勝利というのは、相手にどう思いやりを示すかで決まるのかもしれない。
開催中のサッカー欧州選手権・EURO2020で、ドイツ代表の敗戦に泣いた子どもに、ネット上で辛らつな言葉が投げつけられた。
ところが一人のイギリス人が、「イギリス人全員がひどい人間じゃないと伝えたい」という思いからユニークな反撃をしたことで、温かな支援の輪が生まれている。
「非常に不快」元サッカー選手も怒り
ヨーロッパのみならず、世界中のサッカーファンが熱くなるEURO2020。6月29日に開催されたイングランド対ドイツ戦では、イングランドが2-0で勝利した。
この勝利はイギリスのサッカーファンを喜ばせるものだったが、その一方で、ネット上に敗戦したドイツのファンと思われる子どもの写真と中傷が投稿された。
元サッカー選手でイングランド代表だったスタン・コリモア氏は、「何も言う必要はない」というコメントとともに、その一部をTwitterでシェアした。
コリモア氏が投稿したスクリーンショットには、「泣けよちびナチ」などの見るに耐えないコメントが書かれている。
これを見た元サッカー選手のゲーリー・リネカー氏も「非常に不快だ。外国人嫌悪に吐き気がする」と怒りを表した。
イギリス人全員がひどい人間じゃないと伝えたい
イギリス・ニューポートに住むジョエル・ヒューズさんも、拡散したコリモア氏のツイートを目にした一人だ。
そして何かせずにはいられないと感じて思いついたのが、寄付を集めて子どもを笑顔にするプレゼントをすることだった。
ヒューズさんはクラウドファンディングサイト「ジャストギビング」でキャンペーンを立ち上げ、次のように呼びかけた。
「イングランドはドイツに勝利しました(素晴らしい)。しかしながら、ソーシャルメディアに投稿された泣いている女の子の写真には、見るに堪えないコメントが書き込まれています。控えめに言ってひどすぎる」
「このコメントは、この子だけではなく多くの人たちに影響すると思います。このキャンペーンは、ちょっとした善意の証として立ち上げました」
「集まったお金で、女の子の両親が彼女に何かご褒美を買うことができるかもしれません。そして私たちは、イギリス人全員がひどい人間じゃない、イギリス人の中にもあなたのことを大切に思っている人がいることを伝えられます」
もう堪えられない
ヒューズさんが元々設定した目標金額は500ポンド(約7万6000円)。ところが立ち上げから24時間以内に、1052ポンド(約16万円)が集まった。
ヒューズさんはニュースサイトのネーションカムリに、ネット上でのひどいコメントを見て「もう耐えられない」と思ったと語っている。
「ブレグジット以来、こういった外国人嫌悪がひどくなっていると思います。そしてイギリス政府はそれを助長していると言っていい」
「だから何かしたいと思ったんです。世界を変えるようなことや、女の子にひどいことを言った人達の心を変えるようなことはできないけれど、ちょっとした何かをしたいと思いました」
最終的に、キャンペーンには目標金額をはるかに上回る、3万6170ポンド(約551万円)が集まった。
また、探していた子どもの親もみつかった。クラウドファンディングで寄付が集まったことを知った子どもの両親は、全額をユニセフに寄付して欲しいと伝えたという。
両親は次のような感謝のコメントを寄せている。
「このような素晴らしい形でサポートをしてくださった皆さんすべてに、心から感謝します。娘はみなさんの優しさを知り、集まった寛大なお金をユニセフに寄付して欲しいと望んでいます」
ヒューズさんも「みなさんの助けがなければ、実現しませんでした」と賛同した全ての人への感謝をつづっている。
「キャンペーンに賛同してくださった皆さん、感謝してもしきれません。心の底から感謝をお伝えします」
「イギリス、ヨーロッパ、そして遠くは日本からも温かいメッセージを寄せていただきました。本当にありがとうございます。また多大なる支援をして下さったジャストギビングのチームと、ご家族が選んだ価値のある慈善団体であるユニセフにも感謝します。
そして最後に、このキャンペーンの中心であるご家族に特別な感謝をお伝えします。彼らの寛大さや勇気、礼儀正しさに感銘を受けました」