若者が動かしたイギリス総選挙。コービンが選ばれた理由と日本への示唆

今回若者の投票率が高かったのは、EU離脱が決まった昨年の国民投票の教訓が活かされた点も大きい。

6月8日イギリスで行われた総選挙は、予想に反し、テリーザ・メイ首相率いる与党・保守党の過半数割れに終わった。

今年4月、メイ首相は保守党の高い支持率を背景に(解散当時は保守党の支持率は44%、労働党は23%)、EU離脱を円滑に進めるため解散・総選挙を打ち出したが、結果は見事に失敗、逆に議席を失うこととなった。

連立がどうなるかなど不透明な面が多いが、ハード・ブレグジットからソフト・ブレグジットへとEU離脱の形が変わる可能性も高い。

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議席を失ったのは"たかが"13議席であるが、2020年まで選挙はやらないと明言していたにも関わらず、他党の"分裂"と支持率低迷を背景に急遽選挙をやると決めたのであるから13議席"も"という表現が正しい。

つまり、余計なことをした訳である。デーヴィット・キャメロン前首相の失敗、保守党内のEU離脱派と残留派をまとめる手段として国民投票を用い想定外の結果を引き起こした、と同様の失敗を犯したと言っても過言ではない。

一方、最大野党であり ジェレミー・コービン率いる労働党は躍進。この躍進を支えたのが若者の動きにある。

今回は投票した若者

ちょうど1年前の2016年6月23日、Brexitの是非を問う国民投票が行われ、世代間の大きな意見の相違から、シルバーデモクラシーの弊害が度々指摘された。

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出典:Lord Ashcroft Polls

そして今回も同様に、世代間の意見の相違は大きい。

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出典:YouGov

しかし、Brexitを決めた国民投票と今回の総選挙で結果を分けたのは、若者の投票率の違いだ。

2016年の国民投票では全世代の平均投票率は72%だったのに対し、18歳〜24歳は36%、25歳〜34歳は58%と、多くの若者は投票に行かなかったが(2015年総選挙では18歳〜24歳の投票率が43%、25歳〜34歳は54%)、今回は18歳〜24歳が約58%、 25歳〜34歳は約62%と投票率を大きく伸ばしている(YouGovだと58%だが、Sky Dataによると18歳〜24歳の投票率は66.4%)。

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出典:Ipsos Mori&YouGov

※2017Electionは集計データの年齢幅が異なるため一部推測

若者はなぜ労働党を支持したのか?

ではなぜ今回若者はコービンを支持し、投票に行ったのか。

メイ首相の数々の方向転換による不信感の高まりや党内をまとめられないリーダーシップの欠如、メディア対応の下手さなど、様々な理由が挙げられているが、最大の理由は「反緊縮」という強いメッセージだ。

上述の通り、解散・総選挙を行うと決めた4月時点では保守党と労働党の支持率の差は大きかったが、5月中旬に両党のマニフェストが発表されると風向きは一転。

労働党の左派政策は若年層の支持を集め、高齢者介護の本人負担増(認知症税)を打ち出した保守党の政策は不人気で支持率が下落、その後メイ首相が公約を修正することでさらなる批判を集めた。

保守党のマニフェストは、「現実主義的」に社会保障での国民負担を増やし、子どもや看護師の貧困削減よりも財政健全化を目指すものであり、Brexitについて多くのページが割かれたものであった。

さらに、少数の側近のみで作成されたというマニフェストが象徴するように、党内での盛り上がりに欠け、選挙運動も精力的に行わないなど、驕りさえ見られた。

対する労働党のマニフェストは、医療サービス(NHS)への大規模支出と大学授業料の再無償化(+奨学金返済の清算・減免も検討)など、国民の不満をいかに解消するかという「希望に満ちた」政策パッケージであり、緊縮政策を止めようという強いメッセージであった。

また、増税の対象として、労働党は高所得層への増税や大企業への負担増加を訴えたが、保守党は法人税の引き下げを主張するなど、大きな違いが見られた 。

もちろん労働党のマニフェストは鉄道会社の国営化など前近代的な政策も見られるが、それ以上に「反緊縮政策」が支持を集めたと言えよう。

そして何より、今回若者の投票率が高かったのは、EU離脱が決まった昨年の国民投票の教訓が活かされた点も大きい。

日本への示唆

以上、イギリスの総選挙の結果を見てきた。「若者の反乱」など、様々な形で今回の若者の動きが表現されているが、日本でも同様のことは起きるのだろうか。

結論から言うと、日本で同様のことはすぐには起こらないだろう。なぜなら、イギリスとは逆のことが起きているからだ。

イギリスでは、与党である保守党が「緊縮政策」を掲げ、野党の労働党が「反緊縮政策」を掲げていたが、日本では野党の民進党が与党以上に「緊縮政策」を掲げており、若者が野党に流れる可能性は非常に低い。

実際、日本では若者が与党・自民党を支持しているのが現状である。2016年の参院選でも多くの若者が自民党に投票したが、TBS系列のJNNによる最新の世論調査では20代の若者の安倍政権の支持率は68%にも達している。

「アベノミクス」と題した大規模な金融緩和は一般的には左派政策であり、デフレ脱却は世代間格差も是正する。「賃金が上がらない」という課題はあるものの、失業率は低下を続けており、労働環境は改善されつつある。

野党に必要なのは、正社員と非正規社員の格差是正や再分配の強化であるが、その政策パッケージは用意されておらず、正社員の雇用維持を最も重視する連合の支持を受けている民進党では実現性にも乏しい。

第一、イギリスのメイ首相と同様に、政局ばかりを気にして生活を改善する意欲に乏しいように見える(メイ首相の最大の失策は、Brexitが支持されたのも生活の困窮が大きな要因であったという国民心情を読めていなかった点だ)。

こうした理由から、現時点で若者が野党を支持するのは想像に難しく、「若者の反乱」は起きそうにない。

その意味では、現状の低投票率でも問題はないのかもしれないが、イギリスの国民投票と総選挙が教えてくれたのは、やはり投票は重要であり、投票に行けば結果が変わるかもしれない、というシンプルな事実である。

(2017年6月21日「Yahoo!ニュース個人」より転載)