TWDW2日目に行なわれた公式プログラム「働かないで、働く。 ー For Your Life's Workー」イベントレポート。Evernote Japan上野美香氏が自身のキャリアを振り返りながら行なったセッションを書き起こし形式でお届けします。
急成長期を支えたエバーノート広報・マーケティング担当者
【登壇者】
Evernote Japan Director of Marketing & Communications
上野 美香
こんにちは。エバーノートでマーケティングと広報と両方を担当している上野美香と申します。まずは私の職歴などのお話をしたいと思います。
マーケティング部門では日本市場でのプロダクトリリースや情報発信、ユーザーコミュニティの育成、イベント、パートナー企業との協同マーケティング、広告などなど、市場を生み出すということをやっています。
広報としては、自社メディアを運営ですね。広報というとマスコミ対応と思われがちなんですが、エバーノートはマスコミだけではなくて直接ユーザーさんに向けた広報活動の方が強いです。
私がエバーノートに入った時は3年前、ちょうど震災があった2011年です。その時は日本のユーザーは100万人位だったと思います。それがいまでは700万超になりました。世界では600万人くらいだったと思いますが今では1億超。まさに成長の過程をずっと見てきました。
3年間で私たちが行なってきたことに、共通するポイントの一つとして、「前例のないこと」をずっとやってきたというものがあります。
まずチャレンジングなことだったことがフリーミアムというビジネスモデル。フリーミアムとは、無料のフリーとお金を払うプレミアムから生まれた造語です。
タダで製品を提供するので、値引といった従来の手法が全く必要ないんですね。他にもいろんな「前例のないチャレンジ」をやってきました。
前例のないチャレンジを続けていく
他にもこれだけのことをやってきました。ユーザーと直接コミュニケーションをとりながら、ブランディングしていくこと。それから、シリコンバレーのスタートアップでほとんど名前も知られてない時期に、大企業とのパートナーシップを結んだり。
また、エバーノートはコンシューマー向けの製品からスタートして、エンタープライズ分野に進出していった事例でもあります。今までの潮流は逆のパターンが多かったんですよね。エンタープライズ向けがコンシューマーにも使えるようになったり、研究されてるものがどんどんコンシューマー向けになったり。エバーノートはまったく逆の流れで、一つの代表事例なんじゃないかなと思います。
それからブログ・ウェブ中心の広報です。広報活動はかなり自由にやらせてもらってるんですが、今年はオンラインの枠を越えて、Evernote Daysという日本チーム主体で行なうイベントを2日間開催しました。
日本の小さなチームだけで、ユーザーカンファレンスをやりましょうっていうものですね。実際に1,000名以上のユーザーさんにご来場いただき、協賛企業は12社、メディアスポンサーも11社ついていただいて、23ものセッションを行ないました。
こんな仕事をしてるんですけど、エバーノートの中で、常日頃思ってることをいくつかまとめてみました。
・世界から学ぶ/世界に教える
・やるべきこと/今やらなくていいこと
・自分の専門分野を持つこと
まず「世界から学ぶ/世界に教える」ということについてです。エバーノートは世界に拠点があって、よく拠点間で取り組みの共有などを行なうんです。その時に先ほどのDaysのイベントなど、日本でこういうことやりました、こんなふうに有料のチケットを売ったよと話すと、台湾とか中国の仲間とかすごく興味をもって聞いてくれるんですね。その共有する文化がベースにあることで、他の国に展開されていくんです。ブラジルでは今度、Daysと同様のイベントが開催されるそうです。もちろん私たちも、アメリカやヨーロッパのチームなどから、さまざまな共有をしてもらって、日本で取り入れて実践していることがたくさんあります。
また、「やるべきことと/今やらなくていいこと」ということが明確にわかれているんです。今やらなくていいこと、やるべきじゃないことは特にアメリカ本社では「なかったもの」のように葬り去られるんですよね(笑)。日本の会社ではちょっと優先順位が下がるけど、やらなきゃいけないなぁと思っちゃうと、ToDoリストに入ったままになることってありませんか?
「今やるべきことはこれ」と決め、全精力を傾けてやる。プライオリティがすこしでも下がったものは一切やらない。そのくらい割り切れる考えは、すごく効率的でムダを省いているという側面に気づきました。
それから、「自分の専門分野を持つこと」。いろいろな国のスタッフとやりとりするために英語は必要なんですが、英語がぺらぺらで流暢かということよりも、市場の特性を知ってるか、これはできる、得意だと言える事があって相手に示せることのほうがよっぽど重要なんです。
日本人はオフ会が大好き!?
