文部科学省が2020年4月から導入する予定だった「大学入試英語成績提供システム」について、萩生田光一文部科学大臣は11月1日、実施を見送ることを発表した。民間試験の活用の有無も含めて検討を進め、2024年度での新制度の導入を目指すという。
英語の民間試験は、なぜ大学入試の合否判定に使われようとされ、反対の声が上がっていたのか。その経緯を振り返る。
■なぜ民間試験?鍵は「4技能」
文部科学省が英語の民間試験活用に踏み切った背景には、英語を用いたコミュニケーション能力に課題があるという問題意識がある。
高校3年生の英語力について特に「話す」「書く」能力に課題があるとして、「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能をバランス良く伸ばすことが重要だとしている。
一方で、現在の大学入試センター試験で測れるのは「読む(リーディング)」と「聞く(リスニング)」の2つの分野のみ。
この試験で「話す」「書く」力を測定することについて、文科省は「日程面も含めて現状において実現は極めて困難」としている。
そこで文科省は「話す」「書く」力も試される民間の英語試験を大学入試の合否判定に使えるようにすることで、高校で行われる受験を意識した英語教育を改善させようと考えたのだ。
■2回分のスコアを登録
実施された場合、どのような運用になるのか。文科省の資料によると、受験生はまず「共通ID」の交付を受け、国が選んだ民間事業者の試験を受ける。
試験を受けると、そのスコアは「大学入試センター」に一元的に集約される。
そして、受験生が大学に出願すると、受験する年度の4月から12月に受けたテストのうち「共通ID」を記入した試験、最大2回分のスコアが志願した大学に提供される。大学側は、その点数を合否判定に活用する、というものだ。
対象となる民間試験は、6団体が実施する22の試験(一覧はこちらから)。
■相次ぐ反対、見送り決定
しかしこの方針には反対の声も上がった。複数回、民間試験を受けなければならないのに、高いもので2万円を超える検定料を負担する必要があるほか、受験会場が限られるものもある。
例えば、裕福な家庭の子どもの場合、「練習」として検定を何度も受験できるなど、住む場所や家庭の経済的状況により受験生が不利になる可能性が指摘された。10月24日には、立憲民主党など野党4党も導入延期を求める法案を衆議院に提出していた。
こうした反対の声を結果的に強めたのが、萩生田大臣の発言だった。BSのテレビ番組で、民間試験を受験できる環境の不公平さについて指摘された際、「身の丈に合わせて頑張って」などと発言したのだ。
萩生田大臣はのちにこの発言を撤回し謝罪した。
■大臣がメッセージ
そして11月1日、萩生田大臣は2020年からの実施について見送りを発表。大臣は受験生と保護者に向けてメッセージを掲載した。
「大学入試における英語民間試験に向けて、今日まで熱心に勉強に取り組んで
いる高校生も多いと思います。今回の決定でそうした皆様との約束を果たせな
くなってしまったことを、大変申し訳なく思います」と陳謝した。
実施見送りの理由については「経済的な状況や居住している地域にかかわらず、等しく安心して受けられるようにするためには、更なる時間が必要だと判断するに至りました」と説明した。
その上で「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能の必要性を改めて強調し、「それぞれの目標に向かって努力を積み重ねて頂きたい」と呼びかけた。