高額療養費という制度があります。
医療費が一定の金額を超えたときは、公費で負担しましょうという制度です。この自己負担限度額はそれぞれに収入に応じて決まっています。
例えば70歳未満の場合
住民税非課税 35,400円
年収370万円以下 57,600円
年収770万円以下 80,100+(医療費-267,000)x1%
年収1160万円下 167,400+(医療費-558,000)x1%
年収1160万円上 252,000+(医療費-842,000)x1%
となっています。
しかし、この高額療養費自己負担限度額には収入だけでなく、年齢も要件になっています。たとえば70-74歳の場合、そして75歳以上の後期高齢者医療制度の場合、
住民税非課税 15,000円または24,600円(収入に応じて)
年収370万円以下 44,400円
年収370万円以上 80,100+(医療費-267,000)x1%
となっていて、さらに外来の場合は
住民税非課税 8,000円
年収370万円以下 12,000円
年収370万円以上 44,400円
が上限です。
本来、医療「保険」ですから、外来よりも入院のような大きな病気等の場合にきちっと保障することが大事なので、外来の上限のほうが低いのはあまり合理的ではないのかもしれません。
このように現在の高額療養費の自己負担限度額は収入だけではなく、年齢も考慮されています。では、70歳以上の高齢者でも高額の所得のある方の自己負担限度額を70歳未満と同じようにしたら、医療費と負担額はどう変わってくるでしょうか。
自民党の行革推進本部で試算した結果があります。
70歳以上の高齢者で、年収770万円以上の方の高額療養費自己負担限度額を現役と同じ制度にして計算してみると
患者の自己負担の増加分は
70-74 20億円
75歳以上 160億円
合計 190億円(1億円の桁の四捨五入による)
自己負担額が上がることによって、受診が抑制され医療費が小さくなります。厚労省のモデルで予測してみると
70-74 -30億円
75歳以上 -190億円
合計 -220億円
この結果、医療保険からの給付は減少します。
70-74 20億円(自己負担増)+30億円(医療費の減少)
75歳以上160億円(自己負担増)+190億円(医療費の減少)
合計 50億円+360億円(四捨五入による)
この結果、毎年患者の自己負担増190億円(四捨五入による)に加えて、自己負担増がもたらす受診抑制により220億円分の医療費が削減されます。
その結果、毎年、410億円分の保険料負担と税負担が軽減されます。もちろんこれはあくまでも試算です。
410億円の保険料と税の負担軽減の内訳は
70-74 75歳以上
20 160 患者負担の増加*1
-30 -190 受診抑制による医療費の減少*2
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-50 -360 *1と*2による給付費の減少
-10 -50 給付費減のうち国費減少分
0 -20 給付費減のうち地方自治体負担減少分
-40 -- 健保から国保への拠出金減少分
-- -30 後期高齢者の保険料減少分
-- -260 健保・国保からの拠出金減少分
----------------------------
-50 -360 保険料及び税負担の減少
国費負担が合計して60億円の削減、地方自治体の負担が20億円の削減、後期高齢者の保険料負担の減少がおよそ30億円、健保・国保等から後期高齢者医療制度への拠出がおよそ260億円の減少、70-74歳の部分に関して健保等から国保への拠出が40億円の減少となります。
これは自民党の行革推進本部での試算の一つであり、政府でも与党でもこうした政策を実施すると決めたことはありません。
年齢を問わず同じ所得の方には同じ負担をしていただいたらどうなるかというシミュレーションです。
なるべく医療に与える影響を少なくし、公平に負担をいただくにはどうしたらよいか、いろいろなアイデアを出していきたいと思います。
みなさまには、ぜひ、負担のない給付はあり得ないことをご理解いただいて、持続可能な社会保障をどうやってつくっていったらよいか、関心を持ち続けていただきたいと思います。
(2014年10月23日「ごまめの歯ぎしり」より転載)