2025年、地雷のない世界を目指して

世界の8割の国と地域が対人地雷禁止条約に参加していますが、アメリカやロシア、中国、インドといった大国がいまだに参加していません。

今年は日本も加入している対人地雷禁止条約(オタワ条約)が1997年に成立してから20周年の節目の年です。2014年にオタワ条約の締約国は、2025年までに地雷のない世界を実現させるという目標を掲げました。これまでの20年間で世界はどこまで前進し、いまどんな課題に直面しているのでしょうか。

20年の成果

~世界の8割の国々が条約に参加、5100万個の対人地雷が廃棄~

オタワ条約とは対人地雷の使用、貯蔵、生産、移譲等を全面的に禁止し、貯蔵地雷の4年以内の廃棄、埋設地雷の10年以内の除去等を義務付けるとともに、地雷除去、被害者支援についての国際協力・援助等を規定したものです。

オタワ条約の締約国は、日本を含む122カ国から始まり、2017年4月現在、162カ国に増えました。全世界の8割以上の国々が締約国となり、未加盟国は35カ国を残すのみとなっています。

地雷除去も目覚ましい成果を挙げています。地雷が実際に使用されていた28の国と地域(26締約国、1非締約国、1地域)で今日までに完全に地雷が除去され、地雷の脅威から解放されました。締約国全体では5,100万個の貯蔵対人地雷が廃棄され、条約が発効した1999年には世界に1億6000万個あったと推定されていた対人地雷が、今日ではおよそ5,000万個まで減ったと考えられています。

残された課題

~大国の不参加、遅れる被害者支援~

世界の8割の国と地域が条約に参加していますが、アメリカやロシア、中国、インドといった大国がいまだに参加していません。これらの国々は、大量の貯蔵地雷を抱えており、世界に残っている対人地雷の約8割がこれらの国々に眠っていると考えられています。また、中国やインドに至っては、未だ地雷を生産しているとされています。対人地雷の廃絶には、こうした国々の参加が不可欠です。

財政難や新たな紛争の勃発で、地雷除去や廃棄がなかなか進まない国も多く残されています。条約では加盟から10年以内にすべての地雷を除去することを義務付けていますが、29カ国はその期限を延長しています。何度も延長を繰り返す国もあります。

また、地雷の除去や廃棄に関しては条約の中でも明確に手順が提示されていますが、被害者に必要な支援は医療やリハビリ、心理サポート、生計活動など、非常に多岐にわたっており、明確な手順はありません。

また、地雷除去の分野であれば、地雷を取り除いた土地はそれ以降、安全な土地として活用が可能になりますが、被害者は生涯にわたり多面的な支援を続ける必要があります。そのため、支援を求める人が多くいるにも関わらず、支援がなかなか進まなかったり、なされても続かなかったり、ごくわずかな被害者にしか届かなかったりと、課題が山積しています。

いま直面する新たな脅威

~再び急増する被害、国際社会の関心の低下~

条約の成立以降、さまざまな困難はありつつも、地雷のない世界の実現に向けて着実に進んでいました。しかし近年、新たな脅威に直面しています。

1999年に初めて調査をした時の地雷被害者数は、9,220人でした。翌年以降、毎年新たな地雷被害者が報告されてきましたが、その数は着実に減り続け、2013年の新たな地雷被害者の報告は3,353人にまで減少していました。しかし、2014年にはその数は3,695人、2015年には6,461人と急激な増加がみられ、一度は収束に向かうと思われた地雷問題が再燃している現実が明らかになりました。

非国家勢力による地雷使用

条約に加盟する国は増えてきたものの、近年は非国家勢力による地雷の使用が、国家による使用を上回っています。これは、「条約」という国家間の取り決めによる対策だけでは限界があることを示しています。

2015年10月~16年10月の1年間では、締約国による地雷の使用はないにもかかわらず、条約に加入していない3カ国(ミャンマー、北朝鮮、シリア)での使用に加え、加入している10カ国(アフガニスタン、コロンビア、イラク、リビア、ミャンマー、ナイジェリア、パキスタン、シリア、ウクライナ、イエメン)での非国家勢力による地雷使用が報告されています。

2015年の地雷被害者数の急増はリビア、シリア、ウクライナ、イエメンにおける内戦での地雷被害が主な原因とされ、そこでも非国家勢力による地雷使用が問題視されています。

即席爆発装置(IED)による被害の急増

もう一つの大きな課題は、即席爆発装置(IED)による被害の増加です。2015年には1,331人がIEDの被害に遭っており、これまでで最も多い被害者数を記録しました。IEDも、人の接近や接触で爆発する種類のものはオタワ条約の対象となっており、その使用も生産も禁止されていますが、多くの場合、IEDは非国家武装勢力が国家の知り得ない場所で生産・使用しており、条約の枠内で取り締まることが非常に困難です。

国際社会による地雷問題解決への支援の低下

支援の面においても、条約成立前よりは高い水準にあるものの、直近の3年間は連続して支援金額が減少しており、条約成立から20年経って、地雷対策に対する国際的な関心の低下が懸念されています。

以上のように、オタワ条約は一定の成果を挙げつつも、残された課題に加え、新たな課題も顕在化しており、地雷問題を巡る情勢は再び深刻になっています。新たな脅威に対しては、これまで通りの対策を続けていくだけではもはや立ち行きません。

AAR Japan[難民を助ける会]は、条約成立に際し国際キャンペーンの一員としてその推進役を担い、条約成立後もアフガニスタンやスーダン、シリアなど、各国で地雷対策活動を続けています。世界で、AARの活動地で、地雷を取り巻く状況が大きく変化する中、AARは2025年の地雷のない世界の実現に向けて、またその後も地雷被害者が苦しまない世界に向けて、地雷対策活動をさらに強化していきます。

※この記事中のデータは、地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)発行『Landmine Monitor 2016』を参照しています。ここに挙げられた被害者数などは、公に報告された数字のみであり、 実際には数倍の被害に及んでいると考えられています。