大変遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
5年前の1月12日に常夏シンガポールから雪のロンドンにやってきました。あれから5年、滞在ビザが切れたので家族全員のビザ更新申請をし、許可されたような旨のレターを受け取ったのであと5年はいられるようです。
5年の間に3人子どもを産み、1回大キャリアチェンジをし、4回引っ越して、1回家を買って改装をしました。家族もキャリアも「創造期」で大きなエネルギーを使い、いっぱいいっぱいだったので、次の5年は家族もキャリアもじっくり育てる「育成期」にしたいと思っています。
妊娠7ヵ月でシンガポールという青年期の国からイギリスという成熟国(日本からみると衰退国の先輩)に移るにあたり、急速に変化する世界勢力図の中で成熟国で子育てしながら続けるキャリアを模索していました(→『成熟国からの視点』、『人生とはやりたいことを探し続けるプロセス』)。そこで決めたことは、大企業の中でのテクノロジー事業開発・投資というそれまでのマッチョなキャリアから、建築インテリアデザイナーというクリエイティブ業への一大キャリアチェンジでした(→『クリエイターになりたい。』)。
もちろんロンドンというクリエイティブな都市にインスピレーションを受けたからですが、典型的な先進国の知的産業であるクリエイティブ産業はイギリスの経済の柱に育ちつつあります。私のキャリアチェンジはその流れに沿った(成長産業に身を置く)ものです。今回から数回に渡り、イギリスのクリエイティブ産業とそのエコシステムを紹介します。
第1回はさらっと外観をおさらいします。
イギリスではブレア政権(1997年-2007年)が世界で初めてクリエイティブ産業についてのレポートを発表し英国経済活性化の中心政策のひとつとしました。サッチャー政権で経済構造改革が行われたイギリスでは新規産業による雇用創出と輸出産業の育成が課題となっていたからです。イギリスではクリエイティブ産業(Creative Industries)は以下のように定義されています。
個人の創造性を起源とし、知的財産の活用を通じて富や雇用を産み出す可能性のある産業
クリエイティブ産業と定義されている分野は以下の通り。
Advertising and marketing(広告とマーケティング)
Architecture(建築)
Crafts(工芸)
Design: product, graphic and fashion design(デザイン:工業、グラフィック、ファッション)
Film, TV, video, radio and photography(映画、テレビ、ビデオ、ラジオ、写真)
IT, software and computer services(IT、ソフトウェア、コンピューターサービス)
Publishing(出版)
Museums, galleries and libraries(博物館、ギャラリー、図書館)
Music, performing and visual arts(音楽、演劇、ビジュアルアーツ)
そして、以下が1997年から2013年の間のクリエイティブ産業全体が雇用・GVA(付加価値)・輸出額の指標で出した結果です(いずれもDCMS(文化・メディア・スポーツ省)のレポート"Creative Industries Economic Estimates January 2015"より)。
1990年代から頻繁に訪れていたロンドン、昔から「エッジー」でしたが、ミレニアム頃から急速に「クール」、「時代の先をいってる」感が出てきました。今はグローバル都市ランキングのトップ常連(→『ロンドン栄光の時代?』)、イギリスもソフトパワーランキングのトップ常連(雑誌MonocleのSoft Power Survey2014/15は1. 米、2. 独、3. 英、4. 日、5. 仏)。
この地位上昇に大いに貢献したクリエイティブ業界、最も速いスピードで成長する成長産業であり、英国経済全体の大黒柱に育っており、現在はクリエイティブ経済で働く人は12人に1人にのぼります。
Financial Times: Strong performance by creative industries boosts UK economy
リチャード・フロリダの『クリエイティブ都市論』で指摘されたようにそういう場所は人を惹き付けます、ロンドンは80年ぶりに史上最高の人口を記録するようです。
Financial Times: London's record population will set the city huge challenges
日本ではクリエイティブ業って儲からないイメージがあるので、しっかり収益が出ていて経済の大黒柱に育っているとは嬉しい(もちろん事業体の収益が出ていることと、所属する個人の所得が高いことは別ものですが)。
今日は経済全体を数字で追ったので、次回はビジュアルでみてみたいと思います。
<参考>
三菱UFJリサーチ&コンサルティング:英国の「クリエイティブ産業」政策に関する研究
(2015年1月18日「世界級ライフスタイルのつくり方」より転載)