチャー氏(ミネソタ)が、ネット上の政治広告規制の法案を提出。今年に入って、フェイスブックは法案の支持を表明している。

一方で、ワシントン州司法長官6月5日、政治広告に関する収益を適切に州政府に報告せず、州法に違反しているとしてフェイスブックグーグル両社を提訴している。

11月に中間選挙を控える米国では、大統領選をめぐる「政治広告」の問題は、まさに現在進行形の問題でもある、ということだろう。

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(2018年6月9日「新聞紙学的」より転載)