ここまでが今までエバーノートのお話です。実は今にいたるまでフリーランスの立場で仕事をしています。ここまで色んな仕事をやってきたので、その話をさせていただきますね。
大学で心理学を学んだ後、社会に出て最初に就いた職業はSEです。プロジェクトで胃を壊した事もありました。電車の中で気を失ったこともありますね(笑)。
そして最初の転職では、ベンチャーインキュベーションの会社にいきました。インターネットビジネス、起業家との出会いになった私のターニングポイントです。いまはMITメディアラボの所長をやってる伊藤 穰一さんの会社です。そこでインターネットがどれだけ面白いか、起業家という人はどんな人たちなのかっていうのを知りました。ここでは、多くのベンチャー企業と一緒に資金調達を行なうという業務に携わりました。投資事業もやっていたんですが、資金調達の支援もしていたんです。
その後、ベリサインというセキュリティの会社で上場準備、IR・投資家向けの情報提供に携わる仕事を行ないました。IRってとにかく数字と会社の計画と一致してるか、利益がちゃんと出てるかを伝えるっていう仕事なんです。IRは発表したことに対して、数ヶ月後にかならず投資家からのトラッキングが入るので、きちんと事実を確認して伝えていかないといけないんです。
ここまでは会社勤めで、それから今に至るまで、わたしはフリーランスとして仕事しています。
シックス・アパートでは広報に近い仕事もやりつつ、自社が運営するブログメディアの編集長をやったりしていました。エバーノートの直前はTwitterでお仕事をしていましたね。実はまだ、日本にTwitter Japanっていう会社が出来る前のことです。仕事をするきっかけは、ただのランチでした。
投資会社にいたときの先輩がTwitterに関わっていたのですが、彼とランチをした時に、仕事のことなんか考えず、いかにTwitterが心地いいサービスで、どれだけ好きかということを語ったんです。すると「仕事してみる?」みたいな話になって、「あ、じゃあやります」って(笑)。
Twitterでは、徹底的にユーザー目線のプロモーションをやりました。日本はオフ会とかイベントが大好きだと思います。Tweetup Tokyoというイベントには500人ほどが集まったんです。Twitterの創業者が来て交流するイベントやります!と告知するとユーザーがどんどんと集まって、テレビ取材も入りました。そんなイベントを通して、各方面で認知が増えていって、ユーザーさんもどんどんツイートしてくれるので、口コミで広がっていきました。
肩書をなくした自分にあってくれる人への感謝
フリーランスをやっている中で一番強く感じたのは、肩書のなくなった自分に会ってくれる人のありがたさです。
会社勤めをやめてから7ヶ月ほど無職の期間があったんですが、人に会うと「どうもこんにちは。上野と申します」というだけの挨拶になって、肩書きや所属する会社がないっていうのを初めて実感したんです。そのときから、肩書きに意味を感じなくなりました。
また、フリーランスをやってて強く思うのは「プロフェッショナルとして対価をいただいてる」ということです。プロとしてこういう価値を提供しているから、それに対して対価が払われているんだという認識です。正直、会社員の時にはあまり感じられていなかったことで、強く感じるようになりました。
でもこれってフリーランスかどうかは、全然関係ないですよね。たぶん会社の中でも一緒で、提供価値とそれに対する報酬、という意識は会社員でも持てるものだと思います。
また、自分がすごく「好きな事」と、好きとかそういうの関係ないけど、なんとなくできちゃう「出来る事」ってあると思うんですよね。この2つをちゃんと意識をして、好きなことに寄っていくと、いろいろとチャンスが巡ってきたり自分にとって幸せな仕事できるんじゃないかなと思います。「やりたいからやってる」という仕事だと、自分の能力を生かせる可能性が広がるんだと思います。
自分で自分(の体験)を好きなようにデザインする。
あとちょっと、「仕事と趣味の微妙なバランス」、「本業と副業」という捉え方についてお話しさせてください。
私はまずインターネット大好きです。ソーシャルメディアも大好きなので、Twitter、Facebook、Google+などなどいろんなとこにアカウントを持って個人として遊んだり発信しています。それが仕事に繋がった事も沢山あります。そして仕事もしつつ、趣味のような自分のプロジェクトのような、区分けがよくわからないことをいくつかやっています。
例えば、CODE BLUEという友達が立ち上げた国際情報セキュリティカンファレンスを手伝ったり、TEDxTokyoの運営チーム、音楽家の坂本龍一さんのサカモトソーシャルプロジェクトというライブ配信プロジェクトなどにボランティアで参加したりしました。オンラインだけで活動するバンドの広報もやったし、仕事と趣味という境界線もあいまいになってくるんですよね。
フリーランスでの仕事や個人的に参加するプロジェクトを通して考えたのは、「本業」と「副業」の境目についてです。「本業があるから」とか、「副業は...」って、個人的に違和感があるんです。「主」と「従」というような区分けではなくて、自分がやることはすべて本業、本気でやって楽しめばいいと思うんです。
私は仕事やボランティアをする上で、いくつか自分で決めてることがあります。
まず報酬がある仕事でもないものでも、自分が必ずコミットできることをすること。それから、人や社会にいい影響があることに関わりたい。そしてあらゆるものは必ず変化していく、という前提で考えるようにしてます。世の中の流れも技術もツールもすべて数年おきに変わっていきます。それに自分が柔軟に対応していくということを常に頭に入れておくといいんじゃないかと思っています。
自分の軸を持っていると、仕事やプロジェクト、好きな事っていうのは自分で探せるし、選べるし、作り上げられるんですね。おもちゃのレゴみたいに好きなように作っていける。自分で自分の体験をデザインして、発信していくと色々な気づきもあるし、周りから巻き込んでもらえる事も、自分から巻き込むこともできるんじゃないかなと思います。
駆け足でしたけど以上になります。ありがとうございました。
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